第537話「餅は餅屋……しゃしゃり出ると損をする……」


 鉱山の外に出て来た魔物がもう少し減ったら、いよいよ鉱山内部へ侵入できる。


 そうしたら坑道に入り『まだダンジョンに飲まれていないドワーフ都市部分』を探そう……アナベルがくれたヒントを元に探すべきだろう……


 ドワーフ達にも充分な兵力はあるし、戦闘はその道のプロに任せておくのが一番だ。



「おお!見えて来おったぞ!あれが鉱山坑道入り口じゃ。内部には相当ゴブリンがおったのだろうな……考えたくは無いが、あのバウギンのバカが戦士団を無駄死にさせたとしか考えられん……此処まで多くの魔物のスタンピードともなれば階層主の魔物に負けたと言うことじゃろう……」



「アラヤトムよ!失った戦士団は奴の手駒だけでは無いのだ……我々の兵も含めてダンジョン探索だったのだぞ?遺体の回収が出来なんだらアイツ等はアンデット決定だ!できるだけ多くの仲間の遺体をダンジョンから出さねばならん……これは骨が折れる作業だ……」



 ドワーフ・スレイヤーのアラヤトムとキングケリーは、今は僕やエクシアと共に行動する様になっていた。


 戦力として数えてくれるのは嬉しいが、自分達の王様護衛を僕達に丸投げはやめてもらいたい……



 ドワーフ王も仲間への簡単な指示だけはするが、後は隊長へ任せて僕とエクシアの戦い方を確認している様でもあった。



「ヒロ殿は………何というか冒険者なのは分かるが、魔導師なのか?それとも戦士なのか?」



「ああ!ドワーフの王様コイツはね『普通と違う』からその括りは辞めた方がいいよ?アタイ達も正直何者か分からないんだから!」



「そ………そうであったか………あれ程の力を持つエクシア殿でも『分からない人物か!』………ところでエクシア殿はプラチナギルドのギルマススターと聞いたが?何故あの場に居なかったのだ?」



「それをアタイに聞くかい?王様!?酷ってもんじゃ無いかい?仲間外れにされたから、此処で憂さ晴らししてたんじゃ無いか!」



「ハッハッハッハッハ!!いやはや……スマヌ憂さ晴らしであれだけの魔物を葬るなど……流石はプラチナギルドだと思ってのぉ!現に世間話しながらゴブリンを両断などとは……」



 僕はすぐそばに居る筈なのだが、何故かエクシアが言った言葉にドワーフの王は理解を示す……


 他愛もない会話が出来るのは、エルフとドワーフが競う様にゴブリンを仕留めているからだ。



「よし……やっと坑道入り口だ!!陛下!予定通りお願い致します!」



「うむ!!ドワーフ戦士団の勇猛さを見せるのだ!ダンジョン入り口迄一兵たりとも欠けることは許さぬ!!」



 ザムドはドワーフ戦士団の前衛を許可していた。


 これは魔物との戦いで命を落とした同胞がダンジョンで見つかった場合、即座に遺体の回収をしたいと言う希望に沿ったものだ。


 ドワーフ戦士団の猛者達は国王からの檄を受けて、気合を入れ直し潜入を開始する。



「いよいよ坑道内の探索ですね!さぁ!確認だ!!」



 僕はそう言ってから『アルブル・モンドの見渡しの魔法地図』を取り出す……


 地図を見ると、入り組んだ坑道の奥に『Dirty Gnome Labyrinth Mine・穢れノームの迷宮鉱山』と表記が出る。



 穢れとついている以上例のアレだろうか……


 そしてノームと書いている以上、その存在が穢れているのは間違い無いだろう……100%アウトなヤツだ………



 しかし問題はそれ以外にもある……


 崩れた坑道の奥に『グリムギアのドワーフ地下都市(西側)』と出ている。



 そして密閉されたその都市内に『人名表記』が3名程動いている……まさかの生き残りが居たようだ。


 問題は、その生き残りは聞き覚えのある名前が書いてある事だ……



「生き残りが………しかしそれはそれで問題が………」



「生き残りじゃと!!どう言う事だ?その地図でそんな事がわかるのか?」



 ドワーフの王様は身を乗り出して地図を覗き込むので、地図を渡してその状況を見せる。



「『グリムギアのドワーフ地下都市(西側)』じゃと!?何故こんなドワーフの秘密まで載っておるのだ!!………こ……これは?何故此奴が一人で生き延びたと言うのか!?何とけしからん!!」



