第541話「フレディ爺さんと魔導師アナベル」


「伝言伝えてきましょうか?あ!あとアイテムは持ち込めるから……ってか倉庫ですしね?アナベルさんって言うかテレサさん?に渡すものがあれば……ああ……ややこしい」



 僕が気を利かせてそう言うと、フレディ爺さんは笑いながら地べたに座り込み床に魔法陣を書く。


 そして綺麗に磨かれた大盾を取り出す。



 フレディ爺さんは次元収納をマスターしているようで、自在に手荷物を出し入れできる様だ。


 後でそれを含めて色々聞いてみたい。



「ならばこれを渡してやってくれんかの?……アナベルの形見じゃ!壊れた大盾をなんとか復元した物でな……テレサにとっては大切な物じゃ……あの世で渡してやりたいと思ってたんじゃ!!」



 僕はアナベルに大盾を届けると代わりに『ミサンガ』を受け取った。


 僕はアナベルにフレディ爺さんの伝言を伝え、代わりに伝言を受け取るが……スマホの録音が有ると思い出したので、折角なのでそれに録音する事にした。


 吹き込み終わるとアナベルはしみじみと大盾を眺める……


 そしてアナベルは『まさかこの大盾も戻って来るとはね……縁とは切っても切れないもんだねぇ………』と……しみじみしていたが、フレディがその様を見えない透明の壁を前にへばりつく様に見ていたので、気恥ずかしくなったせいか僕を追い出す様に倉庫から放り出す。



「アナベルさんからです……娘さんの『ミサンガ』だそうです。そして、これが伝言です……」



 僕はそう言ってスマホの録音再生ボタンを押す。



『彼女の魂は来世に引き継いだから安心していいよ……そうそうアンタの娘からの伝言だ!アンタがなかなかこっちに来ないから伝えられないんだ!まったく……そうそうこれが伝言だよ」



『巫女の座を全う出来たのはお父さんのお陰です。お父さんの娘に生まれて本当によかった』



「って言っていたよ……それにしても元気そうだね!この坊や危なっかしいから、坊やとソックリな危険思想のアンタが面倒見てやんな!いいね?』



 それを聞いたフレディ爺さんは、子供の様にはしゃぎながら……



「ふは!かっかっか!!今になってテレサの声が聴けるとは!長生きはするもんだ!!かっかっか!!そうか娘は無事役目を果たし、テレサが見送ったか……不思議な縁も有るもんじゃ………」



 フレディ爺さんのシワくちゃの顔に涙が伝う………



「ようやく理解ができた……お主のスキルは『異世界干渉ユニークスキル』なのだな?ギフトと言うべきかのぉ……そしてそのスキル効果は『狭間』に作用する……そこの狭間にテレサが居て、ポチ自身は直接的に世界に干渉できないから倉庫で会ったと……」



 簡単明瞭に話すフレディ爺さんだったが、理解が素晴らしく早い……


 ちなみにフレディ爺さんのポチとの『出会い』は、フレディ爺さんが未知の生物を発見したがそれが『ポチ』だった様だ。



 転移の仕組みを研究しているときに『空間の揺らぎ』を感じたフレディ爺さんが、ゆらぎ先の空間を『ループ』させたらポチが見事に延々とそこに現れたそうで、当然仕事にならないポチは大激怒して大喧嘩したそうだ。


