第511話「大工の棟梁が知らない匠の技術」


「じゃあボーザーさんが逃げたのも、わざと見逃したって事ですか?」



「あん?そうに決まってるだろう?ベロニカが居るんだからあの状態で逃す方がおかしいだろう?今頃イスクーバとテロル……んで騎士団の感知持ちが追いかけてるよ。それに!!人工ダンジョンから富を得る様な貴族ならば、間違いなくこの王国に愛着なんかない貴族だろう?居ない方が領民の為さ!」



 ごもっともなお話だ……



「それよりアンタ!此処を街にするって……まさかアンタの世界みたいなのつくらないよね?いつか手段を探して帰るんだよね?元の世界に?」



「エクシアさん……帰る時街のあとの事は任せるんで!」



「馬鹿なのかい?めんどくせーよ!!あたしゃ嫌だよ。シャインかテイラーに頼みな!!シャイン嫁に貰って子供作って任せときなよ!!」



 肉をモグモグ咀嚼しつつエールを煽るエクシアは、僕の帰った時宣言に過剰反応をする。



 彼女にとっても僕達にとっても、お互いはすでに家族の様なものだ。


 然程時間は経っていないが『濃密な時間』は時に人を錯覚させる……それだけ人の繋がりは『重く固い』のだ。



 だが僕は高校生だ……子供が子供を育てても教えられる事は『精霊術』以外にない……それに置いて行くこともできないから連れて行くことになるだろう……嫁ごと……。


 そもそも結婚なんかしないけど……



 謎が解けたと同時に村の食堂から新しいツマミと酒が届いた……



「エクシアさん!ちゃんと寝てくださいよ?もうかなり遅い時間ですからね?」



「あいよぉー!おやすみー!!」



 あの様子だとまだ飲むつもりだろう……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌朝は大変だった……朝から数時間を『銀級講習会』に費やし、昼過ぎから僕は木材を乾燥させて製材する事をメインに片付ける。


 スマホで見ると既に時間は15:00時になっていた。


 木材加工の休憩を取ったのは丁度この時だが、気がついたらジェムズマインから来た大工の親方に絡まれて大変だった。



 ちなみに僕達はこの村から移動ができない……大工への指示があるからだ。


 王都から来るのはまだ先だが、ジェムズマインの様に近い場所からはすでに薔薇村に到着していた。


 領主として彼らへの指示をしなければ、仕上がりと街並みは滅茶苦茶になる。



 大工には今すぐ住める簡易的な住居を作らせるより、しっかり今後を見据えて街の完成図案を見せたかった。


 だから最低限の製材が終わるまで家の建築は後回しだ。



 しかし、その結果が親方によるアピール合戦だった……


 

「どういうこっちゃ?あの兄ちゃん……冒険者だよな?この板の表面……すげぇぞ!」


「本当にすげぇな!この板!良い仕事しやがるぜ!ちょっと俺話してくるぜ!!」


「おい!待てよ!狡いぞ!俺も行くぜ!」



 僕が作った板を見た親方衆が、休憩中に『ウチで働かないか!兄ちゃん!!』と誘ってくるのだ……おちおち休んでも居られない。


 ザムド伯爵がそれに気がついて、親方全員に説明すると『働かないか兄ちゃん』と言ったので引き攣った顔で完全停止している。



「大丈夫ですよ?気にしにでください!だって貴族が製材してるなんて思わないでしょう?普通……」



「そうなんだよ!おもわねぇよ!だからウッカリな!!」


「「「ギャハハ!!!」」」



「そうなんだよ……じゃねぇよ!親父!周りも笑ってんじゃ無いよ!貴族に馬鹿言ったら『不敬罪』だぞ?まったく!……本当にすいません!ヒロ男爵様……男どもは馬鹿ばっかりで!!」



 笑ってエールを飲んでいる大工の親父達に、的確なツッコミをするのはなんとかなり若い女性の大工だった。



「でも本当に……こんな綺麗な板を作るなんて……こんな風に加工できるまでかなり時間がかかるんだけどね?ザクザク切ってガリガリ削ってるけど……アレはなんなんだい?あ!なんでしょうか……アタイは『マホガニー』って言うんだけどよろしくお願いしますね!」



