第554話「魔導士学院とフレディ爺さん」


 ギルド内で話したのは、今後の予定がメインだった。


 ドワーフの姫二人が街内を歩く場合は伯爵達の騎士団が護衛として付くが、僕が手が空いて居る時は必ず同行することが決まった。


 僕が魔導士学院へ行く話をしたら、二人は居意味がなかった様でドワーフの姫様方は伯爵家に大人しく戻って行った。


 クリムゾン・ミスリルが魔法精製された物だと知れば、目の色変えて魔導士学院のドアを叩いていた筈だが、知らない事は幸せでもある。


 何故なら、製法は『錬金術』に関する事だからだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「まぁまぁ!ヒロ様!わざわざ学院にお越し頂けるとは!今日は水魔法の講義日ですが……生憎講師がおりませんので……可哀想な生徒は自習となっているんです……」



「実はあの魔法のテントの件で、学院まで来たのですが……じゃあ授業をしましょうか?僕が知っている事だけになりますが……」



 ミーニー学長は自分から講師不足と言う事を言ったが為に、マジックテントの詳細が後回しになった事に気が付いた。


 しかし後の祭りだ……僕は暫くマジックテントを使う旨をミーニー学長に言った後に一枚の羊皮紙を渡す。



「ヒロ男爵様……コレは?……」



「テント内部の一部ですが描写した物です。中身の特性も書いておきました。レポート提出が約束だったと思うので……召喚の魔導書はレポートをまだ書き終えてないので、もう暫く待って下さい。読めても書くのには意外と時間がかかるので……」



 するとミーニー学長は、穴は開きそうなくらい羊皮紙の詳細を読み始めた。



 僕は『授業の為に教室へ行く』と小声で言ってから、学長室から退出する……



 学長室を出て階段を降りていくと、聞き慣れた声が誰かと揉めていた……その声の主は『中を見学させてくれ』と言うが、プッチィ主任に追い払われている。



「ちょっと!フレディさん……何を揉めているんですか?」



「おお!おったおった……魔導士学院に行ったとザムド伯爵に聞いたのでな。ワシも後を追ってきたんじゃ!そしたらこの娘に此処で足止めされた……と言う訳じゃ!」



「ヒロ様のお知り合いだったのですか?今までそんな事を一言も仰らなかったではないですか!一言でもその事を言って頂ければ、もう少し話はスムーズだったと思いますよ?お爺さん!!」



 フレディ爺さんにそう言ったプッチィ主任は、僕に『どの様なご関係ですか?』と聞いてきたので『ドワーフ廃墟で知り合った、引退された宮廷魔術師さんですよ?』と応える。



「はははは!ヒロさんたら冗談がお上手ですね!引退されても宮廷魔術師様ならば、護衛騎士の一人は連れて歩いてますよ?」



 とプッチィが言ったので、フレディ爺さんは『なんじゃ?魔法を見ないと信じられないのか?まったく……最近の者は対象者の魔力も満足に見られんのか?』と言って、火球を生成して見せる……



「プッチィと言ったな……コレでどうじゃ?言葉で信じないならば、目で見て信じるしかあるまい?手品だと言うならもう2、3個『巨大な方』の火球を出してもいいぞ?」



 そう言ったフレディ老師は、お手玉でも出す様に火球を出してクルクル回す。


 プッチィ主任はその光景を見て大慌てで謝りながら、ゲスト証をすぐに渡すと……『ま……魔導士学院へようこそ!フレディ老師様!』と苦笑いをしながら答えていた。



 僕は単純に老師の目的が気になったので、『フレディ老師は何をしにこの学院に来たのですか?』と聞くと、『お主が扱う魔法の根源が何なのか……それを知るために決まっておるじゃろう?』と返してきた……



