第640話「聴く耳を持たぬ者……貴族の欲望は底知れず」


「な!?なんだよ?間違ったこと言ってねぇだろう?」



「だって姉さん……まともな事言うから……」


「おい……ロズ?お前あの中に放り込んでやろうか?今すぐ……」



 後ろの部屋では両腕をもがれてもヘカテイアに噛み付いていている獄卒がいる……その失われた腕は再生中だ。



「ヒロ兄貴……話を先に進めてくださいな!エク姉さんマジで怒りそうだから!」



 ロズに言われたので、流れを説明する。


 ツッコミどころを回避するため、『掻い摘んで話す』と予め注釈を入れておく……



「ひとまず問題になりそうな『貴族達』には此処から避難して上の階にいて貰います。ゴブリン殲滅でもしていてください。事情はこの後説明しますが、僕は静かに暮らしたいのですよ!……」



 前置きでそう言ってから、順序立てて話す……



 まず貴族はリーチウム以外全員を上の階層に行かせる……一応安全の為に天響の咆哮も一緒に行って貰い低層階まで送ってもらったら戻って来てもらう。


 貴族が僕の不手際で死んだら面倒なことになる。


 一層に行くことで僕の手から離れ、そこで死んだならばもう知らない……そうなる可能性は冒険者達の忠告を無視して戻ってきた事を意味する。


 無謀を通り越して無能だ。



 そして僕の詳細を知らない『天響の咆哮』パーティーへの指示系統はリーチウムだ。


 彼を挟めば役割分担ができるし、そもそも詳しくは聞かない事を条件にしてもらう方がいい……説明すると長いからで、そもそも何処から説明するべきかも分からない。



 そもそもそうしないと、計画が破綻した場合には獄卒が相手ではジェムズマインの街は滅びるだろう。


 最悪失敗した場合、最後のトドメを彼らにお願いするしかない。


 獄卒とガーディアン二連戦では、間違いなく僕は一度死ぬだろう……そして悪魔種として戻るのにはどれだけ掛かるかわからない。



 ちなみに僕は、彼ら貴族が居なくなった後『マジックアイテム』を作ると言っておく。


 『魔導士』として既にゴーレムを生産しているので、『マジックアイテムは作れて当たり前だ』と言い切り、貴族を排除する理由は『作る工程を貴族に知られたくない』と言ってそこは誤魔化した。



 そしてその『マジックアイテムもといホムンクルス』を使い獄卒を無力化した後、獄卒本体を破壊。


 当然、獄卒が形を変えて此処のダンジョンにいる事を知っているのは『僕だけ』になる……


 皆への詳細説明が『今』できないからだ。



 そして疲弊する事なく『ガーディアン』との戦いに備えるのだ……それがどんな相手かもわからないが……



 当然ソーラー侯爵のお仲間貴族には、ガーディアンのガの字も伝えないのは言うまでも無い。


 その存在を見たり聞いたりしたら最後『宝欲しさ』にしゃしゃり出てくるのは間違いがないからだ。



 説明を終えると、ソーラー侯爵が難しい顔をしながら相槌を打つ。



「成程……では儂はあの馬鹿を連れて一度上層階に戻ればいいのだな?そしてあの馬鹿どもは『外に出してはならん』と言う事が重要か……それがきっかけで深化が始まるかも知れんと言うことになるからな……なかなかな考えだ!」



 そう言って侯爵は僕があげた武器を担ぐ、どうやら貴族の掃除係は買って出てくれるようだ。


 しかし此処に居られない悔しさからか、まだ話は続いた……



「それで儂はアイツ等と共に騎士団とゴブリンの殲滅をして、時間を稼ぐと……金級冒険者はリーチウムの指示でここの待機組か。リーチウム……お前は儂が知らん事を知っている訳か……なかなか口惜しいな……この場に居れぬとは」



「ソーラー侯爵その通りです。あの貴族は此処にいたら何かしでかすでしょうし……外に出たらこの周辺はそれだけで困りますからね……でもあの方達が上に居ても、単独で此処へ戻ってくるのも困るので……お目付役といった所です」



