第583話「ジェムズマインへ到着!」


 その後僕は村長宅に向かい『鉱山の件がひと段落するまで当分来れない』……と先程と同じ様な説明をした。


 朝からマークラが既に村長と打ち合わせ中で、『あとは自分に任せて下さい。異常があり次第すぐにイスクーバを向かわせます』と言ったので、ギルド宛の伝書鳩でいいと言っておいた。



 家の外を見ると、イスクーバが裏口付近に控えていて会議には参加していなかった。


 理由を聞くと、『ヒロ男爵家の話でございますので、聞くわけには参りません。万が一盗み聞きするとしたら此処なので、番兵の代わりをしています!』と大真面目に言うので『僕がいない間任せる人間が話を聞いてないのでは、行動に余裕が持てなくなるから聞いておいてくれ』と言い渡すと、大喜びでマークラの方に向かって行った。



 中を覗くと、村長とマークラは微笑みながら僕をみていたので、どうやら2人は気にしていた様だ。



 最後に村長宅に首を突っ込み『マークラ!鍛冶屋の基礎部分忘れずに頼む。建設急ピッチで出来る限り早めにな!ドワーフの姫さん達暇だろうから!イスクーバ!行ってくる!』とだけ言って、僕は龍っ子の他にビーズとステイプを連れて村を後にした。



 因みに街までは飛んで向かい、2人は龍っ子に『ぎゅー』っと掴んで貰っておいた……『ぎゅー』っとだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 1時間程飛んだ後ジェムズマインの街から徒歩30分程度のところで龍っ子に降ろしてもらう。


 龍っ子は薔薇村で手に入れたご飯を姉妹に届けると言って、鉱山の方へすっ飛んで帰って行ってしまった。



 前から思っていたのだが、姉妹と言っているが弟が生まれる可能性もあるにでは無いか?とか思ってしまう。


 もし言っている事が本当であれば、既に産まれる個体を知っているか、ドラゴン種がメス限定と言う事になる……何故知っているのか興味が出てくる。


 そんな事を考えつつ、ビーズとステイプに話かける。



「此処からは徒歩です。ショートカットで飛んできましたが、逃げようとは思わないでくださいね?既に衛兵が火龍を見て調査隊をこっちに向けていますから、逃げられませんよ!」



 そう言ってジェムズマインの方を指さすと、衛兵達が隊列を組んで近寄る様が見て取れる。


 何やら足取りが重く見え、隊列が乱れているので何かあったのだろうか?



「誰も逃げねぇですよ!旦那!!もう龍種に『ぎゅー』とか『ガシッと』ってのは辞めてください!!あのミミって子が異常なだけで、普通は無理ですよ!!見てください!ビーズ男爵の髪の毛!ツンツルテンじゃ無いですか!」



 そう言ったので見てみると、今まで黒々していた髪の毛は見る影もなく、太陽を反射するくらいツルツルだった。



「風が……風が……儂は生きておりれたのか?地面か!これは地面なのか?」


 そう言って大地にうつ伏せで大の字になるビーズ男爵……


 流石にお漏らしはしていなかった様だ。


 漏らしたら龍っ子は、間違いなく手を離していただろうから、ビーズ男爵は運が良かった!



「そこの者!!大人しくしろ化け物め………あれ?ヒロ男爵様?………今龍の目撃報告が………まさか……あの龍種って?」



「ああ!あの龍ね!ちょっと国境外れに用事があって行った時に、あの龍が困ってたので助けたら、お礼でジェムズマインまで乗せてってくれるって言うから、お願いしたんです!せっかく龍種の背に乗れるなら……ねぇ?貴重な体験でしょ?」