 僕の魔法の根源が何か知っているなら、こうも苦労はしていない……



 僕はちびっ子の授業についてフレディ爺さんへ説明をする。


 髭をさすりながら『懐かしいの……誰かに教える場所か!!』と言って、僕に早く教室へ行く様に勧めてくる……



 僕はフレディ爺さんと話しながら教室へ向かうと、生徒達が皆教科書である『水の魔導書 初級・第一巻』と睨めっこしていた。


 僕はあらかじめプッチィ主任から同じ物を預かってから、プッチィ主任を先頭にして教室に入る。



「皆さん!自習をやめて注目してください!今日は水魔導士のヒロ男爵様が『特別授業』をして頂ける事になりました」



 プッチィ主任がそう皆に伝えると、見慣れた面々の他に数人新しい顔が増えていた。


 顔見知りはアープとその友達にザムドの息子であるザベル、イスクーバの妹であるノンレムも教室に居た。



 教えると言っても座学は全く専門外だ……そもそも魔法がなんたるかを等僕が知るはずも無いのだから、逆に教えて欲しいくらいだ。



「頑張れよ?童!最初が肝心じゃぞ!!」



 僕はフレディ爺さんにそう言われたので、インパクトの強い自己紹介を思い付いた。



「皆さんこんにちわ!今日からみなさんの指導をするヒロです!ヒロ先生と呼ぶか、先生と呼んでくださいね!皆さんがしっかりと頑張れば、この位の魔物召喚が大人になったら出来るかもしれません!頑張って学んでいきましょう!」



 僕はそう言うと、自己紹介がわりに『アクアプリン』を召喚する……すると魔法陣から3メートルオーバーのアクアプリンが3匹這い出てくる……



「「「「「きゃぁぁぁぁぁ!!!」」」」」


「「「「ひぃぃぃぃ」」」」



 ほぼ全ての生徒が教室から逃げ出していく………



「アホか小僧!!初対面でアクアプリンを召喚とか……相手は子供じゃぞ?馬鹿なのか?おぬしは………」



 教室に残っていたのは、アープとその友達そしてザベルとノンレムだけだった。



「ヒロ様!皆を呼んできますね!!」



 そう言ったのはノンレムで、皆を呼びに行ってくれた……


 しかしアープとその友達は、アクアプリンを取り囲んで……『プルプルしてて美味しそう!』とか『上に乗ったら怒るかな?』とか言っていたが、アープに怖い者はない様でアクアプリンを撫で撫でしていた……



 攻撃されるならまだしも、人間になど撫でられた事のないアクアプリンはアープをじっと眺めていた……



 暫くすると、ノンレムとプッチィ主任そして学長に宥められて、生徒達が教室に帰ってきた……



「ヒロ様?生徒が休憩室に逃げ込んでいましたが……何が………おっっほぉぉぉぉぉぉ!!オホホッホオホホホ!!アクアプリンではありませんか!コレは生徒の為に?皆さん!魔物のアクアプリンが大人しくしている事など120%有りません!こんな間近で見れる貴方方は幸せ者ですよ!!」



 子供達の事をそっちのけでアクアプリンに近寄り、マジマジと観察するミーニー・ラットリング学長……


 アクアプリンを撫でているアープにミーニーは、『アープさん……アクアプリンが怖くないのですか?』と聴くと……アープは……



「アクアプリンちゃんは撫でて貰うの初めてで、嬉しいって言ってます!学院長先生!!」



 などとアープは言う……


 その言葉を聞いたフレディ爺さんは、アープを見て驚いた顔をしながら『ほう?お嬢ちゃんこの魔物の言葉が分かるのか?』と言う。



 フレディ爺さんがそうアープに聞くと、アープはアクアプリンが自分へ色々と話しかけて来ていると皆に説明をした。



「こりゃまた……珍しい事もあったもんじゃ!お嬢はこのアクアプリンと絆を持った様じゃの?どれ!手を見せてみぃ……」



 そう言ってフレディ爺さんはアープに手を出させる。


 よく見ると、彼女の手の甲には、『魔法陣の様な紋様』が浮かんでいた……



「これはのぉ……『契約の印』と言って、アクアプリンを自在に呼び出せる『契約印』じゃ!お嬢ちゃんの魔力を元にこのアクアプリンを呼び出せるぞ!良いものを手に入れたのぉ……ヒロ先生に感謝せにゃあかんぞ?……じゃが魔力をもっと鍛えんとならんな!今は呼べても、この状態よりはるかに小さい大きさでじゃ」



 フレディ爺さんはクラスの生徒全員を前に、テイマーの授業を始めた……

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