 ドワーフ王の激怒に、兵に指示を出していたアラヤトムとキングケリーは即座に駆けつける。



「アラヤトム!兵をこの地図の場所へ向けるのだ!!仲間を見捨て自分だけ逃げた此奴を捕まえるのだ!!」



 地図に記された名前には『バウギン』『ジェガン』『フレディ』と出ていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「駄目です!陛下……この崩れた坑道より先はとてもでは無いですが今の装備では進めません!!」



 そう言ったのはアイアンドワーフの戦士兼鉱夫達だった。



「陛下!そもそもこの地図にある場所は、我々のドワーフ王都に伝わる情報とは大きく異なります!」



「情報と違う?だからなんだと言うのだ?この魔法の地図ではダンジョンは別部分を示しているではないか!この都市西部はまだ飲まれておらんのは明白だろう!それに少なくとも2人は生きておる!裏切り者は別として事情を聞く事がこの二人には出来るでは無いか!」



「ですが陛下……この先はどう頑張っても今の状態ではこの場所さえ落盤が考えられます。万が一退かして再度崩れた場合他の箇所も被害が出かねません!」



 ドワーフ達の押し問答を聞いた僕は、みるに見かねて彼等の選択肢から外れている、崩れていない壁を魔力で覆いながら切削する。



 地下鉄を掘るのに使う大きいシールドマシンをイメージした。


 巨大な通路は流石にキツいので屈んで進める位の大きさだ……MPがゴリゴリ減っていき、1/3程掘った時点であっという間にMPの残量が残り一桁になる。


 ひとまずMPが無くなったので穴から這い出る……



「どうしたのだ?ヒロ?何か異常でもあったのか?」



「MPが切れました!休憩がてらにMP回復薬をと思いまして……」



「流石にヒロ男爵でも一筋縄では行かない事もあるのだな?」



「まぁ距離が長ういえ崩れないようにするのは、崩れない様な大きさに掘るのは流石に苦労しますよ!」



 ザムド伯爵とそう話していると、事情を察したドワーフ戦士団から『MP回復薬』が大量に持ち込まれる……



「ヒロ男爵殿!どうかコレを使ってください」



 ドワーフ王の命令でもなく自然と回復薬が集まるので、ドワーフは協力意識は強いようだ。


 僕は回復薬を使いながら一気に掘り進むが、後僅かな所でMP回復薬が切れてしまった。


 此処から先はドワーフ鉱夫達に無理は承知でお願いするしかない……と思い穴から這い出る。



 しかし穴から這い出ると状況は一転していた……何故かドワーフ達は何故か今まで無かった別の穴に入っていく……



「その………なんだ………ヒロ男爵が頑張っている間にトンネルアントのアリン子が反対側から来てだな………穴を掘って繋げたと………ヒロ男爵には勿論皆感謝しておるぞ?」



 横を見るとドワーフ達から干し肉を貰って食べているアリン子がいた………。



 アリン子が既に穴を掘って道を作っていたようだ………僕の作業は一体なんだったんだろう………と思うしかない。


 僕もアリン子が掘った穴を通って『グリムギアのドワーフ地下都市(西側)』に出る。



「お!やっと来たね!アンタと同じで予定外の行動は従魔も同じだね!せっかく頑張ってるから、知らせないでおこうって事になったんだよ!だって……知ったらショックだろう?」



「ショックも何も意味ないじゃないですかMP回復薬の無駄遣いですよ!!まぁ結局MP足らなかったんですけどね!」



「ははははは!!結局MP足らなかったのか!まぁ仕方ないさ………まぁアリン子が居て助かったよな!」



 結局アリン子が穴を掘った通路で都市西側に出ると、乞食のような格好のドワーフ二人に迎えられた。



 地図の名前を見る限り『バウギン伯爵』に『ジェガン』と言うドワーフ達だ。



 どう言う事だろう………彼等はボロボロ泣きながらドワーフ達を向かい入れている………


 その格好は、既にこの廃墟で数十年暮らしていた様子でしかない……靴や服は等に穴だらけになり、髪や髭は絡まり酷い状況だ。



「ジェガン!来たぞ!この日がとうとう来た!!我等が守り抜いた『王の冠』を主にお届けする日が!!」



 全員が絶句する………目の前のドワーフの男こそが『本物のバウギン伯爵』だったのだ………

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