第570話「巨大な魔物襲来……その数膨大」


 広間に設置してあったドアをアルベイが開ける……



 『ギィ………ギギギ……ギィ………』と錆びつき軋む音がする。



 アンデット種のダンジョン特有の湿気などで、扉の金具は錆びつき扉は今にも壊れそうだ。



 扉の素材は木製なので所々腐ってしまい、最早いつ壊れてもおかしくはない。



 扉を開けると軋む音に反応したのか、『感知スキル』に多くの反応が映る。



 扉の奥は一本の通路で所々松明があるが、奥からナニカがズルズルと音をたてて居る。



 感知に表示される敵性シンボルの◉は、かなり巨大な大きさだ。



 スケルトンやゴースト、そしてクラッシャー・アースワームに比べるとだが……



 1、2匹なら問題はない……だが既に、その数は10を超えて居る。



 余程巨体を持つ魔物なのか、感知でも敵性シンボルが被さることは無い。



「何か来ます!かなりデカいです!感知に引っ掛かっていますが、余程巨体なのか敵性シンボルが被っていません!皆さん要注意で!」



「大丈夫だ!もう既に何か話わかっておるわ!この這いずる音でアンデットの巣と言えば一つしかおらん!!ジャイアント・リーチじゃ!!」



 僕はその名前から巨大なヒル?と思ったが、大当たりだった。



 ジメジメした環境を好み、個体の血液だけで無く体液までも干からびるまで吸い尽くす、超巨大なヒルだと言う。



 大きさは個体差があるが、基本的には1メートルから2メートルサイズで、身体からは神経麻痺毒を分泌する厄介な魔物だそうだ。



 説明が終わると同時にエルデリアはエルフレアとエルオリアスに指示を出す。



「あのヒルは決して近付かせてはならん!神経毒の射程範囲外から仕留めるぞ!使える者は弓を装備だ!」



 僕とミミはエルフの彼等に言われるままにマジック・ボウを取り出す。



「敵が見えてからでは遅い!エルフレア!シャイニング・ウィスプを呼べるか!?」



 そうエルオリアスが言うと、エルフレアは何やら呪文を詠唱する。



『ラ・ペギラム・ビヨルン・ディマ………シャイニング・ウィスプ!!』



 光り輝く直径10センチ程の球体が魔法陣から数個体現れて、エルフレアの指示で暗い通路に飛び込んでいく。



 シャイニング・ウィスプは暗い通路を明るく照らす……



「このシャイニング・ウィスプの召喚期限は1刻です!次回召喚には半刻は必要なので無駄遣い出来ません!ジャイアント・リーチは撃ち漏らさず殲滅を!!」



 僕達は通路の遠くに蠢く馬鹿でかいヒルに矢を撃ち込む。


 僕はエルフと精霊使い専用の弓を扱っていたが、通路であれば水魔法の爆散効果の方が効果的だと踏み、マジック・ボウをエルデリアに渡す。



「かたじけない!ヒロ殿!この弓は我々エルフにとって相性が良いので助かります!」



「いや僕自身、爆散効果の水魔法の方が扱いがいいので!!」



 そう簡潔に言葉を交わして、片っ端からヒルを殲滅する……


 巨大なヒルは水魔法の爆散ダメージを受けて、身体の一部に深刻なダメージを受けた。



 そしてその傷口にエルフによる猛射撃が突き刺さると、のたうち回り後続のヒルが通路が進めなくなった。



 巨体過ぎるジャイアント・リーチは先頭が怯むと、後続の魔物の進路障害になってくれているので非常に助かる。



 すると手持ち無沙汰のアルベイが、『燃え盛る・ダブルアックス』を力一杯前の通路に大振りする……



『ゴォォォォォォォォ!!!』



 『ギィィィィィ!!』


 『ビィ!!ギィィィィィ!!ビィィィ!!』



 突然アルベイのマジック・ウエポンの効果で通路の奥が業火に巻かれる。


 炎に巻かれた巨大ヒルは、今まで以上に苦しんでいる様に思えた。



 僕は鑑定をするのを忘れていたので、『ジャイアント・リーチ』を鑑定する……


 すると、『炎ダメージ・2倍』『弱点……炎・氷』と表示された。



 ヒルだけに、余りにも環境が上下する攻撃には対応できない様だ。


 その上湿気の多いこのダンジョンに棲んでいる以上、炎や氷には特に縁遠いだろう。



「ふぅぅ!終わりました!!お師匠様!!ワテクシこのダンジョン今までに無く大活躍ですよ!!弓最強!!」


 最後の1匹はミミの連射でハリネズミの様になった。


 彼女は普段からこの弓を練習して居るのだろう。



 あのマールが目を剥いて驚いて居るどころか、エルフ達でさえ『この娘……ミミか!?本当に?別人!?ドッペルゲンガーじゃ無いか!?』とか言われたので僕はビックリしてしまった。



