第522話「隠しきれない精霊の目撃例」


 僕は森精霊達を伴って村へ出る……これからの問題は多くの村人が『精霊』を目視した事だ。


 精霊使いが持て囃されるこの世界で、これだけの精霊が集まる村があれば完全に問題ごとだ。



 風精霊に森精霊……ここまではこの村周辺に既に居た精霊ではあるが、目撃例などほぼ無い。


 見たと言えば人気者で、嘘だと知れれば嘘つきで村八分決定だ。



 しかし今は巨木のトレントまでが、村と森の堺になる境界あたりの地面を何箇所も掘り起こしている……


 多分そこが彼等の永住予定の場所なのだろう。


 村人も、巨大な根を入れる為の穴を開けるのを手伝っているほどだ。



 村民達の適応力は非常に高くて助かるが、少しはびっくりして欲しいものだ………



 村民達はビックリするどころか喜んで手伝っているので、もう既に『森精霊』については黙っておくことはできそうも無い。


 伯爵を頼りに国王陛下にお願いして先手で手を打つしかなさそうだ……


「ひとまず隣の水鏡村は数日は入場禁止で!後で看板立てましょう!水鏡村の皆さんは新たしいこの村で通常の仕事に戻りましょう!稼がなければお腹いっぱい食べれませんからね!」



 僕はスマホの時計を見ると既に13:45を指していた……



「あ!ですが昼食休みを先にしましょう!今は正午過ぎたので、ご飯にした後に午後の作業に!その方が効率もいいでしょう!!」



 僕は予定を変更するが、村民は3食など普通は食べないので非常にざわつく……


 自分たちも食べるのか?と……しかし子供は素直だ……一番を争う様に走ってくる……。



「ひろ!いい事言うじゃん!エルフさん達は飯食べた午後はウルフ狩りよろしくね!ソウマもアルベイさん達もよろしく!肉がもう半分以上ないからね!ホーンラビットもあるといいな!!」



「ユイナ嬢!ならばこのザムドが食料の支援をしよう!すぐに騎士団に言って備蓄を持って来させよう!!」



 良い所を見せたいザムドだったが、ユイナは………



「ザムドさん!なら畑に植える苗類と、作物のタネに騎士団を定期的に派遣してこの周辺の食べれそうな魔物を討伐して持ってきてください!そうすれば安全も確保できるし、行商が襲われる心配もなくなるだろうから!」



 僕はユイナの定期的な騎士団派遣の説明がちょうど良かったかったので、ゴーレムを利用した巡回兵計画を皆に説明した。


 まず基本は、ゴーレムをある程度の間隔で領内循環させ魔物を駆逐する。


 移動が遅いゴーレムのその穴を埋める様に、僕が編成した騎士団を穴埋めに配置する……騎士団員は今後募集予定だ。



 この中には魔導士学院から魔導士を勉強の為に誰かを派遣させるか、別途魔導士を雇う予定だ……理由は当然魔力チャージのためだ。


 ゴーレムへの命令は『魔物を討伐せよ!』『特定時間になったら魔力補充に来い』それだけだ。


 これが上手くいけば、365日(此処の暦がそうなら)稼働可能な巡回兵が出来上がる。



「バカなの?」


「馬鹿だろうな!」


「大馬鹿ですね!」



 ユイナの後にソウマが続き、最後はイーザが会話に混ざってきた。



「そうかな?駄目だったかな……何か穴がある?」



 イーザが僕の室民に即答する……


「まずそのゴーレムはどこで調達するんですか?魔法で作るとでも?それともこれから見つけるんですか?石像を…………あ!!ま!まさか……ジェムズマインの石工達に依頼を!?」



「そのまさかでもう既に依頼済みですけど?」



「「即断即決!!実行力の早さが異常!!」」



 ユイナとソウマが声を合わせて、飲んでた物を吹き出しそうになる。


 その様に若干悔しい顔をするザムド伯爵は、なんとかユイナの横にあったクッションを掴み座る。



「聞きました?ザムド伯爵?ヒロってこんなヤツなんですよ!前言ったじゃないですか?危険な人だって!」



「そ……それなんだが……ユイナ嬢……実は私も発注しててだな………鉱山に配備しようかと………」



「「ぶは…………」」


「ケホケホ……何を言って……毒されましたか!?伯爵様!そっちいくと未来はコレですよ!?戻ってきて!ザムドさん!」



 ユイナにぶんぶんと揺さぶられて若干嬉しそうだが、頑張って顔を引き締める………


 がザムド伯爵は目尻が下がってとても情けない……



「だ!だが!!一理あるだろう?兵士は消耗品ではない!だから鍛えている間にゴーレムが居れば少しは状況を変えられるのだ!いいか?ユイナ嬢……兵士が死ねばその家族が露頭に迷う!だがゴーレムならば破壊された後は他に有効活用も出来るのだ!」