 その喧嘩が元で今は仲が良いそうで、数年に一度位は会う機会が有るそうだ。



 そう言ってると倉庫の中にポチが現れる。


 手には異世界産の猫の缶詰を持って優雅に食べているが、多分『クッチャクッチャ』と汚らしい音を立てて食べているはずだ。



「ポチか!かっかっか!!久しいの?前に会ってからどれだけ経つ?………っと声は聴こえないんだったな!!これからは頻繁に姿は見れそうだな!かっかっか!!」



 流石のポチでも、僕のスキルで構成された部屋からは外には出られないらしい。


 これが世界のルールなのだろう。


 中に入ると外の声は聴こえるが、外に居ると中の会話が聴こえないのは仕様なのかもしれない。


 僕が使い熟せてない可能性が大きいが……



「さて!じゃあ礼と言ってはなんじゃが……10階層まで降りてドワーフの遺体を回収しようかの!今のドワーフ達では行けてそこの階層主が関の山じゃろう!」


 フレディ爺さんの魔術は桁外れに凄かった……


 床を杖で小突くとダンジョンの床が波打ち立っていられなくなり、そこに通路の最大幅の稲妻を撃ち避けられない状態で黒焦げにする。



 時には、入り口で見せたダンジョンの壁を迫り出させる魔法で一気に押し潰すのだ。



「いいか?これは全部土系呪文を発展させてダンジョンの仕組みを利用した魔法じゃ……儂は『迷宮魔法』と仮称しておる」



「迷宮魔法ですか?」



「そうじゃ!仮称じゃぞ?因みにダンジョンではどの魔法形態でも使用できるが、土系魔法はダンジョンと相性が良いのじゃ!ダンジョンは大地の地下に出来るから尚更なんじゃろうな!まぁダンジョンの形式により毎回調整する必要があるぞ?概念だけでも覚えておくと良い……お前は見た感じ出鱈目だからな!」



 どうやら『ある一定の概念に固執する者』はこの魔法を覚えられない様だ。


 『ダンジョンはこうあるべきだ……』と言う考えが邪魔をして、術の発動まで至らないそうだ。



 解けないない問題をひたすら考えるより先に、出来ることから対処する『それが良い魔法使い』だ……とフレディ爺さんは話しながら片っ端から魔物を殲滅する。


 その話を聞いて『高校受験』の時の入学テストを思い出してしまった……担任にそう言われた記憶が鮮明に思い起こされる。


 しかし問題は『土魔法』を殆ど知らないのだ……



 モンブランと水っ子に教えて貰った方法で自分なりに解決してみる……



「大地の精霊に感謝しつつ!床全体を揺らすイメージで!!『アース・シェイク!!』」



 揺らすんだからシェイクだろう……アース・クエイクと言って、地割れが起きると困るから……と言う感じだったが最悪な効果だった……


 大きく波打つ床をイメージしていたが、波はお互いぶつかると2倍に大きくなる……しかし反対方向の波の場合は波が消える……


 問題は縦の波でぶつかり合うのだ……あちこちでタイミングよくぶつかった床が爆発的に盛り上がり、あたり一面が大惨事となる。




「何をしたんじゃぁぁぁ!!オイ!童!!逃げるぞ!!上の階層へ走れっ!コレは間違い無く死ぬ!!走るんじゃぁぁぁ!!」



 階段には間に合わず、僕らはなんとか安全区域に逃げ込めた。



 大惨事の理由は、発生源を定めなかったせいだった。


 同じ波長の波はぶつかった瞬間2倍になった……


 魔法効果で起きた波は、術効果が切れるまでずっと繰り返したせいで爆発的な被害を生んだ……


 この魔法の問題は土魔法が増幅し続けた事だ……



「碌でもないとはテレサが言っていたが………ここ迄か?童!お前は……迷宮魔法は最低威力からスタートするんじゃ!要練習じゃ!!」



 酷い言われようだ……


 僕は碌でもないとは言われていない……そもそも危険思想と言われたのはフレディ爺さんの方だ!


 しかし魔法の影響は大きかったようで、僕は暫く魔法禁止で戦わされた……『目で見て覚えろ!そして少し遠慮しろ……』それがフレディ爺さんの一番最初の教えだった。



 魔法をメインで使う人を間近で見たのはゲオル以来だ……ちょっと興奮していたのは事実だから戒めとしよう。


 そう思いつつ戦っていたが、フレディの顔色は優れないものに変わっていた。



「今は地下5階まで降りたが……おかしいと思わんか?」



「え?何がですか?1階から4階層の魔物はゴブリンやホブゴブリンがメインでしたよね?ようやく5階から魔物が変わりましたが……僕はザムド伯爵からその事は聞いてましたけど?」



「違うじゃろ?儂等は何をしにこのダンジョンに入った?」



「え?ドワーフの遺体を………あ!!」


 言われるまで気がつかなかった……


 遺体を見つけたのは、上層階のゴブリンの群れが居た小部屋に装備を剥がされている最中の3人のドワーフ・ウォーリアーが横たわっていただけで、それ以降は隈なく探したが見つからなかった……

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