第556話「MP強化」


「クルーガー先生!め……目が!!ぐるぐるします……」



「うむ!アープ!それが『魔力酔い』の状態じゃ!漸くMPが空になった様じゃのぉ?かなり練習をしとったみたいだな?良い事じゃ!!」



 アープは以前にMPを空になるまで使った様で、それからは魔法を使う度に両親に心配されたので、使う回数を決めて訓練していたそうだ……



 フレディ爺さんに魔力の底上げ方を聞いてから、空にしようと頑張ったがなかなか先が長かった。


 MPは自然治癒の他に装備でも回復する……ちなみにアープの簡易鑑定には『MP回復強化(中)』と出ている



 アープの両親が心配した余り装備品を新調した様で、どうやらマジックアイテムを装備している様だ。



 数人は魔力切れを起こして居たが、生活魔法ではそんな大量にMPを消耗しないので減らす方の生徒も大変だった。


「魔力切れを起こした生徒は、座って休憩しておくんじゃぞ?その目がぐるぐるする感覚が無くなればMP強化が終わった証拠じゃ!魔力切れを起こしたら、しっかりと休む!!続けても最大値まで回復しないとMP強化は出来んからのぉ」



 フレディ爺さんから細かい指示が飛ぶが、全員必死になり魔法を唱えている。


 僕は気になった事をフレディ爺さんに質問する。



「フレディさん……空になった状態で、MP回復薬を使って最大値まで回復させた場合はすぐに強化できるんですかね?」



「ん?出来るぞ?じゃがそこまでして50MP程度を増やすのも、金がかかって馬鹿馬鹿しいじゃろう?毎日空にすれば50日もあれば済むことじゃからな!」



「実はマジックアイテムを作る時に、それが出来たら最高だと思ったんですよ!どうせ何個も作るなら、一緒に上げた方が得だよな……って思ったんですよ!」



 フレディ爺さんはそれを聞いて呆れ果てる……


 効率的と考えるのは良い事だが、反則的な上げ方を良く思いつく……と思った様だ。


 しかし他の講師陣はそうでも無かった様で、僕の援護射撃をしてくれた。



「しかしヒロ講師のその着目点は素晴らしいですな!我々も常に刺激を受け、常識にとらわれない様にせねばならないと思いましたから!!」



 フレディ爺さんの考えとは裏腹に、他の講師からはなかなか良い評価を貰った様だ。


 しかしフレディ爺さんは、呆れたまま生徒の指導へ戻る……



「良いか?生徒諸君!生活魔法を使いこなして、自分の体内に確実に魔力の通り道を構築するのじゃぞ?右手や左手を交互に使うのは良い事じゃ!それだけ魔力の扱いが上手くなるからな!」



 フレディ爺さんはまだ魔力の扱いをうまく出来ない生徒には、生活魔法の基礎を教えている。


 当然だが魔法によって得意不得意がある以上、そこを探る事が一番大変だ。



 生活魔法にも属性がちゃんとあるのだから、得意不得意が色濃く反映する……



「では!生活魔法が使える様になった者は、一歩先の属性魔法の学習へ移るぞ?自分が使える生活魔法の種類ごとに纏まるんじゃ!その形式の魔法を扱うのが近道じゃからな?使えない魔法を一生懸命習っても、全くもって意味時間の無駄じゃ!いいな?」


 フレディ爺さんは『火』と『水』と『光』に分ける。


 生活魔法に欠かせない3種類だが、稀に風や土の方が扱いが上手い生徒もいるので、そこは例外を設けている。


 そこから初歩になる『アロー系魔法』の簡単な再現方法を教え終わると、残念ながらベルが鳴り授業が終わった。



「良いか?家でアロー系魔法は絶対に使ってはならん!下手をすれば、家族が死ぬかもしれん!いいな?使うのは学校でじゃ!!必ず自分が教わる講師の前のみじゃぞ?家で使って良いのは生活魔法まで、守らぬ者は即刻退学処分じゃ!ワシは言いつけを守らん奴の面倒は子供とて絶対に見ないからな?わかったな?」



