第627話「金級冒険者パーティー・天響の咆哮」
準備を終えていざ侵入を……となったらまた問題が起きた……原因は大馬鹿貴族だ。
「我々はダンジョンに入るぞ。我々は貴族だぞ?誰が我々貴族を止める権利があると言うのだ!」
「ですから……止める訳ではありません。ダンジョンへは入場の届出をして頂きません事には、お通しでき兼ねます!これはギルド全体に関わる事項です。もし力ずくと言うならば、危険行為とみなして、後日その爵位権限を全て無期限停止させて頂く事になりますよ?更にギルド上層部から国王陛下へ直談判となります。この問題で何人も爵位取消し事例はあるんです!」
ギルド職員と貴族の押し問答は始まってまもなく、冒険者の一言で解決する……
「馬鹿者!!入りたいならば、さっさと記入せんか!ダンジョンへの入場の決まりを乱す者の同行など要らん。既に中にいる他の冒険者の命もかかっておるんだぞ……馬鹿など要らん!記入もしてないお主達に万が一があった場合、救援隊など駆けつけんぞ!!そんな事さえわからんのか」
貴族に激怒したのは『金級冒険者のリーダー』だった。
『天響の咆哮』パーティーは金級冒険者グループで、ある種の特権を持っている。
ダンジョンであれば、相手が貴族相手だとしても暴言位は許されるのだ……
金級冒険者の特権は他にも幾つかあるが、全てダンジョンにおける物になる。
しかし対象者を選ばない……王が相手でも言えてしまう代物で不敬罪にあたらなくなる。
しかしながら、実力行使はできない……
その言葉に相手が万が一従わない場合は、魔法契約をした貴族相手でも見捨てて置いていくことが許される。
ダンジョン内で貴族が死んだとしても、罪で捌かれることが全て無くなる特権だ。
悪辣貴族の面々は『証拠を残したく無い』為に文句を言っているが、リーチウムの父親はお抱えの金級冒険者に全て処理を頼んでいたようだ……
ソーラー侯爵は、素晴らしい程に抜け目がない……
それを知った悪辣貴族達は、まるで苦虫を噛み潰したような顔をする。
だが、ソーラー侯爵でさえしているのに、自分たちが文句など言いようがない。
それに、これ以上手間取れば間違いなく『置いて行かれる』のは目に見えている。
連れてきた冒険者に代筆をさせると、ギルド職員に『覚えていろよ貧民風情が……』と捨て台詞を言った。
ちなみに『天響の咆哮』パーティーは一切他の冒険者と交わろうとしない……今の発言さえ自分達のために行った事の様だ。
想像の域だが、他の冒険者との交流を一切禁じられている可能性がある……そこから貴族の情報が漏れるからだろう。
『天響の咆哮』パーティーは誰一人として受け答えさえしない。
基本的に目を合わせないように遠くを見ているか、武器の手入れをしている。
しかし、『天響の咆哮』パーティーのリーダーがソーラー侯爵に耳打ちして何かを聞き始める……
「うむ……許可しよう。ただし、それだけだ……」
「私は『天響の咆哮』パーティーのリーダーで、『トラボルタ・フェイスオフ』と言う……自己紹介が遅くなった事を詫びよう。」
「はじめまして。僕は男爵の爵位を持つ冒険者のヒロです。爵位はありますが至って普通の冒険者です……よろしくお願いします」
「うむ……実は自己紹介とブラックマンバの件は話していい許可を今もらった。あの20メートルを超える巨軀を仕留めたのは、君がよく連れ歩いている娘と聴いたが……本当なのか?」
冒険者だけに、あの外壁付近に放置された個体が気になっていたのだろう……
周りのメンバーも話したそうだが、許可はリーダーだけだった様だ。
「そうですね。あの子の母親はゼフィランサスと呼ばれる火龍なので、狩の練習で退治して来たそうです。ゼフィの話ではあの肉が目当てらしいんですけどね……」