 そう言いながらザムド伯爵は周りに力説する……



「それにヒロ殿がいる間はゴーレムの変わりが効くし、何も兵士を減らすわけではない!兵士はダンジョン内部で魔物を狩り、脅威の元になりそうな魔物を安全に数を減らすのだ!危険が及べば逃げ帰れる様にするのも、ゴーレムがあれば容易だ!どう思う?ユイナ嬢!?」



 ユイナに迫るザムド伯爵だったが、ユイナは別の考えがあった。



「確かに!食事面でも空腹は関係ないし的確に指示さえ出せば多くの食料を貧しい人に与えられるわね!なかなかいい案だと思うわよ?問題はヒロの巡回兵士よね!一体いくら作る予定なのかしら?あんな2メートルも3メートルもある巨人を何個も作るのは大変よ?」



 僕はその点は問題ないと言っておく……


 巡回兵は『人間サイズ』と言っておくからだ。


 兵馬俑を元に考えた石兵士で武器は鉄器と言っておく……出来れば型を作って大量生産と言っておく……


 中身はコンクリートの様な物を使う予定とも……



「でた!また想定の斜め上をいくヤツ!!知らない人には悪の軍団にしか見えないでしょう!それ!」



「ユイナの言う通りだな!知らないこの世界では巡回兵というより破壊神の先兵だよな!」



「なんなのだ!ヘイバヨウ?それはなんなのだ?わかる様に説明をしてくれんかな?ヒロ男爵!!」



 ソウマとユイナは中国へ旅行に行ったことがあるらしく、スマホからその実物写真を見せる………




「異常では無いか異世界ではこれが兵士なのか!?魔物が居ないと言ったでは無いか!まさか……人がこれを闘わせ合うのか?何という危険な世界なのだ!!こんなのが動いた時点でウルフやゴブリン程度なら魔物の方が可愛いぞ!?」




「ちょっと待ってくださいよザムド伯爵!これはですねお墓に埋葬する埋葬品の様なもので、死後の世界で身の回りの「生活」を助ける為に作ったものです!」



 ソウマがしきりに説明するが、ザムドは死んだ後の死後の世界と聞いてゴーストやレイス、ゾンビなどを想像してしまう……


 知識の違いが浮き彫りになるが、この異世界では死後の最悪な世界が存在するのだ……混乱してもそれは当然だ。




「な……成程理解できたぞソウマ!不思議な事をするものだな……この世界では強い念は『死者として形を残す』だからこそ確実に葬る事を考えるが……まさか死後の世界を不自由なく暮らす為とは……安全とは素晴らしいな……」



 実は気分次第で兵器が飛んでくる、安全では無い世界だけどそれは置いておこう……


 そんな物をこの世界で実現したらそれこそ大変な事になってしまう。



 そもそも『原始爆発』などいう魔法を平気で使うのだ……原理がある可能性は大きい。



 もしあれが核爆弾と同一であれば放射能が心配だが、精霊達は全く騒いでいないので特殊な魔法なのだろう……



 原理と被害をちゃんと後でアナベルに確認する必要がある……


 あの時は血塗れのアナベルを見て、それどころではなかったからだ。



 キノコ雲も何も無いし身体異常もないので、アナベルの酔いが覚めたのを見計らって聞きに行こう……


 まぁ核爆弾は違う単語だから……と今は思っておこう……正直聞きたくは無いが……



「はぁ……馬鹿の相手は任せるわ、私はランチの準備があるから!モアにスゥ手伝って〜あ!ユイ起こして来て食いっぱぐれちゃうよ!って言ってあげて!」



 ユイナは呆れ果てて食事の準備をしに向かう……ソウマもザムド伯爵もウィンディア伯爵も激しく首を縦に振って、送り出していた。

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