第527話「鍛冶屋の前であったドワーフとの再会」
「今行きます、何があったんですか?」
「ドワーフ王国が軍を率いて、鉱山内部の『ドワーフ地下都市』を取り戻すと!」
筆頭執事ラルが簡潔に説明してくれた。
僕は急いで階下に降りると、ミクとアーチとカナミが何やら装備を整えて待機して居た。
「ユイナさんとソウマさんはギルドのサブマスターに呼ばれて居て今不在なんです!伝言は宿の亭主にお願いしたので平気です。行き先は既に御者に聞きましたから……」
ラルの取り乱し方を見て、急いで装備を整え宿の主人に2人宛の伝言を残して居たらしい。
僕よりしっかりして居て頼もしい限りだ……同い年程度の筈だが、見習わないとないけない……
ラルが乗って来た馬車に乗ると、既に中には一人乗って居て僕の顔を見るなり……
「おお!坊やじゃ無いか!まさか……切り札って坊やなのかい?それとも後ろのお嬢ちゃん………うぅ………アンタ……『殺気』はしまってくれないかな?これでも私は『平和主義派』なんだけどね?」
軍を率いてジェムズマインに進軍してくる話を聞いたカナミは、かなり露骨に怒りを表して居た。
「アタイはドワーフ族のハルナってんだ……武器の扱いは『銅級冒険者』程度だね。だけどアタイは武器作り、所謂『メイカー』なんだよね!アンタ達には馴染み深いアイアン・スミスだよ。メタルを扱わせれば、ウチらの右に出る奴はいないって自負しているアイアン・ドワーフ族さ!」
僕達は挨拶から仕切り直していた。
カナミの早とちりで殺意を浴びせていたので、謝罪からと言った方が正しいが……
どうやらハルナさんはせっかくジェムズマインに来たのだから、素材探しをしたいと言って勝手に自由行動した様だ。
彼女がいない間に揉め事になって、ザムド伯爵が仕方なく鉱山攻略の為に僕を呼んだらしい。
ラルが僕を連れて来るならば、素材物色で街に出ていった『ハルナ』を探してくれ……と『ドワーフの穏健派』にお願いされた様だ。
そして当のハルナは僕達に先程遭遇して少し話した後に、探し歩いていた執事筆頭のラルにも遭遇して理由を聞いたとか……
馬車の中で強硬派の発言内容を聞いて、どうしようか悩んでいた時に乗り込んできたのが、僕だったらしい。
そしてドワーフ王国軍の派遣をラル達から聞いたカナミが、馬車の中にいるドワーフを『強硬派敵勢力』と勘違いして喧嘩を売った形になる。
「ふえぇぇぇ………すいません……てっきり強硬派勢力かと……ドワーフさんて相手の力を認めないと引き下がらないじゃ無いですか?だからちょっと強めに出たんです!……ごめんなさいー!!」
「いやいや……アタイ達は敵じゃ無いよ!寧ろ取り返すのは人族に任せて、街で支援活動をするべきだと言ってたぐらいだからね!それにしても……カナミちゃんって言ったっけ?あれがちょっと強め??凄い殺気だったね……シルバードワーフ族のスレイヤー達と良い勝負だよ!ルールなしで喧嘩しない様にね?アイツ等は『戦闘狂』だから、絶対に満足するまで連戦する奴らだからね!」
「ところでハルナさんは、ミスリル鉱石の事で言い合いしてたじゃ無いですか?何が欲しくて探してたんですか?そもそも此処の鉱山は宝石産出が多いと聞いてるんですけど?」
「ああ!そうだったね!恥ずかしいところを見られたんだったねー。いや珍しい鉱石が稀に出るって話なんだ。過去の産出一覧を見る限りだとね!人族にそれの加工は難しい筈だからさ、希少な鉱石屑でも有れば引き取りたくてね!」
どうやら宝石鉱山と言うだけあって、算出率は宝石がダントツ多いがそれ以外の特殊鋼も出る様だ。
それにはミスリル鉱石も含まれるのだろうか……
「ジェムズマインの鉱山でミスリル鉱石が出る話はあったんですか?あれだけ言い合ってたって事は……でも武器の扱いはないんですよね?この街にはミスリル製装備無いですし?」
「いやいや……あそこの鉱脈にはミスリルは出ないよ……主にエルフ達の王国がある鉱石群が有名だからね!ミスリル鉱石が少しでも有れば、そこの鍛冶職人は其れなりの力量があるって事なんよ!此処はエルフ達も見かけたから、取引があると期待してたんだよ」
