第643話「獄卒擬きの正体」



「テメェ!こんな状況でも人間の側につくか!?ここまで来るとその馬鹿さ加減には笑えねぇぞ!あのガキ瀕死にして地獄に連れ帰れば済むだろうが!」



「地獄に連れて行けば『変異』して魔物になるだろうが!馬鹿はお前だよ!」



 どうやらヘカテイアも獄卒擬きと同じ案は持っていたが、冷静に天秤にかけた結果、連れ帰るより僕の妙案を聞く気になった様だ。



 獄卒擬きの盲点は、敵はヘカテイアだけでは無いと言う事だ。


 僕に手を出そうとすれば、周辺の冒険者は全員敵になるのは当然だ。



 元々敵対関係にあり、それに変化を齎したのがヘカテイアだった……相手の戦力を見誤ったのは人間は貧弱な生き物でいつでも勝てると思った驕りだろう。



 そもそも手が出せないと感じていたのは『一般の冒険者』であって、カナミとミサは2対1なら余裕だと感じていた。


 そこにヘカテイアが加われば負ける要素が無い……とも思っていたのだ。



 ミサに至っては周りからの邪魔……即ちヘカテイアの邪魔が入らなければ獄卒擬きは余裕だった。



 短時間決戦……力の限りゴリ押しですり潰すだけだ……そしてコアの魔石を砕けば終わりと考えていた。



 彼女達がそうしないのは『周りに存在がバレたら困る』からだ。



 カナミは当然S級冒険者の雛美としての過去がある。


 そしてミサはと言えば、帝国領で『英雄』と呼ばれる働きをしていた……



 皆には言わなかったが、彼女は元の世界に帰る手段を探す過程で、村の脅威である魔物を駆除して回ったのだ。


 始祖と呼ばれるヴァンパイアまで討滅した彼女は、剣技を極めた。


 細分化するヴァンパイアを始末するのは楽ではないのだ。



 金級冒険者がミサの戦い方を見れば、その情報に行き着くのは彼女としては分かりきっていた。


 カナミと相談した結果『お互い大人しくしていよう……』となったのだ。



 もしこの現場がファイアフォックスだけであれば、彼女達は遠慮などせず片付けた筈だった。



 今獄卒擬きが無闇に自分から突っ込んできたのであれば、それに合わせて剣を振るうだけだ。



「くそが!この結界を解け、ヘカテイア!!」



「黙って聞いてるんだね?敗者は……それが決まりだろう?マンモーン……いや……人間相手にわかる名前ではアモンと言った方がいいかい?」



 言われたその名前は『悪魔』その者で間違いは無い……



「悪魔……マンモーン?って事はマモンですよね?地獄の7君主の一人じゃ無いですか!富や財を意味する意味であって悪魔でもありますよね?でも……アモンでもあるんですか?序列7位悪魔の侯爵ですよね……何故こんなところに?っていうか……マモンとアモンでは階級にかなり差がありますよね?何故そもそも獄卒なんかに?」



 僕がそう言うと、獄卒擬きはビックリして僕をみる……



「お前……何故俺に詳しい?何故……名前で俺が地獄の君主の一人だとわかる?………お前………何者だ?……オイ!!ヘカテイア……お前……奴が俺を知っている事を知ってたのか?」



「ワタシが知っている筈ないだろう?今アンタの名前を言ったワタシが驚いてんだから!…………」



 僕が名前と存在を言い当てたせいで、周りの冒険者からも注目を浴びる……



「今はそれより案があるんですよ!そっちの封印については情報が少ないからなんとも言えませんけど、でもヘカテイアさんは気になる『何か』を探しに行けて、マモンさんは同行出来ます!」



「「「はぁ!?何でそうなるんだよ!?」」」



 ギルドメンバーと金級冒険者全員から即突っ込みが起きる……



 僕がホムンクルスを作っている間にトラボルタ達は無事戻ってきた様だが、今は構っている場合ではない。



「おい!ヘカテイア……コイツ……何言ってんだ?意味がわかんねぇぞ?」



「ワタシも想定外で何言ってるか……って言うか……ワタシだって、この子が何考えてるかわかんないわよ………」



 マモンはヘカテイアに状況の説明を求めるが、彼女が当然答えを知っているわけはない。


 なのでダンジョンコアの説明を掻い摘んで話す。



「元々ヘカテイアさんは外に地獄の外に用事があったんですよね?それを手助けする代わりに、無闇矢鱈に人族への手出しを辞めてもらう約束をしてください。何かをするときは必ずホウレンソウをしてください!」