 宝石鉱山のダンジョンの話はしたが、ドッペルゲンガーの話だけはドワーフ達の威厳を損なうので、彼等には黙っていたからだ。



 エルデリアはミミに、『いずれ許可が降りたら森エルフの国に来るがいい!お主がエルフの里で弓を習えば、人族でかなりの弓の名手になるだろう!』と言われたので、ミミは天狗になってしまった……



「ワテクシは……水魔法も使えてエルフ弓も使える冒険者!!しかし本当の正体はなんでも治してしまう超凄い薬師なのでーす!これで大活躍すれば、私もお師匠様の様に王様から爵位を貰えちゃうかもですよ!!お師匠様!!」


 と言った瞬間、アルベイから『調子に乗らしっかり修行に励むんじゃ!!馬鹿もん!!』と言われて、拳骨を貰っていた……


 欲しく無い物だが、貰えるだけは貰えたようで何よりだ。



 僕達はジャイアント・リーチの居た辺りに注意して向かうと、地面には『溶解液(大)』が3個に『神経麻痺毒の小瓶』が2個、『ジャイアント・リーチの表皮』が6枚そして『ジャイアント・リーチの吸血針』を8針見つけた。


 溶解液(大)は様々なことに使えそうなので1つは欲しいと言うと、『溶解液(大)』3個に『神経麻痺毒の小瓶』2個は持っていって良いと言われた。


 僕は魔導士だと思われて居るので、素材は優先してくれる様だ……とても有難い。


 『ジャイアント・リーチの表皮』6枚はエルデリアを除く全員が、そして『ジャイアント・リーチの吸血針』を一本多くエルデリアが貰っていた。


 どうやら吸血針は特殊な鏃に改良できる様で、皆が貰う予定だったが用途が無いので『持っていけば良い』と渡そうとした。



 だがエルデリアは、吸血針は予備で一本有れば十分だと言う。



 森エルフの領地にも、このジャイアント・リーチは多く繁殖している様で、必要になればその時また回収しに行くと言っていた。


 エルデリアはその場で吸血針を持っていた矢と組み合わせて、『失血の鏃』と言う物を作っていた。



 対象に刺さると、吸血針の効果で体外に血液が流れ出る仕組みの様だ。


 説明を受けて、非常に危険な鏃だと感じる。



 問題はこのダンジョンはアンデッドが多く、巨体を持つ魔物も多い。


 失血の鏃を持つ矢を射ても、絶命まで待っている余裕など無い……ここの敵は斬り伏せた方が早いのだ。



「さぁ、分配も終わりましたから進みましょう!この階層は下層階への下り階段が近いので………しかしながら、そろそろ例の『何者か』に遭遇する恐れもあります。階下に着いたら要注意で!!」



 僕達は、下層階に繋がる広間の軋む扉を開ける……


 既にその広間には魔物が居る事は分かっていて、全員に注意喚起もしてある。



 僕達はゴーストやスケルトン、最悪ジャイアント・リーチだと思っていたが全くの予想外の魔物が居た。



 中に入ると全く何も居ない……そしてその事からゴーストだと思ったのでエルフレアが『シャイニング・ウィスプ』をけしかけた瞬間……



『ギヒヒヒ!!ギヒヒヒ!!』と笑いながら魔物が姿を表した……



「なんて事じゃ!ゴーストじゃ無いぞ!レイスじゃ!!2階層にこんなバケモンじゃと!!」



 エルオリアスとエルフレアはすぐに剣を振るうが、部屋の中にいた魔物の数は12体……それが一度に僕達に向けて襲いかかってきたのだ。



 エルフレアのシャイニング・ウィスプの『光属性効果』ダメージはゴースト種には有効だが、レイスの魔物レベルは高かった。


 ゴーストの様にダメージを受けても『瀕死』になどならなかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る