第603話「大波乱の直接対決と危険な一撃」
僕は彼のところに行き、下級ポーションを頭からかける……仲間が怪我をさせた詫びだ。
「うーーん……なんだ?俺は此処で何を………」
「立ってください!言葉がまともに使えないなら、どっちが上かで勝負しましょう!白黒つければわかりますよね?」
エクシアも僕の言葉にビックリだった。
僕は彼の首根っこを片手で掴み上げてから立たせて、テカーリンを呼ぶ。
「今から少し、ギルドの闘技場借ります。」
「いや……構わないが……ああ……オレンジ!すまん……ヒロ男爵様が今から闘技場を使用なさる!サインは私が代筆するので、羊皮紙をこっちへ持って来てくれ!早く!」
僕の雰囲気が違うせいで、テカーリンもしどろもどろだ……
闘技場に入ると、すでに模擬戦をしている人が多数見受けられる。
中にはマグネとガウスも居た。
マラライは特訓を受けたのか、かなり疲れている様子だ。
「おう旦那……って……あれ?旦那だよな?そっくりさん……?」
「ああ!ガウスさん!それにマグネさんとマラライちゃんも!今から模擬戦で……集中してました……」
「ああ……そうか……」
ガウスとマグネは、誰が相手か確認をする……
「マジかよ……銀級のウルフハウンドだぜ?ヒロの旦那も集中するわけだ……」
「ガウス……コレはすげぇもの見れるかもしれんぜ!あのウルフだ!相手はエクシアのいるファイアフォックスのメンバーだからな!負けたらエクシアもバカにされるし……」
「おい!?誰が誰にバカにされるって?」
「「げぇ!?エクシア!!……さん……」」
「いいから黙って見てろ!あのバカ……マジでキレないといいんだがな……」
「エ……エクシア……さん……ウルフの事ですか?」
「ハァァ?ちげぇよ!今のアイツにあんな雑魚相手になるか!」
エクシアは珍しく真面目な顔をする……ロズはどう止めようか悩んでいるようだ。
「おい!ハンデやろうか?お前男爵でも冒険者上がりなんだろう?銀級成り立てがいき粋がんな!!」
「じゃあ、木刀でお願いします。その方が安全なので!」
「はははは!元から木刀のつもりだよ!お前に剣なんか使えるかよ!エクシアに馬鹿にされて笑われるわ!!」
「では……準備はいいですか」
「はい」
「お決まりはいいって!こんな雑魚、横になってても勝てるわ!」
シャインの合図で撃ち合いが始まる……
『ハジメ!!』
『瞬歩』
僕は短くそういうと、ウルフハウンドの後ろに回る……
彼はアーチを馬鹿にした……頭を叩き威圧した……彼女は何も彼にはしてないし、何も言ってもいない……失礼にも程がある。
彼女はか弱き女性なのだ……それになんと言っても見下しすぎだ!!
偶然彼が憎む『グレート・アナコンダ』の幼体を僕が連れ歩くことにはなったが……それとコレは話が別だ……彼は反省する必要がある。
一度完膚なきまで叩きのめして、自分の言動が悪いと認めさせないと周りが迷惑し……その行動のせいでいずれ人が死ぬかも知れない……
ダンジョンでは怪我で済めば御の字では無い……その怪我さえ極力無くすべきだ、人の情念はダンジョンを深化に導くのだから。
それに攻略が迫っている鉱山のダンジョンは、精霊が穢れで変異しているだろう……今までの戦闘方法など通じない可能性が高い。
彼のせいで皆に危険が及ぶ……こっちだけじゃ無い向こうのパーティーも含めてだ。
異世界の仲間に、ここで出来た友人……誰にも怪我などさせたくない!
