第626話「悪辣貴族は今日も元気!?」
S+級ギルドに在籍し、ギルドの看板であるメインパーティーに配属中のタバサは、もはや同位の冒険者からは雲の上の存在になっている。
しかし彼女の性格はどんな相手でも優しく接する……その行動が更に人を惹きつけていた。
だがその反面、彼女を馬鹿にしていた輩はよもや近寄る事も叶わず、周りからタバサへ近づくなと一方的に警告されるくらいだ。
銀級冒険者も数名、その輩が馬鹿な考えを起こし手を出さないように見張っている。
なぜかと言えば、急に才覚を表した冒険者は、恨まれ妬まれ酷い目に遭う事も珍しく無いのだ。
銀級の彼等からすれば、タバサは非常に逸材であり失う事などできない存在だ。
その大きな理由は、良質な薬類をまめにギルド売店へ卸している……
それを買える環境を無くしたくないのは、一人前冒険者なら当たり前のことだ。
そして元からタバサと仲良かった冒険者は、店売りとは比べようもない破格の値段で修正値付きの回復アイテムが彼女本人から買えるので、必然的に彼等はパーティーメンバーや友人からも必要とされる。
人の人生の流れは不思議なもので、タバサの周辺には優しい人が集まっていた……頑張ってきたことが報われた瞬間だろう。
しかし、彼女は『非常に残念な性格の持ち主』であることは変わらない……
一列で並ぶ馬車の後方から『ワテクシは!回復バンバン使うですよ!スキルあーーぷ!!』と安定的にやる気が空回りしている声が響いている。
最近までミミを間近で見ていたならば、『双子か?』と気がしてくるくらいだろう……
遠い村にいた頃の本来の性格の明るさを取り戻したのだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンの前に着くと、貴族達が待ち構えていた……
その中にはリーチウムも居て何やら押し問答になっている。
当然貴族の中心にはソーラー侯爵が居て難しい顔をしている……
「くっ……バリヨーク伯爵よ!何度言っても駄目なものは駄目です!!彼等からダンジョンコアの破壊権利を奪うなど……貴族云々ではなく、国王陛下がもしこの事を耳にすれば、加担した皆様方の命だって危ういのですぞ?誰が秘薬を届けたかご存知でしょう?鉱山の魔物を屠ったのは彼ですよ?」
「そんな事を言いおってからに……。我々には隠せんぞ?リーチウム!オヌシは2個目の踏破実績が欲しいだけだろう?独り占めなんか許されると思っているのか!!ソーラー侯爵様あなたの御子息ですぞ?なんとか説得を!」
「………………………」
「それ見た事か!ソーラー侯爵も怒っておるぞ?リーチウム伯爵……その地位は誰に貰ったのだ?父上様と兄様が居たから、今までそんな生活ができて、地位まで貰えたのだろう?そもそもその腰に下げている『エンチャンテッド・ウエポン』はお主が持つより兄の方がいいだろう?なぜ贈らん?」
「トール伯爵よ!何を誰に贈るか……それは我が家族の問題に御座います!我は武勲を立てる為にこの武器に誓い、真っ当な道を進むつもりなのです!!この武器を持つに相応しい自分になる為……初心を忘れない為に!この武器は持つ事にしたのです!」
言い合いは結構な声量で行われている……周辺の冒険者は巻き込まれない様に遠巻きから様子を伺っている……
しかしソーラー侯爵の周辺には、この場に相応しく無い冒険者の一団がいた。
「おお!来たぞ!皆の者……ザムド伯爵に、ウィンディア伯爵の馬車だぞ!……だが何故あの小さい荷馬車に伯爵二人は乗っているんだ?後ろの馬車に何故乗らん?まぁ所詮デカいだけの飾りという噂だったからな!まぁ見栄の塊を馬が引いているのかもな?」
誰かは分からないが、既に聞こえている距離だがその言葉を隠す事もしない。
僕は荷台から降りて、冒険者テントへ向かう……ダンジョンへ入る準備と手続きだ。
ここは面倒臭そうなので、慣れている二人に任せよう……既にスイッチはオンの様で臨戦態勢だから……