「ほう……あの猛毒を持つブラックマンバを喰うのかね?そう言えばオルトスの食ったとも話があったな……おっと……スマン今のは忘れてくれ……」
どうやら話してはいけない事だった様だ。
たしかに『自己紹介とブラックマンバの件は』と言ったのだから当然だろう……
しかし僕は意地悪を思いついたので、実行してみる事にした。
「はい……大丈夫です……ちなみに忘れはしましたが、これを契約者のソーラー侯爵へ渡していただけませんか?もしかしたら話せる内容が『増えるかも』しれませんから……」
そう言って、切り分けていたオルトスの上質部位の肉5kgを渡す。
すると、トラボルタは向き直り背筋を伸ばし報告に移る。
「ソーラー侯爵様。今お聞きだと思いますが、つい許可を得ていないオルトスの話してしまいました……。そして此方をお渡しする様にと預かりましたので、ご報告させて頂きます」
そう言って、腐敗防止のカーキの葉に包んだオルトスの肉を渡す。
「ぷ…………くくくくく………ワシの負けだ、トラボルタ構わん好きに話せ!!それにしたって何なのだ。この小僧は……我の派閥でも無いのに、武器といいこの希少部位肉といい……斜め上の行動しかせんな!?それも他人の為にしかならん全くもって変な下心しかないときている……おい、食事番これをしまっておけ!痛まない様に新しい腐敗防止のカーキの葉かナンテーンの葉に包んで、ヒロ男爵の様にマジックバッグに。間違いなく入れておけよ?本来ならば絶対に我々なんぞ味わえない、起床部位だからな!」
細かく指示を出すソーラー侯爵に、僕は謝罪をする……
「ソーラー侯爵様。試す様な真似をしてすいませんでした。ですが……冒険者は、ダンジョンに潜る時にお互いの意思疎通がなければ、危険時は間違いなく乗り越えられないので……」
そう言った僕の言葉に驚いたのは、ソーラー侯爵だけでなくトラボルタもビックリしていた。
しかし解せないソーラー侯爵は更に追及をする……
「成程な!しかしながら……あの肉は5kgはあるぞ?買うとすれば……バリヨーク伯爵の領地を全部売り払っても買えんだろうな……そもそもあのクラスの魔物を倒すとなれば、軍隊並みの冒険者の数が必要だ。それをポイっと渡すのか?ゼフィランサス様に怒られんか?」
「また取ってきますよ。無くなったら間違いなく……。ですがギガンティック・ブラックマンバの肉が山ほど有るので、かなり先になるでしょうけど……」
僕がそう言うと、その話の元になった貴族のバリヨークは『折角だから俺も貰ってやろう!俺にもさっさとよこせ』と言ってきた……
だから僕は、『残念ですが今ので残りわずかです……万が一渡した場合、貴方がゼフィランサスに反感を買い領土は灰になるだろうけど……要りますか?』と嘘をつく。
それを聞いたトラボルタは、バリヨークの死角に動き、笑いを必死に堪えている。
バリヨークは欲を出せば『死ぬ』……と言われたのだ……
しかし圧力をかけて『よこせ』と言った手前、ここで貰えなければ彼は仲間のいい『笑い者』だ。
自分だけ得をしようと企んだ様だが、失敗に終わり悪辣貴族のプライドはズタボロだろう。
しかし思いがけない助け舟が出てしまう……エクシアだった。
「ほらヒロ……貴族様達で遊んでないで行くよ?ダンジョンは人数が増えれば、全体の足が遅くなって時間がかかるんだ。アンタが一番知ってるだろう?それもこんな大人数。全く……余計なのが増えちまって……アタイはS+ギルドのエクシアだ。幾らどっかの大貴族様でもダンジョンで文句は受け付けないなから、そのつもりでね!ってか潜る前に聞くけど金級特権の上がプラチナ特権だって知ってるよね?」
そう言って、有無を言わさず強制的に侵入を開始する……
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