第550話「ドワーフ娘の願い」


「王冠が見つかりました!話を聞けばヒロ様が見つけてくれたとか!それにバウギン伯爵の功労も……彼が父を裏切ってないことが明らかになり、長い間あの廃墟で王冠を護り続けていたと……王も涙して喜んでいました!」



 ハルナは王冠が見つかったことが非常に嬉しい様だ。


 するとミドリも感謝を伝える……



「ドワーフ族の宿願であったクリムゾン・ミスリルクラウンの発見は、王の立場を揺るがないものにしました!感謝の言葉もありません……。父はすぐにドワーフに化けた魔物を排除し、必ず脅威を排除します!今は満足なお礼が出来ませんが、必ず御礼をすると申しておりました!」



 ミドリは感謝を言いつつも、父であるドワーフの王がこの場に居ないことをしきりに謝っていた。


 王は帰路の予定を立てているようで、ドワーフ王国までの道を如何にして帰るか街営ギルドで話し合っているようだ。



 僕が明日からのドワーフ王の予定を聞こうとしたが、それより早く口を開いたのはハルナだった。


 エクシアに連れて来られてからモジモジしていたハルナだったが、何かを決意したようだ。



「実は……厚かましいのですが……私共からお願いが御座います!!王の冠が見つかった今クリムゾン・ミスリルを頂くお願いなど出来ません……。ですが!!あの特殊金属を打つのはドワーフの夢で御座います!!何卒私達姉妹に……扱わせて頂けませんでしょうか?」



 ハルナは物造りが好きな様で、どうしてもクリムゾン・ミスリルを扱い何かを作りたい様だ。


 横を見ると同じように口惜しそうな顔で見るミドリが居た。



「そ……そんな顔で見られたら………じゃぁ……僕が扱えそうな武器か防具をお願い出来ませんか?って言ってもショートソードとロングソードは結構な業物を持っているので、それ以外の物ですが……」



 僕はそう言ってからエルフの剣とフェムトの剣を見せる。



「こりゃまた……びっくりだね!ハルナ見てみな!これは太古のエルフ剣だよ!それにこっちはかなり特殊な剣だ……流石にこれ以上の剣だとすると……それなりの素材が必要だね……」



「そうだね……。ヒロさんこれはミドリの言う通り素材が必要だわ……残念ながらアタイ等の特殊素材は全部次元収納に入れてて此処にはないんだ。今あるのは普通のミスリルインゴットくらいかな……この剣と同等かそれ以上の良い物を作るには、素材が手に入り次第だけど……」



「そうだね!ミホが居ればね……あ!ミホって言うのは私達の姉妹なんだけど、生まれつき次元収納を使えるのよね……次元収納って鍛冶職人にとっては、側に居なくて漸く気がつく貴重スキルね……」



 僕はドワーフの鍛冶職人を目の前にして、ちょっとした事を思いつく……それは『ドワーフ炉』だ。



「そういえば……お二人は炉を作れませんかね?ドワーフ仕込みの炉なら、かなり良いものができると思うんです……実は僕が治める村が先日一つ失われたので、それを合併した街の整備が急務なんですよ……鍛冶工房を造るのも今ならちょうど良いし!」



「ドワーフの炉を?構わないけど……炉がいくら良くても、使う奴がたいした事のない職人じゃ炉自体が無駄になっちまうよ?」



「ミドリさん勿論それは込みで考えてます。人間が作った炉も準備するので、ある程度力量がある人用に作りたいんですよね……クリムゾン・ミスリルとか他にも良い金属が手に入った場合の為に、炉も良い物があった方がいいかと……」



 僕がそう言うと、ミドリとハルナは顔を見合わせ……



「まさか……あの金属がそうそう手に入るとは思えないよ?ダンジョンでまた手に入ったらとか考えているかも知れないけど……」



「そうだよ!ハルナが言う通りさ!まぁヒロ様の言う通り、クリムゾン・ミスリルを加工するには『特殊金属炉』が必要になるのは当たってるけどね!」



 僕はその話を聞いて、尚更ドワーフ炉が必要だと思い知らされる。



「やはりそうなんですね?もし、ドワーフの国で使っているような炉が用意出来るなら……出来れば3つくらい欲しいんですけど……。このインゴット差し上げますので、そうすれば好きな物を作れますよ?その炉の報酬って事でどうですか?」