だから……思い知らせる!……腕の渾身の力を込める……
持っていた木刀を横に振るう………腕に力を込め、淀みなく……真っ直ぐ……ただ早く……真横へ
『ガシン!!』
『ミシミシ!!』
『ビキビキ』
エクシアとカナミそしてミサは闘技場に乱入して剣を交差させる。
3人の剣は木刀で打たれた衝撃で砕け散る……
ミサとカナミそしてエクシアの3人が1箇所に剣を合わせ、僕の横一閃の一撃を受け止めた……
彼女達は立ってでは無く、しゃがみながら同じ場所に剣を当てた……その場所はウルフハウンドの頸部だ……剣でその首が隠れる様に……
「おい馬鹿野郎!殺す気か!!」
エクシアがウルフに言った時より、遥かにすごい剣幕で僕を怒る……
「何振り抜いてるんですか!それも全力で!!危なっかしい!!」
ミサが壊れた剣を見ながら、冷や汗を拭いながらそう言う……
「目を覚まして!ヒロさん!感情に呑まれちゃダメです!」
カナミは泣きそうな顔で僕を見た。
しかしゼフィランサスは逆に笑い転げている。
「ははははは!!流石は我が主様!娘ちゃん流石パパ様ね〜あれは剣聖の技『凪』よ!!確か剣聖アナベルや英雄王・死霊斬りのアッシュも使っていた技だった筈……それをまさか木刀で?ああ……パパが私の敵で無くてよかった!うっかり喧嘩してたら、私の尻尾はあの剣のように粉々だったわ!」
ウルフハウンドのパーティーメンバーは彼の元に駆け寄る……
「ヤベェ……動きが全く見えなかった……アレ何だ?何でギルドの壁に横一閃の斬撃があんだ?始まる前にあったかあんなもの?あれ?何でこの木刀変な位置で切れてんだ?」
「オイ!ウルフ大丈夫か?首は?繋がっているか?」
コモンドールが彼の首根っこを叩いたりひっぱたりする。
「大丈夫ですか?ウルフさん!いつも言っているじゃ無いですか!!回復できない傷もあるんです!相手を間違えれば死にますよ!!アナタはすでに今日何回も負けてます!!いいですか?『何回も!です!!』……」
テリアは皆が見ている前で大声で叱る。
まるで子供を叱るように……
他のメンバーもウルフハウンドを叱りつけ、無事を確かめる……
「あれ?エクシアさんにカナミちゃんにミサちゃん!なんかごめん!ちょっとだけ力込めたんだ!いつも魔法だから……ほら!剣って魔法と違うから、振るときの力加減がわかんないんだよね!でも頭に当たった時にいい音が鳴る様に……とかは思ったよ?だから二の腕にちょっと力込めただけなんだけどね?」
「「ちょっと?アレで?うそ!?」」
「お前!あれでか?淀みのない一閃を放って、武器破壊できる威力だぞ?あれが……ちょっと力を込めた?」
ミサとカナミは呆れ果てる……
そしてエクシアは壁を指差し、『お前は剣は向かない!!絶対だ!前衛にタンクがいたら全員首が飛ぶ!』となど、思いつく言葉を言い続けている。
僕は彼を反省させようと思ったが、殺すつもりはない……
その一撃をかわせないだろう彼に、満足行くまで対戦する予定だった。
そして、その度『後頭部』をぽこぽこ叩くつもりだった……彼がぽこぽことアーチの頭にした様に……
しかし結果的に『一撃目で首がなくなり』かけた……
彼女達が居なければ彼が向かった先はアナベルの部屋になる……反省しかない。
僕はステータス的に彼より遥かに上だし、今気がついたら昨夜は9時間寝た事でレベルが10上がっていたことに気がついた……
前は56レベルだから今は66レベルだ……数字がヤバイ!今回の件はそのせいだろう……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「す……すまなかった……アーチって言ったな。俺が粋がりすぎた……」
半ば不貞腐れ気味だが、ウルフハウンドがアーチへ謝る。
「もっとちゃんと謝って下さいよ!!じゃないと、この街で冒険者なんかできませんよ!?あのザムド伯爵にウィンディア伯爵にボルトの街のリーチウム伯爵まで来てるんですよ!それに武闘派のハラグロ男爵も!!」
テリアが皆の前で、頭を掴み下げさせる……
デーガンが急いで伯爵達を連れて来たが、リーチウムはボルトの街に帰る途中に引き返して来た。
この件のためでは無いが、頭が良く無い自分より街の運営はそれに精通した家臣に任せて、自分はジェムズマインの街で色々吸収しようと考えたそうだ。
「そうだぞ!前々から言おうとして居たが、戦力は申し分無いから言えなかったんだ!相手がヒロ殿だと聞いたら肝が冷えたぞ!彼は異常だ!見て分かっただろう?何で彼に喧嘩を売った?」
今まで鉱山の管理者をしていたザムド伯爵が理由を聞く……
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