第582話「薔薇村の4日目」
「新しいウッド・ゴーレムの試運転は概ね完了です。若干予定と異なる動きをしましたが……まぁ許容範囲でしょう」
僕がそう言うと、講師役の魔導士の女性と後から来た2人は、目をキラキラさせながら魔の森の樹木を伐採するウッドゴーレムを見る。
講師役の女性はそのウッドゴーレムに近づき、羊皮紙にスケッチをしながら……『こ……このゴーレムも魔力補充必須ですよね?』と言うので、僕は『魔力の減り方はストーンゴーレムより早いみたいです』と言っておく。
彼女達が補充担当になるのは冒険者ギルドにお願いした時点で決定しているので、一応魔力回路の説明をする。
「各部位の予備パーツは新しく作ってから、薔薇村のギルドに後程届けておきます。基本的に魔力は各関節に一度チャージされて、其々の部位に流れる仕組みです。各関節は後で稼働を止めた時に実際に見てください。チャージ方法はストーン・ゴーレム達と同じです」
そう言って、僕はゴーレムを一度僕達の元に戻す。
「見て貰うと分かりますが、今回の斧をお持たせました。理由は樹木伐採の為ですが、指の球体の関節部から魔力が武器にも流れてしまいます。漏れた魔力が武器を覆う状態になったので、武器自体威力や強度が増しました。結果的に良い方向にはなりましたが、さっき言った通り魔力消費量が多いです」
両手の部位を取り外し彼らに渡し、魔力を使い接続を実際にして貰う。
「凄い!革命的です!!こんな部位交換なんて!!それに実際に触らせていただけるだなんて……魔導士冥利に尽きますよ!!」
「斧以外にも武器そのものを手にすれば、そのまま兵士としての使えます。盾が必要ならが今のままがいいですけどね!」
僕は彼女に魔力を使い取り外しの練習もさせる。
彼女はきっと、このまま此処で働くのは間違いなさそうだからだ。
そうすると、双子の片割れが小さな木人形を荷物袋から出す。
「こんな人形でも動きますか?」
そう言われた僕は予備で作っておいたウッドゴーレムの魔石を取り付けて、彼に荷物を運ぶ用に指示を出す。
「す!凄い!!こんな簡単に!?」
僕は彼にこのウッドゴーレムを渡し、更に改造する様に言う。
彼が良いアイデアを出したらパクらせて貰いたいからだ。
「ええ!?本当に!?これを頂いても?」
「でも……荷物しか運ばないからね?指示はそれしか出してないから!荷物も持てる重さにしないとダメだよ?ゴーレムが小さいながらも、これで何が出来るかやってみるのは良い事だから。イメージは大切だよ?できれば3人で考えてくださいね!」
僕がそう言うと、指導役の女性は大喜びだ。
自分の持ち物じゃなくても、色々観察できるのだから当然だろう。
「コアの魔石は取り外せないので注意ね!脚とか腕は今の僕のゴーレムを手本に改造すれば、同じ動きができるはず。あとは二番煎じにならない様に自分のオリジナルを考える様にね!まぁ基本に忠実からスタートするのが良いけどね!」
僕はそう言うと、ストーンゴーレムの魔力補充を開始する。
「ああ!それは私たちがやります!!折角の貴重な魔力補充なので是非やらせて下さい!」
彼女がそう言うので、そこは任せることにした。
村長と少しこの周辺の話をした後、祝福担当が半分いないので大変そうな銅級冒険者の2人を見て、オリバーに作って貰った大量の聖水を思い出した。
マジックグローブから取り出し鑑定すると、効果の期日は全く減って居なかったので僕は魔力容器に移してから、振り回して周囲に散布する。
周辺の樹々に聖水が降りかかると、どんどん浄化されていく。
「何ですか!?これは……」
村長が目を丸くしてそれを見て言ったので、オリバーお手製の聖水だと説明する。
マジックバッグの中に物をしまった場合、劣化が著しく遅くなる説明も付け加えておく。
「では……この周辺の土地や樹木から上がる煙は『浄化』されている証なのですか?」
「まぁそう言うことになりますけど、確実性は低いですね!聖水がかかってない部分はどうしても出てしまいますから。確実に祝福で浄化が良いみたいです。やってみてそう思いました」
僕はオリバーの簡易聖水が、1日しか有効期限がない事も説明しておく。
銅級資格の彼らが頑張れる様に、ダンジョンから手に入れた『炎のスリング』と『滑る・バックラー』を取り出して見せてから、オリバー達が帰ってくるまで時間がかかる事を説明する。
「オリバーとマールが帰って来るまで、2人に頑張って貰うしかない……それで特別報酬なんだけど、コレは君たちに良ければ使ってもらいたい。攻撃主体か防御主体かで必要度合いが変わるけど、同じ物は2つないから話し合いで決めてね!」
そう言って渡すと、炎のスリングをペイが貰い滑る・バックラーをドロスが貰うことで話がついた。
大喜びな2人の会話では、ペイは遠距離攻撃型で軽タンク兼薬師なドロスだった様だ。
2人は気合充分に『祝福』して回っている………物欲は偉大だ!
