第549話「土精霊ノームとノーミー」


 土精霊が多く住んでいたジェムズマインの地下鉱脈は、人族とは最初こそ関係は上手くいっていた。


 人族が鉱山の深部の鍾乳洞内に土精霊がいる事に気がついた時、坑内にノームを祀る祠や祭壇を建て、そして事故が起きない様に祈り御供物をした。



 精霊は坑内の危険を察知すると坑夫に知らせ、人族はそのお陰もあり坑内を掘り進めることができていた。


 鉱夫達の純粋な想いからの契約にノーム達は応じていたのだ。



 だが、そこに貴族達が『欲望』を持ち込んだ。


 ノームを祀る祭壇を魔導士達に命じて『強制契約』の場にしてしまった……全ては鉱脈の位置に詳しいノームの力を欲した為だ。



 精霊の住処であった鉱脈群から離れられない彼等は、強制契約に応じるしか無かった。


 しかし、精霊達の不幸は強制契約だけでは終わらなかった。



 k欲に狂った貴族は精霊の加護を使い、より多くの宝石を掘る為に坑夫に無理をさせた。


 鉱夫が足らなくなると初めは奴隷を用いていたが、欲が勝ったせいで問題性の高い犯罪奴隷までも用いて、奥へ坑道をどんどん伸ばした。



 精霊の発言は全て無視され、より希少性のある鉱物発見にのみノーム達の力は利用された。


 当然そうなれば、相次ぐ落盤による事故や奴隷の違法労働により、死者が続出する事になる……



 だがその状況を表沙汰になど出来ない貴族は、遺体を使用されない暗い坑道内に放置した。




 埋葬などされなかった遺体の魂は、寄り集まりむくわれぬ不浄な塊となり地下坑道を彷徨う霊の集合体に成り果てた。


 そして新たな被害者を増やし続け、鉱脈のある坑道をより危険な場所へ変えていった……


 その為に鉱山深部はあっと言う間に不浄の地に様変わりし、ダンジョンが生まれ切っ掛けになった。



 しかしそれを感じ取った地の精霊達は、精霊力で自身を硬質化させその鉱脈群への壁となった。


 精霊ノームの力無くしては鉱脈を掘り当てることが出来なくなった貴族は、鉱夫達諸共証拠を隠滅してしまう。



 ダンジョンの存在を知っていても、多分それは行われただろう……


 問題は身を挺してダンジョンを隔離した精霊ノーム達は、鉱脈諸共ダンジョンに飲まれてしまったと言う事だ。



 運が良かったのは硬質化したお陰で、穢れの影響をほぼ受けなかった事だろう。


 そして年月が経ちダンジョンは育っていった………そしてとうとう問題の日が来る………



 ドワーフが『悪魔』を召喚したのだ……



 受肉を果たしたかったピットフィーンドは言葉巧みにドワーフの指揮官を騙し、魔物肉を集めさせそれを指揮官本人のガウギンに食させた。




 その上で新たな穢れを使い、ダンジョン下層階で新たな悪魔種の『ドッペルゲンガー』を呼んだそうだ。


 精霊達の説明では、ドッペルゲンガーは『魔物』ではあるが、極めて『悪魔種』に近いそうだ。



 不定形(個体的認識を特定できず)であり、何者かに依存しその者の姿を使わなければ存在できない極めて脆弱な存在な反面、悪意の塊であり通常の魔物より邪悪な者……それが『ドッペルゲンガー』なのだと言う。



 悪魔種も、基本は人族を利用して化現する事が多い。


 悪魔種は取り憑いた個体に疑念を持たせ、その後苦しみを与えて自我を崩壊させた後に、抜け殻となった肉体を利用するのだそうだ。


 しかし今回は器になる悪魔個体の存在が大きい為、並の冒険者に取り憑いたら寧ろ自分が危険になるので、それ以外の方法を用いたと言うわけだ。



 悪魔種とすれば、ジェムズマインのダンジョンの今の状況は、精霊種の一角である『土の精霊ノーム』を大量に排除できるまたとない機会なのだそうで、その準備をするべく『ドワーフ』を利用するつもりだと言う。