 僕は偶然途中で見つけて、乗せてもらえたと嘘の報告をする。


 当然行きにも乗ったので嘘が通用するとは思って居なかったが、既にダンジョン踏破とダンジョンコア破壊の件は話にあがっている様で、全ての話を鵜呑みにしてくれた。



「ご苦労様で御座います!流石ジュエルイーターを喰う冒険者様!!龍を手名付けるとは!!感服です!……失礼致しました!!男爵様でした!!」



 僕は衛兵長に、貴族としては面倒なので、今まで通り冒険者のままで扱ってくれと言って、ビーズとステイプを引き渡す。



「薔薇村冒険者ギルドから既に連絡は貰っています!コイツらが問題の男爵に護衛ですね!しっかり事情聴取を致します!お任せください!」



 そう言った衛兵長の言葉を聞いてステイプは……



「旦那!俺は雇われですって言ってくださいよ!此処まで協力してきたじゃないですか!」


 そう言われたので、ステイプの身元と、彼の知り合いである金級冒険者のオリバーの名を教える。


「事情と協力の件はわかりました!しかし、協力したとはいえ此ればかりは領土侵犯に値します。しっかり取り調べしたうえで、釈放になるので、彼が協力的でなければ幾ら男爵様の言葉でも『王国法』ですので……その際はご勘弁願います!『拷問』では無く『取り調べ』で話を聞きましょう!」


 それを聞いて、大地に寝そべって居たビーズは……


「儂も洗いざらい話す事を約束する!拷問はやめてくれ!そもそも儂は騙されたんだ!宝多いダンジョンだとな!これは全て小国郡国家にいる侯爵家グラニューの一派とダークフェアリーの企みなんだ!儂は得た金で孤児院の貧民地区を奴から買い取る算段だったのだ!!全部話すから拷問は勘弁してくれ!」



 今の一言で、何となく人柄は分かった。


 やった事は間違いであっても、性根は真っ直ぐないい人かもしれない。


 よく確認して見定める必要はあるが、全ての貴族が悪虐非道をする訳では無いのだから!



「お!?ヒロじゃねぇか!!そんな所で衛兵達と何してんのさ?」


 急に話しかけられた僕と衛兵長は声の主に顔を向ける。


 そこに居たのはドワーフ王の帰路を、護衛したエクシア達一行だった。


 衛兵が隊列を組んで居たのを見て、ロズとベンが馬を走らせて様子を聞きにきた様だ。



「あ!ロズさん!お帰りなさい。今日でちょうど四日目ですもんね!意外に早い到着だったんですね?」



「ああ!今帰った。ドワーフ王も大慌てだったみたいでな、装備は全部担いで強行軍だったんだよ!『ドッペルゲンガーの企みが分かった今、隊列組んでゆっくり帰る暇なんか無い』って言ってたぜ!んで?何があったんだ?其奴等なんだ?」


 そう言ったロズの表情が、一変する。



「ってか!お前!ステゴロのステイプじゃねぇか!お前なんで『こっち』にいるんだよ?アレ以来こっちの王国は勘弁だって言ってたじゃ無いか!!」



「ロズか!助けてくれよ!ヒロにも言ってもらったんだが、ちょっと面倒な事に巻き込まれちまったんだ!昔馴染みのよしみでさ!!例になるかわかんねぇけど、俺今さ、生活と人生建て直して傭兵団の隊長やってんだよ!何だったら力になるからよ!!」



 ロズの身元保証も加えて、ステイプの身柄はだいぶマシになった。


 そしてステイプが洗いざらい知っている事をその場で衛兵長に話し、ダンジョンの一件が明らかになった事で、ビーズの拷問も『取り調べ』と言う名目に変わった。



 勿論『名目』である。


 しっかり全て話すのが前提で、王国とすればこの件を使い、小国郡国家の責任追及に持っていくのは分かりきっている事だ……



 ひとまず僕達は、ジェムズマインの街まで帰る事になった。


 ロズはそのままステイプと昔話をしつつ残り、ベンは事情を話にまだ遠くにいるパーティーに戻って行った。


 僕とミサは一度衛兵の詰所に立ち寄る。


 ミサも当然ダークフェアリーと行動を共にして居たのだ。


 ステイプとビーズの会話に彼女が出てくるのは間違い無いので、先に向かった。



 当然彼女の身元が明らかになってしまう……彼女が『異世界人』と分かった瞬間問題になるのはわかりきって居たのでどうするか悩んで居たが、そうなる事はなかった……


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