村の方角を見ると、ハーピーが数匹ダンジョンがあった方角に飛んでいくので、どうやらご飯を持って飛び立った様だ。
太陽を見ると真上に登っていて、皆休憩を挟んでいる。
「皆さん食事は?」
僕がそう聞くと、『貴族じゃないから三食なんかとても食べない』と言うので、大量に作ったおにぎりと味噌汁の出番はあった様だ。
朝からシャインとミオが競う様に手伝ってくれたおかげで、かなりの数が出来た。
ミオはメイフィとギルドの仕事と言って居たので、オニギリと味噌汁を置いてきた。
シャインは僕に付いてきたがったが、テイラーが朝早く到着して自領であるウィンディア家に行かねばならないそうで強制的に連れて行かれて居た。
当然テイラー達の分の昼食も渡しておいた。
テイラーは朝もおにぎりだったので、同じ食事になるがそこは我慢してくれと言ったら『喜んで食べる』と言ってくれた。
昼食の概念が少ない様で、テイラーさえも移動するのに用意して居なかったので、この世界は基本2食なんだなぁと実感した。
全員で一緒に食事をした後、軽く昼寝して午後の仕事をした。
昼寝の間はゴーレム達に護衛を頼んだが、聖水効果のせいか魔物は全く寄ってこなかった。
聖水には、穢れを多く持つ魔物を遠ざける効果も少なからずあるので、あの散布は多いに役に立っていた。
僕達は日が暮れる前に薔薇村に帰る……
夜は魔物が闊歩する時間だから、危険な橋は渡らない方がいい。
薔薇村の3日目は平穏無事に過ぎていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
薔薇村に滞在して4日目は朝早くにオリバー達が村に到着した。
予定より早く着いたので、すぐにテントの中の風呂を使える様にした。
以前の事があるので、ミオとメイフィが使ってないかドキドキしながら洗面所に向かったが、朝風呂に居たのはおっさん大工だった。
冒険者ギルドの紹介で雇った3人が『今日のゴーレムのことは、全て責任持ってやります』と、朝早くに言いに来たので全てを任せることにした。
ビーズとステイプが少し休んだら、今度はジェムズマインに連行せねばならないので、今日は彼ら日面倒が見れないのだ。
その旨を話すと彼らは『フンス』と気合を入れ直していた。
僕は鉱山に向かう必要があり、当面は彼らに任せるしか無い事を説明したからだ。
異常があったらギルドを通じてすぐに連絡する様にだけ言い渡し、昼食も渡しておく……
当然大工達の分もだが、マジックバッグを持っていてくれたので助かった。
貸し出し用など用意していないからだ。
村長宅に向かうべくテントの外に出ると、龍っ子が到着して朝飯を食べていた。
朝から生姜焼きを大人3人前食べていたので、凄い食欲だなぁと思いつつおはようの挨拶をする。
龍っ子に村長の家で話し合いがある事を説明すると、その間はミミと遊んでいると言っていた。
龍っ子にミミはいい遊び相手の様だ。
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