第557話「龍っ子と共にいざ薔薇村へ!」


「おいおい!落ち着け!どうしちまったんだ!?……旦那様……どういう訳か馬達がいう事を聞きません……これではどうにも………」



 御者も馬を宥めるがどうにもならず、物凄く困った顔をする……



 仮にも龍だ……人型になっていても龍である事には間違いがない。



 龍っ子は馬を食べよう等とは思っていないが、馬は本能で『コイツはやばい!危険が危ない!!』と悟った様だ。



 すると見かねた龍っ子は、僕に提案を出す……



「パパの行く場所に私が乗せて行った方が早くない?地上走るんでしょ?この馬の箱で?私の方が絶対早いよ?」



 突然龍っ子がそんな風にいうので、安直だがそれも良いかな?と思ってしまった。



 僕は護衛もつけずに行く予定だったので、それこそ龍っ子に乗っていくなら速くていい。



 村から少し離れた場所で降りれば、村人が龍っ子に怯える事は無いだろう。


 それに帰りは薔薇村で馬を調達して帰れば問題はないだろう。



 そう思ったら居ても立っても居られないので、僕は龍っ子とギルドの裏手の門から貯水池の方へ向かう……なるべく冒険者が少ない場所だ。



「ここなら龍の姿に戻っても目につかないから……多分大丈夫かな?街の人に見られない高度まで一気に上がれる?」



「全然平気だよ!私これでも飛ぶのは得意なんだから!洞窟は狭いけどここは天井が無いから大丈夫!!」



「そ……そうか……じゃあ向かおうか?」



「あ!!洋服破けちゃうからパパが持ってて!」



 ぱぱっと服を脱ぐと、龍っ子は5メートルを超える龍の姿になる。


 今更気がついたが、龍っ子の洋服は僕が渡した服では無く子供用の服になっていた。



 どうしたのか聞くと、宿の亭主が何着か用意してくれた様だ。


 近所の娘のお古だそうで、着まわせる様に数着貰ったそうだ……何から何まで感謝しかない……。



 僕は龍っ子の背中によじ上ると『じゃあパパ行くよ?』と言って、あっという間に飛び立つ龍っ子……



「うぉぉぉ………高い!高い…………そして……寒い…………く……空気も薄い!!」



 何回か龍っ子が羽ばたくとあっという間に高度が上がる……酸素が今まで以上に薄くならないか心配だったが、街を出た後は低空飛行をしてくれたので問題はなかった。



 馬車に比べると格段に速い……そして龍っ子は気持ちよさそうに飛んでいる。


 龍種だけあって自由に飛べる空は気持ちいいのだろう……



 30分もしないうちに半分の距離を滑空する龍っ子、羽ばたきせず体制を維持して進んでいる……



「これって羽ばたかなくて落ちないの?」



「何言ってるのパパ?龍は魔力で飛ぶんじゃん!翼で飛ぶワイバーンとかとは違うよ?パパは人の型になり過ぎじゃない?たまには飛んだ方がいいよ?」



 飛べる訳はないと言いたかったが、パパじゃ無いと言っている様なものなのでそこは黙っておく。



 龍っ子をよく見ると、魔力容器に自分を包んでいる様な状態にあった……


 水っ子もモンブランも魔法はイメージが重要だ……と言っていたが、重力を遮断して浮いているのだろうか?



 今度試してみよう……超異世界人の様になれるかも知れない!


 しかしそんな考えはすぐに打ち砕かれる……



「パパ……何か飛んでくるよ?あの鳥変な格好………何かな?」



 目に前に現れたのはワイバーンやグリフォンの類ではない別のもの………『ハーピーの群れ』だった……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「幼き龍よ!とまりなさい!此処から先は我々ハーピーの縄張りなり!幾ら龍種とて無作法に我々の縄張りなりに踏み入ろうなどとは………むむ?……人間?背中に乗せているのは人間か?」