「「「「はい!クルーガー先生!ありがとうございました!!」」」」



 流石というしか無い……あっという間に全生徒に『生活魔法』を叩き込んで、その上半数近くは『アロー系魔法』を扱える様になっったのだ。


 学院長も拍手喝采で大喜びだ。



 それもその筈で、彼等生徒の親は校舎からその様を見ているのだ。


 当然学長も鼻が高くなる……



 子供達は勢いよく校舎へ走って戻り、親に学んだ魔法の説明をするが、その親と言えば何とかしてフレディ爺さんの個人レッスンを受けさせたくて息巻いていた……。


 しかしフレディ爺さんは『転移』の使い手なのだ。


 彼等に捕まるはずもなく、学長宛の伝言を残して忽然と姿を消した。



「あら?クルーガー老師様は何処に?ヒロ講師はご存知?」



「なんか……面倒臭い事になりそうだから街に帰るそうです……と言うか帰りましたね。これ預かった伝言です。」



「ど……どうやって帰ったのですか?入り口は向こうですよ?」



 僕は『さぁ?』と誤魔化しつつ、正門にある馬車の方へ向かう……


 何故ならば予定にない授業をしたのだ……かなり時間が押している。



 予定ではマジックテント話をした後に、僕は薔薇村に行く予定だった。


 街建設の打ち合わせの為だが、マークラに謝らねばならない……村への到着は間違いなく日が暮れているだろう。



「ミーニー学院長様……僕は男爵としての仕事があるので、これから薔薇村に向かいます!また今度様子を見て来ますね!」



 何かを話したそうにするミーニー学院長を置いて、僕は馬車で薔薇村に向かう準備をしに宿へ向かう。


 アリン子なら速いが馬車なので、往復で間違いなく時間がかかるからだ。



 現在の時間は既に15時を回ってもうじき16時だ……今日は薔薇村で宿泊になるだろう。


 そうなれば龍っ子の食事を持たせて、数日山籠りさせないとヤバいのだ……僕ではなくこの街が……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 宿に着くと、亭主と龍っ子が仲良くご飯を食べていた。



 ファイアフォックスで寝坊した龍っ子は、ドワーフ王の見送りに間に合いそうにないのでギルドに置いて来た……


 龍っ子が起きたら宿に連れて行って貰う約束をサブマスターにしておいたのだが、どうやら問題なかった様だ。




 宿に龍っ子を連れて来た理由は簡単で、龍っ子に飯を与える為なのだが問題なく亭主に馴染んでいて、お爺ちゃんと孫の様な空気感を出している。



 宿の亭主には別途費用を払うので、大量の飯を用意して貰う話をしておいた。


 ちなみに悪魔っ子は、安定的に早起きして孤児院に朝から遊びに行ってしまった……相変わらず自由気ままな生活だ。



「パパ!おじいちゃんがね!ご飯作ってくれたの!2階のお布団もフカフカでいつ寝ても良いって!!私ここでパパと暮らす!!」



 さぁ……早速だが大問題が浮上した……龍っ子は既に一日中此処に居るのだ……


 話を聞く限り、お爺さんの畑を手伝ったり、買い物に行ったり、夕飯の準備の手伝いをしたり……かなりお手伝いをして、頑張る龍っ子を見たお爺さんも気に入った様だ。



 だが、龍っ子がここに居るのはかなり危険だ……


 母火龍が起きたらそれこそ世界で一番危険な場所になってしまう。



「パパはまだお仕事で、これから隣の村まで行かないとならないんだよね!ご飯はここのお爺ちゃんにたくさん作ってもらったから……。龍っ子がお山でちゃんと食べれる様にパパがご飯お願いしたんだよ?それに、ママのところに一度戻って安心させないと!そうでしょ?」



 ヤダヤダ攻撃が始まるかと思ったが、呆気なく鉱山へ帰るという龍っ子。



「ママは寝てるだろうけど……妹達が心配だから帰る。でも……途中までは一緒に行きたい!!明日もお宿にご飯食べに来ていいの?」



 僕はその言葉で宿の亭主を見るが、断るに断れないのか仕方なく首を縦に振る。



「絶対にここのお爺ちゃんに迷惑かけないって約束出来るならいいよ?でもパパは朝はお仕事だから朝に宿に来るのは難しいかな?出来ても夕飯を一緒に食べるくらいかな?」



 宿の主人は龍っ子と言った時点で『何者』か気がついた様で、『また明日ご飯たくさん作ってやろう!お母さんに心配かけちゃダメだじゃぞ?』と言って、やんわり追い出しにかかっていた。


 僕は使ってないマジックバッグ(中)を用意して、亭主に用意して貰ったご飯を詰め込んで龍っ子に渡す。



「じゃあ途中まではパパと馬車で行こうか?」



 僕はそう言って龍っ子を馬車へ案内する。


 すると馬が怯えて暴れ回り、勝手に走り出すわで馬車は大変なことになってしまった……

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