「ちょっと待って!……何よ?ホウレンソウって!?」


「がははははは!悪魔をこの世界に解き放つ代わりに手出し禁止?意味がわからんな……何がしたい?何が目的だ?」



「そもそも『貴方達二人』が何がしたいかも分からないんですけど?呼び出された貴方達の本来の目的は階層主として戦う事でしょう?僕にはそれをする気が無いと感じますけど?それにヘカテイアさんの目的も、マモンさんの封印も詳細が分かりませんし。だからヘカテイアさんが何かを探しに行くなら、それの手段を。そして逃したくないマモンさんには着いていく手段を渡そうかと……」



「ガハハハハ……まさか俺がこんな質問を逆にされるとはな!………だが……その申し出を断ったら?………」



「帰ってもらうに決まってるでしょう?私達が貴方に負ける筈ないじゃない……貴方が勝てる見込みは今はないわよ?ヘカテイアも含めて3対1なんだから……そうよね?カナミちゃん?」



「ええ……そうねミサちゃん。そもそも私達が本気で戦えば何とでもなる相手だし。あなたの本体ならまだしも……。それは自分が一番よく知っているんじゃない?」



 ミサとカナミは戦闘慣れしているので何かを感じている様だ。



「ガハハハ!面白い……戦ってみたいものだな……」



「戦えばいいと思うわよ?ついてくるとか言われるとワタシ的には鬱陶しいから……死んで戻りなさいよ?」



 ヘカテイアのとても辛辣な言葉だったが、心からそう思っているのだろう……彼女の見せた嫌な顔が印象的だ。



「それで?私達は何をしたら、その面白そうなことに首を突っ込めるのかしら?」



「ホムンクルスのコアを作る必要があるんです。それには一応意識コアを作る必要があるんですよ。本来は……」



 僕が説明をしようとすると、二人は大笑いを始める。



「ホ………ホムンクルス!?ぶははは!!」



「言うに事欠いてホムンクルス?坊や……それは無理よ?本体を作るだけで貴方がお爺さんになるまでかかるわよ?」



 僕はカチンと来て、作った素体をマジックグローブから出して床に揃えて置く。



「ちょっと!ヒロさん!ホムンクルスって……この二人?ホムンクルスにこんな有名俳優使ったの?って言うかどうやったのよ?」



「って言うか……待ってくれ!このCMで見る顔立ち……俺この人の滅茶苦茶ファンだぜ!間近で見ると本当にすげぇ美人だな……」



 ユイナとソウマのその言葉に周りの冒険者達も覗き込む……



 ミクとアーチは某男性俳優のホムンクルスを見て……『キャーキャー』言っている。



 ミサとカナミは某女性俳優のホムンクルスをマジマジ見て……『めっちゃこの人好き!』と言っている……そのあとドラマの話で盛り上がり始めた。



 しかしヘカテイアとマモンの反応は皆とは正反対で驚きで声が出ない……



「これで信じてもらえました?誰が何を作れないと?貴方達が作れないからと言って、僕に当て嵌めないでくれますか?お断りするならどうぞお引き取りを。気に食わないなら地獄へ帰っても良いですよ?」



 僕は馬鹿にされたので、これでもか!という感じで上から目線物を言う。



「くっくっく……これがホムンクルスという証拠は?単なる亡骸だろうが!」



「ワタシはこれでいいわ……別にホムンクルスでも無くても。それによく見たら綺麗な顔立ちじゃない……コイツ等の態度を見れば、この素体がどれくらい目を引くかもわかるしね。それに今の姿だと『ワタシだとバレる』からちょうど良いわ」


 ヘカテイアがそういうと、マモンは男の素体を見て周りを見た……

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