「オイ……マホガニー!お前だってなんだその口の聞き方は!俺等と対して変わらないじゃ無いか!がはははは!」



「うっさいな!アンタ達よりはマシだっての!」



「これは魔力で削ってます。『素材粉砕』が出来るから、切ったり削ったり出来るんじゃ無いか?……って思って試した結果がこれですね!それと敬語はいりませんよ!マホガニーさん!」



「良かった!毎日ガサツな親父達相手なもんで……実は言葉遣いが大変なんだよね!後で『不敬罪だー!』は無しで!!でも凄いね!そんな活用方法があるなんて!魔法か……ビックリだよ!」



「言いませんよ!元々冒険者上がりのなんちゃって貴族ですから!!あと建築に使うサイズと形状言ってくれればそれに合わせて削れるので!できれば土台とかしっかりした建築方で建てて欲しいんですよね!できれば二階建てで!」



 僕はマホガニーと棟梁達に木材の加工について説明すると、棟梁達のニタニタしていた顔に変化が出る。



「ほう?建築と言いましたかね?儂等はその専門をやっておりましてな?そんな簡単にできる物では無いんですよ!真っ直ぐ切る、そしてキッチリ角を出すコレができて一人前では無いんですわ……できれば二階建てで?そんな簡単な物じゃ無いんですよね?家ってのは!」



「おい!親父!!相手は男爵様だぞ!凄むな馬鹿親父!!本当にすいません男爵様!棟梁って馬鹿ばっかりなんで!」



「すいません……確かに初心者が口を出す内容ではないですよね?でも此処の領主とすれば出来ない事を『できないから』では済ませられないんですよ!ダンジョンが近くにあるんです。それをなんとかして破壊するのがこの村の最終目標ですから!」



 僕は自分の家が一軒家で3階建なので当たり前のように言っていたが、ファンタジー性豊かなこの異世界では平家意外は割と宿屋など特殊な場所が多い。


 建築の構造をあまり知らない僕は地雷を踏み抜いた様だ。



 僕はスマホに入っている『建物を作るゲーム』にハマっていたので、それを元に『継手』を作っていた。


 僕がやっているのは日本建築がメインで、日本家屋から始まりレベルや技術を上げてオリジナルの寺や神社そして城を建てるゲームだ。


 しかし彼らは『継手』の存在を知らないようで、貴族遊びの一貫と思ったようだ……パズルか何かかと思ったのかもしれない。



 日本建築の素晴らしさを伝えたいが、異世界ではそうはいかないようだ……と思っているとマホガニーの一言で風向きが変わる……



「おい!馬鹿親父!冷静になれよ!コレ使えないか?この両方組み合わさるんだよ!見てみろよ!!」


「そんな物が組み合わさっても意味がないだろう!馬鹿娘が!」



「ゴウバン!そんな事ないぞ!この強度はなかなかなもんだ!更にこの薄い木材を挟むと強度が更に増して振り回しても外れないんだ!!」


 ゴウバンと呼ばれた棟梁はそれを手に取って見てみる……



「なんじゃこりゃ!?………コレをあの角材で再現できたら………すごい技術だぞ?」



「だから言ったじゃないか馬鹿親父!此処の籠に入っている物全部が組み合わさるんだよ!それもピッタリだ!!技術が高いなんてもんじゃない!!コレをアタイに教えてくれ!!」



 マホガニーは僕の腕を掴んで離さない……



 しかしそのタイミングで問題児が登場する。



 仲良さそうに話しながらテントから出てきたのだが、多分ギルマスと伯爵2人に呼ばれて今後の予定でも話し合っていたのだろう。


 僕にしがみついているマホガニーを見て、二人の歩くスピードが非常に速くなり、背後に黒いモヤが見える……



 黒いモヤが僕の幻覚だと良いのだが……



 威圧もすごいのですぐに逃げたいが、マホガニーは大工として普段から重い木材を扱うので、腕力も握力もなかなかなだった。


 そして普段から大工とやり合ってるせいか、威圧回避もなかなか鍛えている様だ。



「ちょ!ちょっと何をしているんですか!ヒロ様の腕にしがみつくなんて!」


「そうですよ!不敬罪ですよ!!」



 運悪くミオとシャインが講習会の続きを勧めに来たが、マホガニーが抱きついていたので彼女達の反感を買っていた………

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