第624話「エーデルワイスが語る来た理由」


「ぼ……冒険者諸君!!……今回の件は無事方がついた……」



「マジか!?龍が攻め込んで来たからもうダメだと思ったんだ!」



「ゼフィランサス様が飛び出しただろう!!街のために追っ払ってたじゃなぇか!!」



「マジか!助かった!ポーションにつられて登録したのが裏目にでたと思ったわ!!」



 テカーリンの一言で冒険者達から安堵が漏れる……幾ら銀級冒険者と言っても、飛ぶ相手にはどうもできないからだ。


 そして、『火龍ゼフィランサス様が対応したのは皆知って居ると思う……』テカーリンがそう言って、ゼフィランサスへ手を向けると一斉に歓声が起きる。



「安心なさい!私がこの街に居る間は、娘の居場所である此処を守ってあげるわよ?感謝したら娘を見かけたら串肉くらいは差し入れてあげてね?今娘は成長期だからたくさん食べるからね!うふふふ」


 そう言って、手をひらひらさせる。


 冒険者は『火龍が護る街だー!』と、お祭り状態だったが……テカーリンが……



「と……隣におられるのが『緑龍』エーデルワイス様である!!ジェムズマイン鉱山より南部から街を含めて、この一帯を縄張りにされて居る『ヌシ様』だ…………」


 絶句する一同………『何故それを先に言わない!?』と言う目で冒険者はギルマスを睨んで居た……



 テカーリンは順序を考えず迂闊な事を言ってしまったと反省をしていたが、残念な事にうっかりバッシングした冒険者から袋叩きに遭っている……


 自分自身で言った事で自業自得なのに、無慈悲とは……ギルマスの育て方が余程良かったのだろう。



「待て!俺は話をする前提だったぞ!お前達がはしゃぎたてたんじゃないか!いてぇ!このやろう!!俺だって困ってんだこの状況に!」



 とうとう、やりきれない思いが爆発した様で、喧嘩になりはじめたので僕達は茶番劇は放ってギルドの中に行く……



「アンタ………朝から何がどうなってるんだい?馬車も準備が終わったっていうのに出入り禁止だってんだよ!?更に何かあった時の為に此処から出るなってよぉ!おや?ゼフィランサス朝早いのに……横のは長女かい?」



 エクシアの反応は『トレンチのダンジョン』へ向かう予定だった為だ。


 マッコリーニとハリスコは忙しい様に冒険者ギルド商工ギルドを行き来しているようだ……かき入れどきだと言う。


 商魂逞しいとは言ったものだ……



「エクシアさんこの子は私と同じ龍種だけど『火龍』じゃなく『緑龍』よ?この街の騒動の発端ね………」



 エクシア一同にザムド伯爵とウィンディア伯爵も驚きが隠せない……



 喧嘩を終えたギルマスが戻り、一部始終を話す……


 ギルマスの位置からは、悪魔っ子は見えなかったようで若干勘違いが入っているが……



「って事は……二人をぶん投げたちびっ子って……まさか……龍っ子かい?」



 龍っ子は『がーーん』とした顔で……



「悪魔っ子ちゃんです……実はママより強かったです………はぁぁぁぁぁ………」



 非常に思い出したくない一瞬だったのだろう。



「ま……まぁ何にせよ強くなるってのはいい事なんじゃないかい?アンタが悪魔っ子より強くなれば済む事だろう?そんな落ち込む事ないじゃないかい?冒険者達を見なよ?死ぬ気で挑む猛者の顔つきだよ?」



 多くの銀級と銅級冒険者は『鉱山遠征』を控えていたのだ。



 それも借金までして装備を整えた矢先、『新しい龍種の強襲』……とくれば『死んで元々』とばかりに挑む気だった様だ。



「いいかい?心が折れる迄は『負け』じゃない。死んも負けを認めなければソイツの勝ち逃げさ!!覚えておきな」



 突然人間の考え方だが、面白いことを聞けた龍っ子は俄然奮起する。



「私は負けない!強くなるぞ!!私だってワンパンでママ達を黙らせるくらい強くなる!!そして悪魔っ子ちゃんより強くなる!」



「あら!私では教えられないことを教わったようね?此処に居る収穫は大きいわ!」



 ぶっちゃけ……ああなったら本当に『封印されるから辞めておけ』と言いたいが、凹んでいる龍っ子よりは今の方がいい……目標は大事だ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕はエーデルワイスに何故起床の末今に至ったかを聞いてみた。