「ねぇミドリこの人間………馬鹿なの?」


「ハルナ……私もそれ思ったわ……絶対に馬鹿だね………」



 僕は二人に延々とクリムゾン・ミスリルの希少性を説明される……それはまさに熱弁だった。



 武器や防具そしてアクセサリーから食器に至るまで、あらゆる職人が求めていると言うのだ。


 だからこそ『報酬としてあげる』と言っているのだが、それは逆に気に食わないらしく金属を粗末にしていると怒り始めた。



「じゃあ……アサシンナイフをそれぞれの感性で2本作ってください!そして残った量を報酬でどうですか?」



「ほう!?良いじゃないか!ミドリあんたには負けないよ!」


「ハルナ!何言ってるのさ!アタイが一番に決まってるでしょう!?勝ってからいいなよね!」



 早速二人はやる気が満々だが、問題はその加工する『炉が無い』という事を気が付いていない……



「あの……水を差す気は無いんですが……その炉が無いんですけどね……ドワーフ国には戻れないんですよ?危険が回避されるまでは……?」



「良いじゃないか!アタイ等が使う炉から設計してさ……そこから競おうよ!!」



「ミドリってば、たまには良いこと言うね!これは鍛冶職人として負けられないわ!俄然やる気が出てきた!『王女らしく!』って言う親父も居ないから自由気ままに金属叩けるわ!!これも含めてヒロのお陰ね!今日から飲む酒は絶対美味しいわ!」



 ハルナがそう言ってから何故か『すいません!エールお願いします!』とビラッツに言う……まだ話は終わってない筈なんだが……



 ドワーフらしくお酒が好きだったようで、勝手に二人は話を終わらせていた。


 そして、いつの間にか炉の設計図について語る飲み会に変わったようだ。



「一応話は終わったようだな?何やら問題しか残らない会話だったが……ドワーフ王国の依頼は受けると言う方向で良いのだな?まぁ……引き受けてもらわねば困るのだがな。ドワーフ王たっての望みであるからな……」



 どうやら街に戻るときにドワーフの王とザムド伯爵は、既に何かの取り決めをしていたのだろう。


 二人の宿泊先は当然だが伯爵家になる様だ。



「依頼を受けても僕にも予定がありますからね?そもそも僕へ宛てがわれた領地の建て直しは、陛下から言われた事でもありますから……一日中一緒に居る訳にはいきませんよ?ずっとになるとそれこそ何もできませんから」



「大丈夫だよ!アタイもミドリも立場は弁えているから!安全が確認されるまでは伯爵邸に居るようにするし、基本的には戦士団でどうにか出来るだろうしね!」



 ハルナもミドリも炉の設計で頭がいっぱいと思ったが、どうやらこっちに話の内容は耳に入っているようだ。



「ミドリ!話の続きは後にしてギルドに行こう。戦士団も何人置いていくか聞かないとならないし!ヒロさんの言うことも確かだよ。私達で出来る部分はなんとかしないと!」



 ハルナは僕にそう言うと、ミドリを伴い外の戦士団と足早にギルドから帰って行った。


 明朝には彼女たちの父はドワーフ王国へ帰るのだから、当分お別れになるので急ぐのも当然だろう。



 彼女達は、ドッペルゲンガーの問題が片付くまでは国には帰れない……と言うか王が許可しないだろう。


 それは数ヶ月か……それとも数年か分からないが、危険がある限りは国王からの許可は出る筈も無い。



「あの子達も大変だよな……好きなだけ鉄が打てるって強がってたけどさ、ああ見えてお姫さんだよ?今までみたいに暮らせないんだからなぁ……」



 エクシアの言葉も的を得ていて、周りは頷くしかなかった。

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