「これはウーバイ男爵……このダンジョンで何をしてらっしゃるのですか?我々が荷馬車では不思議ですかな?我々の家紋入りの馬車には勿論『冒険者達』がのっているに決まってるでしょう?我々はダンジョンでは『役立たず』だからな?はっはっは!そうだよな?ウィンディア新領主?」
「ああ、そうだな!ザムド伯爵。我々は『マッタク役に立たない』から、それは小さい荷馬車で来るんだ!だが……誰かさんとは違って、我々は『ダンジョン産の武器』をくれる冒険者がごまんと居るからな?馬車なんか其れこそ小さく些細な事だ!!それに……デビル・イーターと言ったかな?希少種の素材だってほぼ丸ごと貰ったしな?はっはっは!!」
舌戦は快調の様だ……相手が始めたゲームだったが、コールド負けで相手が撃沈している……
更に追い討ちで、ダンジョンで手に入れたと思われる武器をチラ見させている……ソウマ達が以前レベル上げでダンジョンを周回した際に山程手に入れた武器だ。
どうやらそれを貴族へどんどん卸したようだ……王都に比べて物価はましだが、宿生活で生活費もかかり帰れる確証は今のところ無いので、買取は大助かりだと言っていた。
そのせいで、伯爵両家の騎士団装備は充実して、全て修正値付きで威力は弱いがスキル持ち……というヤバい集団ができた。
ちなみのユイナにお熱のザムド伯爵は、ダンジョンに潜る彼女を毎日出迎えに足繁く通ったそうだ。
時間が少しでも遅くなると、心配のあまり中に入ろうとするザムド伯爵を止めるのが大変だったと、周辺は漏らしていた。
貴族の喧嘩を聞きつつ、ギルド職員と『面倒だねぇ』と話していると……リーチウムが謝りに来た。
「スマン……ヒロ殿……父を止めるつもりだったんだ!だが……一人ではどうにもならなかった。だが、このダンジョン踏破だけは我が命名誉に賭けて邪魔はさせない!絶対だ……安心しろ!」
そう言った矢先僕の隣で手続きをしていたエクシアが……
「おい、リーチウム。何言ってんだい?このダンジョンのコアは今はもう壊せないよ……昨日その話がでただろう?オヤジさんに何言ってんのさ………あ!?あれ?そう言えば昨日アンタ……オヤジさんの後追っかけていったっけか?すまんすまん!いつの間に帰ったのかって思ったが……そうかそうか……フレディ爺さんが来た後帰ったな!!」
エクシアもメンバーの届けを出しにきていたが、そこでリーチウムが僕に謝っているので不思議に思った様だ。
昨日は既に酒が入っていたので、確かに記憶も曖昧だろう……
しかし、それは何時もの事なのだが……リーチウムは冒険者では無いので普通にエクシアに返す。
「申し訳ないな……エクシアさん。大切な話し合いに参加させて頂ける機会を無駄にした。更に居ない事で迷惑を掛けるとは……まだまだ経験不足だな……」
リーチウムは昨日重要な話の前に帰っていたのだが、そこまで凹む内容では無い。
むしろ知っていた場合、それが言動に出てあのオヤジさんには怪しまれていた事に違いない。
そして金と武器に目が眩んだ『悪辣貴族』は、その機微を絶対に見逃さないだろう……
それを気が付いていたのか、エクシアは……
「奴さんは帰らないんじゃ無いかい?多分アンタとあのオヤジさんの武器を見て『欲望』が抑えられないと見たよ?オヤジさんは多分アンタの兄弟に持たせる分も欲しいのかもねぇ?『王都はそう言う場所』だろう?見栄とかさ?」
「………エクシアさんにヒロ殿は、なんでもお見通しだな……。そうなんだ父上と僕は扱う武器が接近戦による物なのだが、兄二人はオールマイティーなんだ。だが器用貧乏なせいでスキルを沢山の武器に割り当ててしまってな……」
それを聞いたエクシアは……『一番やっちゃ駄目なやつじゃ無いかい!馬鹿なのか利口なのかわかんないねぇ?』と笑っていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。