「え!?貴方達でしょう?私の眷属に先にちょっかい出して来たのは……変な奴らがこっちに向かったのを見たから来たのよ?」


 話を聞くと、彼女は緑龍すなわち一般的にグリーン・ドラゴンと呼ばれるようだが、細かく分けるとエンシェント・フォレスト・ドラゴンと呼ばれ森を司る龍種なるそうだ。


 なのでゼフィランサスは火龍であり一般的にはレッド・ドラゴンと呼ばれ、分類分けではエンシェント・ファイアー・ドラゴンになり火を司る龍種になるそうだ。



 そしてどの龍種もその眷属は亜種を含めて当然上から下まで居るが、いま問題になったのは下層帯にあたる『フォレスト・ワイバーン』と呼ばれるドラゴン属・亜種の乱獲だと言う。



 エーデルワイスの言い分では、自然に生きる以上眷属が淘汰されようとも、ある程度の覚悟はあるそうだ……



 しかし調べた結果、その肉を食べる為でも無く、卵を狙って孵化させて騎乗する為でもないという。


 それも大型の檻に入れられて方々へ向かった形跡がある。



 気配を殺し人型になり潜んで居たところ、動きがあったので追ってみたら『ジェムズマイン』に行き着いたと言う。


 そして発見したのは『ゼフィランサス』と『正体不明の龍種』となれば、龍同士のシェア争いに人間を用いたと考えたそうだ。



 手を組んで縄張りを折半する気だと思ったそうだ。


 人化してのも龍種には見破られる……だから先制攻撃を仕掛けたら、見事に勘違いの現在に至ると言う話だ。



 ゼフィランサスも以前勘違いから王国を襲い、アラーネアとアシュラムに斬り刻まれる手前まで行ったので、龍種は意外と思い込むと突っ走る傾向にあるようだ。



 龍種の博識と言う事実とは別に、衝動が抑えられない『種』であると言ったようなものである。



「この街には居ないの?……か……勘違い!?私の?あれ?たしかに匂いが無いわ……」



「ええ?そうよ?数日前に龍種……すなわち貴女の眷属の気配と匂いは確かにあったわ……でも街に入る前に何故か乗っていた馬車を変えて道を北上していったわよ?その馬車に貴女の亜種ではあるけど同族も居たわ?貴女は見たその時何で追いかけ彼等を捕まえなかったの?」



 ゼフィランサスの質問にエーデルワイスは、『一つは近場の街に向かったので、他の馬車の行方も見に行った』と言っていた。



「ゼフィはそれを見たのかい?」



「ええ。でも龍族の掟で、自分達以外の眷属がどんな状況でも相互干渉は無しなのよ……龍種……要はエンシェントを持つ龍種同士ぶつかればその一帯が無くなるわ……だから同じ龍族であっても龍属と言うだけでの繋がりは、あらゆる意味で危険なのよ……」



 僕は龍属の約束事に首を突っ込む気などない……


 だがあのゼフィランサスが、周りに悟られず穏便に対処でき凄いと思い聞いたのだが……



「ああ……違うんだ……よくバレなかったなって思ったんだよね?」



「え?バレたわよ?何かしようとしたから『ちょっかい出すならこの大陸ごと灰にするけどいいか?』って火をちょろっと吐いて聞いたら流石に脱兎の如く逃げて行ったわ……」



 ゼフィランサスは不思議に思って、ナント普通に歩いて聞きに行ったそうだ……そしたら悪漢に囲まれたと言ったが、それは相手が大馬鹿だ。



 詳しく聞くと馬車は街から30分程の位置にあったらしく、手を出してきた人間数人は尻尾の一撃でミンチになったようだ。


 相手が龍種だと知った彼らは、命からがら逃げるだろうとゼフィランサスは思ったそうだ。



 しかし、魔法の効果『精神掌握』にかかった状態だったそうで、荷馬車を全て捨てて逃げたくても、その馬車を引かないと逃げられない『契約魔法』がかけられていたそうだ。



 しかし彼らは命を拾ったことには間違いはない。


 ゼフィランサスは相互干渉不可の約束があるので、手が出せず帰るしかなかったからだ。

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