第497話「ダンジョンの次階層は水鏡天満宮?」


「何だこれ………神社?それともお寺??」


「分かんない……神社っぽいけどお寺みたいでもあるね?」



 ユイナとソウマが顔を見合わせる……しかしすぐに答えが出た……



「な!何で此処に!!此処はダンジョンって言ったじゃないか!!此処は紛れも無く『水鏡村の水鏡天満宮』だぞ!?」



「おい!ゴラグラ冷静になるんだ!!『今階段を降りてきた』じゃ無いか!此処がダンジョンなのは間違い無いんだ!しっかりしろ!現実逃避したいのはわかるがよく考えろ!!」



 二人は言い合いの喧嘩を始めるがすぐに喧嘩は収まる……と言うより辞めざるを得ない状況になる。



「誰ですか!?そこに誰か居るのですか?私は水鏡天満宮の権禰宜のムラナームです!居たら壁を!壁を叩いて返事を!!」



「「ムラナーム!?ムラナームなのか?」」


「ああ!その声は……父さんと母さん!?一体何が起きているの?お父さん!お母さん!私怖い!」



 話からして上で助けた夫婦の家族の様だ。


 僕が話すより早く父親が安否確認をする。



「今そっちへいく!誰かそこにはいるか?周りに危険は?」


「さっきまでベギラーさんにゴーゼムさんとプラマホさんが居たけど、助けを呼んでくるから此処に居ろって……お父さんは無事なの?お母さんは怪我してない?」



 会話を聞いていたが、チャックが地図を指で指すと、かなりの人数がこの階層にいる事がわかった。



「すいません、今からそっちに向かうので、皆さんを助けながら向かうので移動せずそこで待っててください!!」



「え!?誰ですか!?」


「大丈夫よ!この方は水精霊の神子様よ!!水精霊様の神託を直接私たちにも届けてくださった凄い方だから!!そこに居なさい!間違い無く助けて頂けるから!!」


「お!お母様!!誠に神子様がいらっしゃるのですか!?」


「すいません時間が惜しいので先に進みます!かなりの人数がこの階層に居るんです。神子だか何だかの無駄話などしている暇はないんです!!そこに居てください!」



 僕は話をバッサリ斬り捨てて先へ急ぐ。


 この階層はどうやら、水鏡村の神社だかお寺だかを吸収した作りの様だ。


 だとすればそこに居た人数全員が此処から先に居ることになる。



「おい!助けてくれる冒険者でも今のは酷いだろう!今話していたのは巫女様だぞ!」


「その皆が『死んで良い』ならいつ迄でも話しててください。僕は救う意思があるから動くんです!神子話をしてて救えるとでも?」


 僕はベーザムの言葉もバッサリ斬り捨てる。


 この男達は未だに現実を分かっていないのだ。


 『いつ魔物が湧くか分からない』現状で話を優先すれば『死人が出る』そんな事は少し考えればわかるはずだ。


 何故ならば此処はダンジョンの地下3階層なのだから!