 そう話した次の瞬間隣の部屋から悲鳴が聞こえる……


 皆で急いでその悲鳴に慌てて皆で声の方に向かう……安全部屋の門から中を覗き込む3人の貴族を引っぺがす。


 そこには蹴散らされる冒険者達がいた……



「ぎゃぁぁぁ!……」


「逃げろ!逃げるんだ!」


「話と違うぞ!!マジックアイテムを使って3パーティで囲めば動きが止められるんじゃ……がぁぁぁ………」



「雑魚が!ちょろちょろ鬱陶しい……俺は今ムカついているんだ!!ゴミが煩わしい……この階層の床を全部破壊してやる!!」



『ドガン』



「がぁ……ヘカテイア!!テメェ……何から何まで邪魔をしやがって……」



「何よ……殴られて腹が立ったの?人間如きに余所見をしているからでしょうが……私を舐めすぎよ!……それにこの階層の床を破壊する?素晴らしいわ……早くやって頂戴!あの部屋が鬱陶しかったのよ。アンタがこの階層壊しているその間に、私はあの坊と御仲間を丸ごと戴くわ!」



「そんな人数をお前が一度に転移出来ないことなんぞ知ってるぞ!その間に俺を仕留める気か?それとも送還させる手段を思いついたか?どちらにせよ浅知恵でどうにかできると思うなよ!!」



 ヘカテイアと獄卒擬きは、ちょっかいを出してきた人間の事などなかった様に戦闘を再開する……



 馬鹿貴族のバリヨーク伯爵は自分の失敗から功を焦り、トール伯爵とルーガ子爵は闇ギルドから買った『偽のマジックアイテム』に絶対の信頼を寄せていた。


 その結果、指示を待たずに勝手に部屋へ侵入させたのだった。


 当然獄卒を舐めているとしか言えない布陣だった……その上バリヨークの連れてきたメンバーは完全に中身はゴロツキで状態異常回避の装備に身を固めた、装備ありきのデクの棒だった。


 ちなみにトールとルーガが買ったマジックアイテムは『不動のタリスマン』と言う物で、込められた魔力に匹敵する魔物を止められる物だった……本物であればだが……



 ちなみに獄卒をマジックアイテムで束縛するにはMPは666必要になる。


 素で必要な値で、ステータス補助がある場合もっと増えてしまう……レベルが増えれば更にそれだけ増える。


 因みに獄卒の平均MPは6666だ……不動のタリスマンであれば『最低限高級タリスマン』でなければいけない。



 この高級タリスマンを金銭で買う場合、ソーラー侯爵の領地丸々と全財産はたいて1つのタリスマンが買える位の『超レアアイテム』だった。



 それを買えたのだ……信頼を寄せるのも無理はない。



 当然闇ギルドのその手法は詐欺だ……本物を見せて偽物を売る典型的なやつだった。


 闇ギルドの総資金はそれを買うだけの財力があり、関わるのはヤバイと感じる筈だ。


 だが彼等はそれに気がつく事などない……いかに徳をするかしか考えないからだ。



「な……何をしてるんですか!?皆さんすぐに戻って………あああ………」



「あ!う……腕が!?………肩も無い……し……死にたくない……ガフ……お……オヤジ……ちゃん……謝れ…なかっ……ゴメ………ン」




 僕が戻る指示を出す前に冒険者12名と特殊装備を着込んだゴロツキ6名が動かぬ肉片となる。



「大馬鹿者!!何故待てと言われたのに貴重な命を無駄にするのだ!」



「ひぃ……違うんです!あの化け物が……まさか此処までとは……動きを止めているから取り囲めば!!………」



 ソーラー侯爵の怒りは最もだ……


 だが彼等は、ソーラー侯爵の波状攻撃案の事を聞いた上で、今回の報酬の期待をしていた。



 それを話していた時に、冒険者が言った『俺達だけで倒し切れば、ボス箱が丸々手に入るのになぁ』との一言で、欲望に掻き立てられた行動だ。



 問題は冒険者に行かせて、彼等は部屋に残ったと言う事だ。


 司令官は高みの見物……そんな馬鹿げた事を平然として退けた……

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