「成程!ところで『クリムゾン・ミスリル』って何に使う物か知ってます?武器とか防具造れる鉱石なんですか?」
僕が『クリムゾン・ミスリル』の話をすると、ハルナは半分呆れた顔で……
「は?クリムゾン鉱石なんか簡単に手に入るわけないだろう?それに、どれだけ石から分離するのが大変か!見つけてもインゴットにするのにどれだけ苦労するか……不純物は多いわ加工は面倒だわ……それもクリムゾン・ミスリル?ミスリルにする時点で泣きが入るよ!!仮にそれが有ったら……」
ミクとアーチとカナミが頭を抱え出す………
「ちょ……ちょっと待ちなよ……アンタ達なんだその行動は………まさか………」
「こ………これなんですけど……」
『お……おわぁぁぁぁ!!クリムゾン……『ゴン』……あだ……」
『……ガチャ………』
『ぎゃぁぁぁぁ』
ハルナは『クリムゾン・ミスリルのインゴット』を目に前に出されて、後ろに飛び退くと馬車のドアにぶち当たり、ドアが反動で開いてしまい走っている馬車から転落した……
そのあとすぐ絶叫が聞こえてすぐ様馬車が止まる。
御者台にいたグラハムが急いでハルナの元に駆け寄るが、怪我だらけのハルナはグラハムの手を叩き退けて馬車へ向かう……
「ああああ……………クリムゾン!ク………クリムゾンミスリルを………触らせて……くれー!!」
その姿は完全にホラー映画の幽霊だ……元が美女だけに怖さが増している……
頭から落ちたせいで結構な怪我だったが、痛みよりも欲望がまさったのだろう……因みに周りは凄い人集りだ。
僕はクリムゾンミスリルのインゴットをハルナに渡して見せている間に、自家製初級ポーションで回復させる。
「こ……これがクリムゾン鉱石のミスリル化合物インゴット!!これ……本物か?『カリガリ』………うぉ……舌がヒリヒリするぞ!クリムゾンミスリルは火属性か!素晴らしいよぉぉ!!アタイ今凄く感動してる!!」
僕等は一瞬だがハルナから一歩下がっていた……まさかインゴットに齧り付く人がいるとは思わなかったからだ……
もしかしたら、ドワーフだと当たり前の行動なのかもしれないが……
問題はそのインゴットを僕はどうすれば良いかだ……『あげると言った覚え』は無いし元が金塊なのだ。
その金塊の価値は最低限ある。
元が元だけに、流石にこれは錬金術と言えるだろう……金を作るのが錬金術ならそれから先があって然るべきだ。
「怪我の治療ありがとう!いやぁ見苦しい所を見せちまったね!ドワーフだからまぁ金属好きなんだよ!はははは!」
ハルナはもうクリムゾンミスリルを離す気はない様で、抱えたまま話をしている。
「なぁ?これ何処で手に入れたんだ?って言うか……これがあればドワーフ王は絶対アンタ達には無理難題言わないよ?約束できる!」
「え……?何でですか!?そんな凄い物なんですか?」
ハルナに僕がクリムゾンミスリルの事を聞くと、意外な答えが返って来た。
あの鉱山地下にある都市で昔『クリムゾンミスリル』を加工して、ドワーフ王の『冠』を作っていたらしい。
しかし鉱山で起きたオークの襲撃で失われたそうだ。
ドワーフの多くはオークが持ち去ったと考えられていたが、アイアンドワーフの鉱夫は、鉱山都市から逃げる時に工房の一部を破壊してそこに作りかけの王冠を埋めた。
此処が重要だ……埋めてから破壊したのでは無い、『破壊してから埋めた』様だ。
しかし問題はその希少な物を狙う輩がドワーフの中にも居たそうだ……
人間の様に富に囚われたドワーフ達が少なからず居て、今回のドワーフ王の遠征はその入れ知恵が悪い方へ動いた結果の様だ。
ドワーフも人間と同じで悪辣貴族に類する輩が存在するのだろう。
そして大きな問題もある……その時のクリムゾン・ミスリルは『インゴットでは無い』と言う事だ。
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