第564話「ポンコツの縄張り」


「ヒロ師匠しゃまーーー!!」



 この間の抜けた呼び方は間違いなく『ミミ』だ……。


 なぜこの娘が水鏡村の巫女候補なのか……水鏡村のお婆様は見る目がないのでは?と疑ってしまう……



 僕達がいる場所まで結構な距離があったのに、猪突猛進で走ってくるミミは目が血走っていた……



「村を出るなら出るって言ってくださいよ!お師匠様!!この周辺はミミは詳しいんですから!薔薇村から出た周辺は縄張りですよ私の!!」


「走るな!馬鹿娘が!!まったく……困ったもんじゃ……このミミが村を出て追いかけるって言うんでな!ローリィ達を迎えに行ったはずが、仕方ないから村に着いて早々護衛じゃよ!!ファイアフォックスにはエクシアの似た者が沢山過ぎやしないかの!?」



 横で泣き言を言っているのは『輝きの旋風』のアルベイ達一行だ。


 その後ろには当然別行動で村に残っていた、ローリィとエイミィが居た。



 僕は彼等と話しながら、山程作ったおにぎりと味噌汁をマジックグローブから取り出し並べていく。



「いただきますぅ!!」



 到着するなり、ミミは誰より早くおにぎりを両手で掴んで食べ始める………



「お主!!おにぎり食ってる場合じゃないじゃろう!?まさか飯食いに来たとか言う訳じゃないじゃろう!!『お師匠様のお役に立つ!』って意気込んでたからワシも来たんだぞ!?」



「アルベイ!無理だって!!あのミミだよ?目の前にご飯があったらそっち優先に決まってんじゃない!」



 そう笑って言うのはローリィだ……


 ちなみにエイミィは、ミミと同じ様に並んで座って食べ始めている……



「ローリィ!お主がギルドで甘やかすから!こんな出来の冒険者になるんじゃぞ?まぁこんなミミでも今や銀級の力量があるからワシもうかうかしてられんがなぁ……」



「そうよ?アルベイ?私達だって精霊契約したんだから!もう『輝きの旋風』の主役は私達になるわよ?」



 二人の会話を聞いて目が飛び出るくらい驚いているのは、オリバーとマールだ……


 ファイアフォックスのメンバーが目の前に居て、僕と知り合いという……


 そして間の抜けたおにぎりを貪り食う娘まで『ファイアフォックスの正規メンバー』と言われたのだ。



 そして耳を疑う『精霊契約』だ……


 精霊契約すなわち『精霊使い』でSクラス冒険者で間違いない。



 そんな相手に軽口を叩く、アルベイと呼ばれるオッサンに対しても驚くのは無理もないだろう……



 しかし当のアルベイは、呆れた様な顔をしつつローリィとエイミィの間に割って入る様に座る。


 そして徐に、自分の荷物袋から木製コップを取り出して味噌汁を入れ始める。



「他の皆さんもどうぞ!食べてください。器類は横に並べて置くので汁物はそれで飲んでください」



 僕は突然現れたアルベイ達に遠慮して、食事に手を伸ばせないでいる皆に昼食を進める。


 アルベイは意外と強面だが、人間ができているのでローリィと一緒に大工衆の分の味噌汁を注いでは配っている。



「大工衆すまんのぉ!!儂のもんじゃ無いが食ってくれ!味は間違いなく保証する!!儂は遠征する度に喰ってるから味は間違いなく美味いぞ!!」



「アルベイさんにローリィさん……如何したんですか?村で何か事件ですか?」



「え!?私達に聞くの?間違ってない?………ああ……ミミは既に注意がおにぎりに行ってるのね………えっと……私達3人はミミの護衛兼務でヒロさんの手伝いよ?エイミィも食べてないで理由くらい話しなさいよ!私は大工の皆さんにお給仕してるんだから!」



「ふぇ!?だって……ローリィ!!またとない機会じゃない!ユイナさんにも認められた『影の料理人』のご飯よ?あの踊るホーンラビット亭のビラッツさんだって、一番最初にヒロさんに意見を聞きに行くのよ?そんな料理逃せないわ……このおにぎり見て!肉味噌炒めよ!?」