 流石に場所や計画の詳細まではわからないが、『ドワーフ達』はその手段の一つだと言う。


 奴等にとってドワーフの存在価値は、圧倒的に数が少ないドッペルゲンガーを守る唯の壁であり、ドッペルゲンガーと入れ替える駒でしか無い様だ。



 とすれば、目的である土精霊の救助を最優先に終わらせておけば、向こうの目的は一つ潰せる。



 もし土精霊が釣り用の餌だったとしても、今助ければ『今後、困ったらよろしく』と言いやすい。



 僕はこの情報を皆に伝える……



「何じゃと?儂等が話している間黙っておると思ったら………そんな情報を聞き出しておったのか!?それで童……そのノーミーと契約したんじゃのぉ……?どれだけの精霊と契約する気じゃ?」



 僕はフレディ爺さんにそう言われてびっくりして『土精霊ノーミー』を見る……



『水精霊さんも風精霊さんもヒロさんといれば精霊力には当分困らないから、その間に帰る方法を考えればいいって……すいません勝手に契約しました……』



「ちょっと………なんだって?アタイが帰って来たら精霊増えてるし!契約だって?全く!!アタイ達がアンタのことで………って……何だいこの……新しいちびっ子は!?」



「もぐもぐ……私はパパの娘だよ?貴女はだーれ?………もぐもぐ………くちゃくちゃ………」



 僕はエクシアとユイナに抱えられて奥の席に連れて行かれる………



「アンタ……今度は何したんだよ!ってか……あの尻尾……ナニさ!?」



「今度は……何連れ帰って来たの!?食費も考えなさいよ!」



 エクシアに言われたので龍っ子を見ると、小さい尻尾がブンブンと左右に揺れている。



 肉を噛み締めるたびにテンポ良く揺れるので、相当ご機嫌なのがわかる……



「クッチャクッチャ……モグモク………ごっくん……食べないとお肉が無くなるよ!!おねぇちゃん!食べれるうちに食べないと次何時食べれるかわからないよ!」



 何故か龍っ子はエクシアとユイナに得意げに説明するが、ユイナに『ちゃんと明日も食べれるから大丈夫……いっぱい食べておくといいよ……』と言われてすぐに椅子に戻っていった龍っ子は、悪魔っ子と競いながらまた食べ始めた。



 僕はユイナとソウマそれにエクシアへこうなった説明をする


 全員が龍っ子の居る机に向かい、椅子に座って肉を食べながら龍っ子に鉱山では今まで何をしていたかと話を聞き始めた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕は精霊から聞いた話を居なかった3人に掻い摘んで話す……


 エクシアは少し考えてから今後の予定を話し始めた。


「とりあえずギルドでの報告だけはしとくよ!ドワーフ王とギルドからの依頼で、ヒロのパーティーの銅級5人はアタイ達と国境まで警護につく!片道2日の距離だから、街に帰って来れるのは早くて4日後だよ!」



 そう言ったが、僕は何故かそのメンバーに含まれていない……


 理由は簡単だった……僕は『男爵』なので、任務などをお願い出来るわけがないそうだ。


 更に異世界組の冒険者としての必要依頼件数もあるので、それの為でもある様だ。



 因みに僕は自領整備をしなければならないので、冒険に出ている場合じゃない……とテカーリンギルドマスターに言われてしまったそうだ。



 ………御もっともである。



「明日の昼には出るよ!だが、ドワーフ王の娘達二人である、ミドリとハルナは街に残ることになった。危険を冒してまで王都に帰るよりは、ウィンディア領主に世話になっていた方が安心だと言うことだ!」



「まぁ確かにそうですよね……ドッペルゲンガーやピットフィーンドやらが居る、ドワーフ王都に帰ったら危険ですからね!」



「よく分かってるじゃないか!……だからヒロ……任務を受けてくれるかい?ドワーフ王の娘達の警護だ!って事で……ハルナにミドリ!入って来な!」



「「はい!」」



 ドワーフ王の娘二人を呼び捨てにするエクシアはどうかと思ったが、どうやら王の娘達と分かったらそれだけでも危険なので、そうしているそうだ。


 そして入ってきた二人のドワーフは、他の人には目もくれず僕の所に歩み寄り非常にニコニコしている……


 それを見た僕は嫌な予感しかしない……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る