「チャック悪いけど罠を探索しつつ先を急ごう!」


「ああ!分かっちゃいるけど、此処は『罠だらけ』なんだ!」



 チャックは何やらしゃがんでいると思ったら、もうすでに罠を解除し始めていた。


「皆さん!動かないで!チャックの説明ではこの階層は『罠』があります!壁に向こうの人!『絶対に周りに触らず動かない』様に!!」



「聞こえてるか?旦那の言葉通りだぜ!此処の罠は厄介だ!『猛毒の矢』が山程に仕掛けられてるからな分かったら黙って動くなよ!」



 チャックはその説明の後どんどん罠を外し、時にはわざと発動させたりと解除をしつつ進んで行く。



「滅茶苦茶多いな!此処はひでぇ罠階層だ魔物が居たら大変だったぞ!」



 愚痴を言いつつ確実に罠を外す。


 初めの十字路が見えた時に、十字路の右通路から傷だらけの男性が現れた。


「た!助けて………」


 その男は矢が数本体に刺さり虫の息だった……『死んでしまう!』と思った時に僕は何故か走り出していた。


「旦那!!だめだ!!此処からは罠の数が!!」



『バシュ!!……キン………バシュ!……カキン……』



 僕は罠が射出されると同時に剣で叩き落とす。



『カチカチ…………ガチン…………ザス!!ザス!!ザス!!』



 カチカチと音がした後に壁の穴から木製槍がでるが、バックステップでかわして槍を斬り払う。



 何故か射出音や罠の起動音がよく聞こえて『何処から罠が来るか』分かってしまう………



 それが『アサシン』のスキルだと飛び出る罠に集中するあまり、気がつくのに時間がかかったが無傷で全てを叩き落とし、時には斬り払い無事重症の男の元に辿り着いた。


 すぐに矢を抜いてから初級ポーションを飲ませる。



「あ!ありがとう!私は水鏡天満宮の権禰宜パウマスです……皆を救ってください!通路の向こうの部屋にいます!!」



「旦那!!何すか?今のは罠が罠の意味無くなってます…………ちょっとま!!旦那!!そっちも罠が………ああああ……ひでぇ罠を外す意味さえないじゃないっすか!俺の見せ場が!!」


 チャックが何かを言おうとしていたが、僕の行動に言葉にならない様だ。


 此処は自分でもどうにか出来る以上、時間短縮でチャックには下層階段付近を綺麗にしてもらおう。



「チャック!地図を見て他の場所の罠を外して!!階段方面によろしく!大声で呼んだら今いるそこに戻って!!」



「成程!旦那と手分けって事っすね?任せてくださいな!もう旦那には射出系罠が意味ないですね……仕事代として、帰ってきたらどうしたらそうなったのか聞かせて下さいよ?じゃあ行ってきやす!!」



 チャックはそう言い残して、地図を見ながら進行方向の通路の罠を外し始めた。


 僕は罠がある通路にどんどんと爆進する。



 この通路の罠は主に『仕掛け矢』『仕掛け猛毒矢』『プッシュナイフ』『プッシュスピア』だった。


 落とせる物は叩き落とし、時にはバックステップでかわしてから斬り払ったりと大変だったが、アサシンのスキルのおかげで回避能力は今までとは桁違いの精度になっていた。



「どう言う事じゃ?ヒロは何かのスキル覚醒でもしたのか?………ソウマ」



「いや……俺も知らないっすよ!あんな化け物じみた動きなんか……此処の所王都行ってんで見てないっすから!アルベイさんこそ一緒だったじゃないですか!」



「知ってれば聞いてらんぞ?まぁ……ヒロじゃしな……異常なのがある意味通常か……」



 僕の動きを見ていたソウマとアルベイは、持っている武器を落としてビックリしていた。



「シャインさん、罠はもう無いのでこっちへ。怪我人が複数いるので回復を!!壁には触らないでくださいね?チャックみたいに壁罠までは解除してませんから!」



「はい!ヒロ様!!今参ります!!」



 シャインが来る間に怪我をして居ない人に話を聞いた。


 上の人と同じ様に突然此処に連れ込まれ、動いた瞬間罠が発動したので動けないで居たらしい。



 怪我をしている人の殆どは、待つ事の辛抱が出来なくなった者が主だそうで、無理に通ろうとして脚に槍が刺さったり、矢を撃ち込まれたりした様だ。



「此処にいるのは全部で7名ですね……じゃあ僕が通ってきた道を通って向こうに行ってください。通路は安全だと思いますが、念の為に壁には触れない様にお願いします。回転扉までは普通に通っただけじゃ作動しませんから、万が一あった場合大変なので!」



「「「「普通に?通っただけ??……あれが?」」」」



 話してを聞いた村民に疑問が残った様だが、気にしている余裕は僕にはない。



 村民は皆壁に触れ無い様に通路を通り、モアとユイの指示で少しでも広い登り階段の方へ進んでいく。


 ダンジョンでは階段付近は安全エリアの可能性が大きいからだ。


 このダンジョンでもそう判断しての行動だ。



 僕は全員が通路を通り切るのを確認してから、権禰宜のムラナームの居る通路を確認すると、矢を脚に受けて動けなくなっている3人を発見した。

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