 ポンコツがミミだけじゃ無いことが分かって何よりだ………



 そう話していたのも束の間、一匹のハーピーが飛んで来る……



「ヒロ様!此処に居られれましたか……恥を忍んで何卒お助けを!我らが故郷の人族が作ったダンジョンの事は前に話したと思いますが……その周辺に更なる異常が……このままでは我々の帰る場所は永遠に失われてしまいます!」



「な!?それって例のダンジョンですか?まさか……あの国はダンジョンをもっと深化させる気なのか!?自分の国の目と鼻の先に地獄の入り口なんか何故作るんだ!!」



「そんなに慌てるって事は尋常では無い事件という事だな!?ヒロ?如何いう事だ!?俺にもマールにも判る様に説明をしてくれ!」



 一連の事情を知らないオリバー達に、ハーピーは自分達が住んでいた縄張りから追い出された事情を話し、それを聞いたローリィとエイミィは、精霊達が住む森の民に聞いた人族の起こした間違いを洗いざらい話す。



 その話を聞いて、更に僕の表情が豹変したせいでオリバーとマールの表情も一変する。



 今まで腑抜け切っていた僕の顔だったが、その情報は僕にとって逆鱗に触れる事だった。



 トレンチのダンジョンのダークフェアリーの一件が有るのだ……思い出してしまうのも無理はない……



 しかし、ダークフェアリーの一件も早急に片付けねばならない今の状況で、人族の起こした間違いを放置し続ける事はあってはならない。



 困るのは周辺の村であり、そもそもそのダンジョンの場所は小国郡国家の領地内では無い。


 他国領地に勝手に作ったものだ。



 そして小国郡国家もいずれ、そのダンジョンも手に負えなくなるのは明白だ。


 間違いなく自国にあれば、自分の喉笛を食いちぎられる事だろう……だからこその他国領地なのだ。



 僕はあの場所からハーピー達が追い出される原因を作ったのが、人族の身勝手な我儘だと思ったら居ても立っても居られない状態になってしまった。


 そもそもそのダンジョンは、破壊する事を新緑の騎士達や森の民に約束してしまったのだ。


 遅かれ早かれ、間違いなく行くことになる……



「ハーピーさん……ダンジョン絡みは根が深いんで理由はいいです。………龍っ子悪いけど背中に乗せてくれる?ちょっと急ぎで行く場所ができたんだ……」



 僕はそう言って龍っ子にお願いをすると、服を引き千切りながら巨大化し始める……



「パパ怒ってるのわかる!パパ怒らす奴私達要らない!!焼き滅ぼしてやる!!」



 周辺が森だけに炎はやめて貰わないと、森の一族から僕がフルボッコにされる未来予想図が描けてしまう……



「龍っ子……周辺は森だから炎はいいから……戦うのはパパだけで平気だから!」



「偉大な龍族様に私が口を出すのは問題がありますが……龍種ともあれば周辺のダンジョンからの穢れを一身に浴びてしまいます……あまり近付いてはなりませぬ!ハーピーは人間とのキメラ種なので平気ですが……龍種ともなれば近づき過ぎればその身に受ける被害は大きくなります!」



 それを聞いた僕は流石に龍っ子はダンジョン付近までは連れて行けない。



 その為僕を探しに来たハーピーにお願いして、仲間数匹に同行して貰い龍っ子のお供をさせる事にした。


 お菓子でも与えておき、僕が帰って来るまでその場でお茶会でもしておいて貰おう……



 開拓地で伐採作業をしていたが、僕が面倒を見られない以上は護衛の準備に些か不安が残る。



 アルベイ達に依頼をしても良いが、そのアルベイは既に僕に着いて行く気で満々だ。



 仕方ないので皆には事情を簡潔に説明して、作業を終わらせて村に帰る様に言う……



「儂が依頼した冒険者もおるので問題は御座いませんぞ?ヒロ様の戦闘力が異常なだけで、この者達は普段からこの周辺の樹木伐採では護衛をしておりますからな!」



「俺達も銅級資格だけど薬師としてだけじゃないから大丈夫ですよ!給料分は働きます!なぁ?ドロス!」



「ああ!その通りだペイ!ヒロさん!ここは俺らが頑張るんで、ゴーレムの指示だけしてあとは任せてください!」



 ギルド職員が連れてきた魔導士も頷きながら、『ゴーレムへの魔力補充は任せてください!』と言い始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る