第641話「ホムンクルスの心臓」
だが問題は、獄卒の危険性を貴族が目の当たりにしたと言う事だった。
「ウーバイ男爵様……無理だ……あんな化け物は無理だ!!トール伯爵とルーガ子爵の口車に、危うく乗る所だった!」
「当たり前だ!ホーシ子爵……あんな……振り返り際に手を振っただけだぞ!?3回だ!3回でミンチに……ご自慢のマジックアイテムのタリスマンは何の役にも立たんではないか!」
どうやら僕達が来る前に3回手を振ってほぼ全滅したそうだ。
そのあと、ヘカテイアの行動で思い通りに行かない獄卒擬きは、憂さ晴らしに一人ずつ残った冒険者を引き裂いた様だ……
「何故お前達はそんなに馬鹿なのだ!?侵入した冒険者は3グループだぞ?新たに同数の魔物が最低湧くではないか!!馬鹿者め。せっかくヒロ男爵とエクシア達が、命をかけてあの大群を減らしたばかりだと言うのに……新たな魔物3グループだと?何故我が金級冒険者が此処で指を咥えているかわかっておらんのか?魔物を増やさぬ為だ!!何もかも全てを無駄にしおって!!」
ソーラー侯爵はそう言ったあと指を刺す……
そこには新たに3つの魔法陣が浮かび上がる……
この3つの魔法陣を合計して計算すると、全部で11パーティの魔物が沸いたことになる。
それに加えて元から居た、階層ボスのホブゴブリン・チャンピオンとホブゴブリンの合計六匹の他に、ゴブリン・レイダースが2パーティだ。
その殆どはアクアプリンが捕食したが……
その計算をしていただろうソーラー侯爵の怒りは、凄まじい物があった。
「父上……怒りは最もですが、今はそんな事言っていても仕方ありません。最早中には入れません……もう既に先程とは状況が大きく異なります」
「く!リーチウムが此処まで頼もしく感じるとはな……歳はとりたくないものだ……よもやこの私がこの様な有り様とは情けない。手も足も出ない……代案もない」
頭を抱えて急に老け込むソーラー侯爵だったが、僕は喝を入れる。
「ソーラー侯爵さっさと機嫌を直して騎士団率いて上に行ってくださいよ?作戦始まりませんから!馬鹿は後ろの貴族達だけで十分ですから!」
ギョッとして僕を見るソーラー侯爵だった。
「お……お主諦めんのか?あの化け物を目の前に……更に配下の軍勢まで増えたのだぞ?既に出てきた魔物のレベルはさっきとは比べ様もないぞ?」
「だからこそ急いでるんでしょう?変な事をこれ以上しでかす前になんとかしたいんですってば……此処に立ち寄って問題が起きたけど、今は早くスタンピードを止めて、この階層の異常状態を止める事です。単純に今此処でのここの目的はそれだけですから!目的はあの馬鹿殿達を止める事ではないんですよ?分かってます?そもそも僕の『目的は此処じゃない』ですから!」
僕がそう言うと、エクシアとテカーリンは呆れて……
「マジかよ?この後そのまま最下層へ降りるのか?馬鹿だろうお前?既に物凄く疲れたんですけど?」
「そう言うなエクシア……まぁ俺も目的があって来たから文句は言えないしな!だが……本当に馬鹿だな?」
その言葉を聞いてソーラー侯爵は自分の騎士団と上に向かい準備をする。
「馬鹿どもめ!いいかこれから先は此処の冒険者達の迷惑にしかならん。お前達は我に続き上の階層へ向かう。この一連が落ち着くまでは外に出られんぞ!いいか……ダンジョンから出ようとすれば迷う事なく斬り捨てる。ダンジョン深化を避けるためだ。いいな?二度と馬鹿な真似を考えるでないぞ!」
「そ!そんな……ソーラー侯爵様では我々はいつ帰れるんですか?ヒロ男爵と我が金級冒険者が全て事を収める。いいかそれまでは誰一人として外へ出ることは許さん!分かったな?」
そう言って既に残っている兵士がゴロツキだけとは知らないソーラー侯爵は、彼等に流れを説明する。
「お……俺達は冒険者じゃねぇんですよ!街で金になるから雇われろって……スラムで寝泊まりしているだけなんですよ!だから帰らせてください。魔物と戦うなど到底無理だ!居るだけで良いって言うからついて来たんだよ!」
「そうですよ!貴族様俺も剣なんか使えねぇよ!」
衝撃の事実を暴露し始める面々に、大慌てのソーラー侯爵……
