第494話「水鏡村にダンジョン?それは封印された場所」
「ミミはバカに捕まっただけだから命に危険は無い……だから俺たちと輝きの旋風でダンジョンに向かい、レッドアイズはミミを加えてから合流で良いんじゃないか?」
「ソウマの言う通り私もそう思うわ!イスクーバさんには申し訳ないけどジェムズマインまで馬で走ってもらうしか……私たちがダメな場合エクシアさん達が居なければ村人は救えないし……」
「ルームさん、ソウマさんの言う通りミミさんを取り返してダンジョンで落ち合いましょう!ダンジョンの中がわからないので下層へは注意して降りて、決して無理をしないでください。村長宅へ行く時はこの村のギルド職員を連れて行ってください。」
僕はボーザーの出来の悪さを考えて、ギルド職員以外にも保険をかけておいた方がいいと思ったのでとある物をベルトから外す。
「もし村長やその周辺が文句を言ったら、この短剣を見せて『ジェムズマインの領主、ウィンディア伯爵』が『不敬罪で全員間違いなく極刑に処す』と言って良いです」
そして僕はウィンディア伯爵家のエンブレム入り短剣を渡す。
人の褌で相撲を取る状態だが、時間の無駄を避ける為だから仕方が無い。
刃向かった人には後で僕の男爵名でしっかりお説教をして、ウィンディア伯爵家には何か差し入れをしよう……差し入れにはお菓子が良いだろう……子供達と奥さんを味方につければ文句は言われないはずだ。
「こ!これは……ウィンディア家のエンブレム付き短剣!!貴重な品……お預かり致します!命に変えても必ずお返し致します!!ヒロ男爵様!!」
ミミの母親がそれを聞いて、びっくりした顔で僕を見て質問をする。
「ヒロ男爵様……ち……ちなみに言う事を聞かなかった場合は?彼奴らが渡されて物を信じるとは思えないので……」
「ルームさん、その場合は少々強引になりますが実力行使を!でも殺さないでくださいね!」
「あまり時間的猶予はありません。イスクーバさん、マークラさん頼みます!このチャームを持って行っていください。コレがあれば中級以下の魔物は近寄れません。ただ脆いのでぶつけない様にしてください。街につけば壊れていても構いませんが移動途中は命を守るアイテムですから!!」
「中級以下の魔物を寄せ付けないアイテムですと!?お香でも無く……魔物避けの魔法陣でも無く??」
「この様な素晴らしい物など預かれません!!」
イスクーバは勿論マークラも非常に驚く……しかしその時間が無駄だ。
「そんな事今はどうでも良いでしょう?村民の命がかかってるんです……早く行動に移して下さい!」
言葉遣いが荒くなって申し訳ない……と思いつつ僕は強めに言葉を発した。
二人は僕の臣下では無いが、今は人手が足りないので勘弁してもらいたい。
「ハ!!直ちに!このイスクーバ命に変えてもこの事を伝えて、必ずこの村に戻ります!!」
「マークラ、ジェムズマインへ向かいます!ヒロ男爵様もご武運を!!」
2人は輝きの旋風が乗ってきた馬を借りて、ジェムズマインまで戻っていく………
「ミミさんのお母さんはこの事を村人へ伝えて、皆を直ぐに村の外……せめて隣村に避難させてください。そのあと貴方は食堂へ……裏手にテントが有ります!ひとまずそこに避難をしてください。家族を救ったらそこへ向かわせますから!合流したら外へ避難を……ご家族がいる場所がわからないのでいつ迄と確約できませんが、半日待って家族が戻ってこなければ隣村の薔薇村へ避難して下さい」
「はい!何卒……主人と娘をお願い致します!!」
僕は何人ダンジョンに飲まれたかもわからないが、そう約束をする……希望が無ければ待っていられないからだ……
ある程度流れを決めてから、ダンジョンの入り口まで僕等は急いだ。
渓谷の降り口には、すごく不安な作りのゴンドラがあった。
人用ではない……と聞いてその時は安心したが後で後悔することになる。
木材で出来たゴンドラが荷物入れになっていて、蔦で編んだロープをうまく使ったそれを使って一気に下まで手荷物をおろす。
僕達自身は木で組んだ梯子を延々と降りるしか無かった……まるで何かの秘境を巡るような映画のシーンを現実にした様な体験だ。
場所は非常に高く、万が一にも足を踏み外せば真っ逆さまの最悪な環境だ。