「パパ!コイツら喧嘩売ってるのかな?………わたし此処通りたいだけなのに!!」



 龍っ子はその場で羽ばたきホバリングするが、僕はぶっちゃけ怖くてたまらない。


 ホバリングは安全装置でも無い限りやってはいけないものだ!間違いなくズリ落ちそうだからだ。



「龍っ子一度地上に……パパ……落ちそうだから!!」



 僕がそう言うとハーピーは笑い始める……



「龍種が人を『パパ』だと?そんな脆弱な種を父親扱いする龍など所詮龍の形をした『モドキ』なのであろう!消えろ!龍モドキが!!」


 ハーピーは僕の肩に羽根を飛ばしてくる、足場が無い僕は見事にダメージを受けてしまう。



 コレが戦闘開始の合図になろうとは、僕もハーピーも思っても見なかった……



「パパを笑ったな!!その上怪我まで!!許さない!ハエ風情が!!」



 龍っ子は『火龍』なのだ……幾ら小さくてもプライド高き火龍である。



『ゴアァァァァ』



 突然目の前が溶鉱炉の様な熱を発する……龍っ子は火焔ブレスを吐いて周囲のハーピーを一瞬で黒焦げにする。



「か……火龍だと!?馬鹿な……何故火龍がこんな場所に……待て!………ギャァァァァ……………」



 逃げ惑うハーピーの群れを追い立てる龍っ子は、僕の事を完全に忘れている様だ。


 必死につかまっている腕も痺れてくる……



「あ!!………」



 次の瞬間だった……火龍の突撃を避けようとしたハーピーが、腕が痺れている僕と接触する……



『ドン!!』



 空中に放り出された僕は、天地が逆さまになり真っ逆さまに落ちていく。


 しかし龍っ子は、頭に血が上り周りが見えてない状態だった。


 やばいな……コレは終わったかもしれん……そう思っていると、急に天と地がひっくり返る……



 そして刺す様な痛みが両肩に走る……


 他のハーピーとは、二回りは大きさが異なる個体が僕を捕まえていた……



「龍種よ!火龍の娘よ!!ただちに戦闘を辞めよ!!この者が見えんのか?闘いのあまり忘れるとは……何事か!お主にとって大切な者なのだろう?」



「パパ!パパを離せ!!グルルルル!!ゴアァァァァ!!」



 龍っ子は唸り声をあげて、僕を捕まえているハーピーを威嚇する……


 僕を捕まえて優位なはずのハーピーも、その様に焦っているのか、顔に冷や汗が見える……



「停戦……停戦だ!我が眷属の非礼は詫びよう!この人間も地上に下ろさねばならん……私が見つけていなければ、落ちているこの人間は地面にぶつかり死んでおったのだぞ?だから……停戦だ!」



 10数羽のハーピーが黒焦げになって地面に転がっているのが見て取れる……此処で休戦という方にも、なかなか辛い立場になるだろう……



 それから龍っ子は停戦に応じ、僕は地面に降ろされた。



「いててて……肩に穴が……ポーション飲まないと流石に治らないかな?……今から出すのはポーションなので!良いですか?攻撃しないでくださいね?」



 僕はそう言って、マジックグローブから初級ポーションを取出し飲む。


 そして僕は通過しようとしただけなのに何故攻撃をしてきたのか理由を聞く……



 魔物だから攻撃した……と言われたらそれまでだが、話すだけの知恵が有るのだから言い訳位はするだろう……



「流石にワタシとて爪が刺さる事まで考えておれんのでな……すまんな……我が眷属が無礼をした様だ……話を聞くと通過しようとしたとか?」



 全身黒焦げハーピーの彼等を指差しながら、襲われた時点の説明と自分の目的の話をする。



 目に前にいたのはハーピー族の長らしく、火龍との戦闘が突然始まったと聞いて急いで飛んできたそうだ。



 どうやって仲裁に入ろうか考えていたら、僕が龍の背中から落ちたのを発見したそうだ。


 なんとか手中に収めたので仲裁の材料にしようとしたそうだが、悪手であった……



 ハーピー族に囲まれている僕を見て、龍っ子はさっきより凶暴さを増している。



 ずっと『パパに手を出したら、この世界のハーピーは1匹残らず皆殺しにする!』と言って聞かない……会話のムードにもならない。



 全身黒焦げのハーピーを見るとまだ息があったので、僕は自前のポーションを飲ませて回る。



「取り敢えず一命は取り留めたので、話を最初からやり直しましょう!……ぶっちゃけ問題しか無いですが、火龍と戦うよりマシだと思います……彼女を傷付ければ、多分『母火龍』がきますよ?」



 僕の言葉に驚きが隠せないハーピー達だった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る