「ああ……じゃあゴロツキは此処の端で蹲ってて荷物番しててください。上で死なれてアンデッドになると困るから!そっちの方がはるかに脅威ですから」
「じゃあ……ソーラー侯爵様は貴族のお守りはお願いしますね?ギルマスのテカーリンさんとデーガンさんはこのゴロツキ管理をお願いします。逃げ出さない様にしてください」
「逃げねぇよ!逃げても死ぬだけじゃんか!」
「ああ!荷物でも飯の準備でもなんでもするから生きたまま此処から出させてください!お願いします!!」
「「「「「お願いします!!」」」」」
今まで太々しい態度だったゴロツキは一瞬で丸くなる……恐怖は人を成長させる様だ。
「じゃあ皆さんはぎて此処で起きたことは『内密』にしてくださいね?じゃないと貴族不敬罪にしちゃいますよ?」
「「「言いません!!」」」
僕達はソーラー侯爵と天響の咆哮のトラボルタ達を見送る。
「じゃあヒロ第一層に行って、大広間に一度向かうよ。そこでゴブリンを狩っていそうな冒険者を雇って貴族を押し付けたら戻ってくる」
「はい!ひとまずはこの貴族達が外に出ない様にと、生き残れる様に準備をお願いします」
短くトラボルタと会話をしてから、金にうるさい貴族へダンジョン内の冒険者は高い買い物になると伝える……
「貴方達貴族は報酬をケチる真似だけはしない様に。ダンジョンでの雇用は『割高』ですからね!」
「大丈夫だ!金に糸目などつけない!死にたくない!!」
「俺もだ!此処まで危険な場所とは……絶対に2パーティーは雇う!!身の安全には変えられん!!」
僕は肉片に変わり果てた冒険者達のことを言おうと思ったが、先が長くなるので辞めることにした。
早く全てを終わらせて遺体回収をしないと『アンデッド』になってしまうのだ。
運良く魔物はその遺体に群れたりはしていないので、今ならばしっかり弔えそうだ。
『フィィーーーーーン』と音を立てて転移の魔法陣が浮かぶ。
「トラボルタ達は向かったな……じゃあアタイ達はどうする?「マジックアイテム」って何作るんだ?」
「ひとまず必要なのは『ゴーレム』の親戚みたいな物です。『ホムンクルス』ですけど知ってます?」
そう言ったら全員が口々に『そうやって……絶対また変な物作る!!』と騒ぎ出した……
僕は作る手順を見られたくないので、マジックテントを設置する。
僕が制作中の間に皆には休息を取ってもらうのだ。
「なんか……悪いね?風呂入って一眠りさせて貰うわ……完全に疲れててね……ああ!こんな事になるなら、ホプキンスから酒もらっとくんだった!」
そんな事を言うエクシアだったが、顔には疲れが出ている。
相当無理をしているのだろう。
「大丈夫ですよ!早く風呂入って軽く寝た方がいいですよ?そんなに長くはかからないですから」
ひとまず安全部屋で素体となるギガンテック・ブラックマンバの切り分けた胴体部分から肉片を切り分ける。
丁度いいので保管用にユイナとミサに肉を渡すと、『美味しそうな肉!』と言って調理を始め出す。
僕はそれを横目で見つつ……『疲れより食欲』なんだなぁ……と思いつつ極太の背骨を抜き取る。
錬金の書によると魔物の剥いだ表皮と骨はそのまま利用するそうだ。
扱う質と強度により、ホムンクルスの素体に多く影響が出ると言う。
そして魔石を取り出し、錬金の序に書いてあるように魔力を込めたままブラックマンバの肉で覆う……肉は薄くスライスして巻く感じにした。
やり方が書いていないので、巻く感じに試したが……
それでダメなら魔力ミキサーでミンチにした肉を捏ねて、魔石を中に入れるしか無い……
まるで魔石入りハンバーグだが……
この段階が一番最初の関門で、錬金の書のはかなり失敗すると書いてあった。
たしかに魔力の消費はとても激しい。
魔石に魔力を通したまま、周りの魔物肉にまで魔力を通さなければならない。
行き渡らせると言うより僕は、魔力に浸す感じにした。
すると脈打ち始める魔石。
どうやら1段階目の難所は無事に作れたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。