ダンジョンは、渓谷を降りた川沿いの鍾乳洞が入り口になっていた。
その周辺の壁にミミの家にあった物と同じ『封印水氷塊』が埋まっていた……どうやらこれが残りの半分だろう。
コレを見つけた時は、この存在を知らない水精霊の信者が割ったのだろう……
それがミミの父親か……それとも別人が割ったものを偶然ミミの父親が見つけたか……それか譲り受けたかは分からないが、今までは封印が施されていたので間違い無く水精霊の信者である事は間違いなく、ミミの親は背信者でない事だけは言える。
ダンジョンの方へ向かおうと近づくと、突然念話が僕に届いた。
驚いて僕が立ち止まりその念話に耳を傾ける。
「中級精霊を連れて居る人間よ……我々を共に中へ連れてって貰えないだろうか?仲間の半分は既に背信者の行いでこの世界を去ってしまいました。今残されたのは我々6人だけです……辛うじて抑えてはいるのですが、もう時間の問題なのです……』
「連れて行くってダンジョンへですか?埋まって居るのでそれは無理かと……岩から剥がすにも工具も何も無いのでは………僕にはどうにも」
「どうした?ヒロ?何があったんじゃ?誰と話しておるんじゃ?」
「アルベさん!水精霊の念話です……ダンジョンの中に連れて行けと……」
『貴方達にはダンジョンに飲まれた人間を逃して欲しいのです。貴方達が逃げた後、我々がダンジョンの階層を纏めて破壊しておくのでその隙にこの渓谷周辺の地より離れて下さい。アイツが解き放たれた今、実態を維持出来ない我々にとってはそれが最後の手段です……持ち運びしやすい様に我々は結晶へ再度形を変えます……掘り出すための道具の類は必要ありません」
そう言うと封印水氷塊は『半分砕けたトーテム像』に姿を変える。
見た形は水精霊のダンジョンの最下層で見た、上級水精霊に非常に似ている。
砕けている部分は、世界を去ったと言われる精霊が理由だろう……
『今は封印効果で地下5層までしかありません。しかしこの村全域は、じきにダンジョンに飲まれ『地下50層』のダンジョンに変わります。そうなる前に1個体でも多くのこの地域に住まう生き物を、この場所より遠ざけて欲しいのです。でなければダンジョンに吸収され数日で人も動物も変異して二度と元には戻れません……頼みましたよ……精霊に愛されし者よ……」
そう言うと『プッツリ』と念話は途切れてしまった。
『ヒロ!今のは上級精霊の意識核よ!もう長くは持たないわ……上級精霊様が言った様に急ぎましょう!』
僕は封印水氷塊の表面に出来た『水氷の半分砕けたトーテム像』をクロークへしまう。
どうやら此処に残った封印水氷塊を作った上級精霊には、やはり封印効果の持続をお願いできない様だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンの中は非常に不思議な状態になっていた。
一部は渓谷の岩肌だったが、所々は水が詰まった硬い塊になっている……見たイメージだと透明度が高い氷の塊だ。
封印状態というのはこんな事を言うのかもしれない。
ダンジョンに潜ったのは、僕達異世界組に輝きの旋風そしてエルフの3氏族にチャクとチャイそれにエルフの姫君ユイにモアそしてスゥだ。
レッド・アイズは全員でミミの回収に向かった……村長が伯爵家のエンブレムを見たら大激怒でボーザーは大目玉だろう。
村長が『伯爵家のエンブレム』を知らない筈がないからだ。
『貴族の新参者』の僕と違って、ウィンディア伯爵は先代から有名だという話だ。
さらにこの一帯の『新領主』なのだ……知らなかったら『村長』など辞めるべきだ。
現代で言えば自分の務める会社の『社名』を知らないほどの大馬鹿者だ。
この世界は写真がないので顔が分からない分、名前とエンブレムデザインは絶対に知れ渡る……それが『この異世界の常識』なのだ。
僕については『エンブレム』も決めていないので公表できないでいる。
それもあって今回はお忍びで視察ができるのだが……
僕等は注意深く奥へ進む……
しかしこのダンジョンは、通路も部屋と混ざり一貫性がなくぐちゃぐちゃだ。
だがおかしな事に魔物が一向に出てこない……とても不思議なダンジョンだった……
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