第489話「禰宜の登場……一悶着の予感しかない!!」


 初めは冗談かと思ったが本当に奥さんだった。


 二人の子供が食堂に入って来ると、その二人が『お父さんタダイマ!』と言った後に、母親にお手伝いを聞くのだ……これでは疑いようが無い。



「お父さん!今日はお店沢山人がいるね?お手伝い沢山しないと!」


「私達で水入れて来るね!」



 娘さん達はちゃんとお手伝いできるいい子だった。



「おっとすまねぇ!話が横に逸れちまった!!村長の話だったよな?村長はやり手でな!この村は『水精霊を祀る村』だから『精霊のバチが当たるぞ?』と言ってヤクタ男爵の要請に誰も村の者を出さなかったんだ!」



 いつに間にか『村長』に話が戻っていたがいいことが聞けた。



「って事は此処にも水精霊を祀る洞窟が?」



「ああ!あれは此処にはないな!此処は渓谷があるんだ、オババが生まれるちょい前までは水精霊が多く集まる場所で有名だったがらしいけど、今はもう見れないらしいぞ?その光景は古文書に書かれているらしいが………『神託の巫女』が精霊と話せなくなった……あ!話はあのいけ好かない一族の話だったな!スマンスマン!」



 どうやら自分で話していて思い出した様だ。



「いえいえ!この村の情報が少しでもわかれば嬉しいですしね!冒険者として実際に見聞きして憶えないと一方的な耳学問では間違いもありますから!因みに特産はなんですか?」



 店主の話では、遥か前に『神託の巫女』と言う力を持つ巫女が、精霊とコンタクトできなくなった様だ。


 その理由は『中級種』と精霊契約が出来てないせいだろう……



「特産?この村は薔薇村と違って何も無いぞ?自然が豊かだから食っていけるがな……森の幸に川の幸、少ないが畜産もしてるからな自給自足さ!唯一の収入源は水精霊の好む水輝石が取れる事だな。これは水精霊の信者が好んで買うからな!」



「成程それほど問題を抱えている村では無いって事ですね?それはそれで良かった安定しているならテコ入れは少なくて済みますからね?」



「そんな事ないわよ?ウチの亭主は毎日適当に暮らしているからそんなんで済むけど……私等からすればとんでもない!村人が減れば暮らしてなんかいけないんだから!それに何時迄も水輝石が手に入るとも限らないでしょう?」



 奥さんの一人が収入面の現実味を帯びた事を言うが、もう一人は違うことに悩んでいた。



「私は収入面の事もさることながら……巫女の一族とか胡散臭い事を言って、村の蓄財を食い漁っているあの一族が嫌だけどね?いくら稼いでも村に回収されて当たらない『信託』のためにお金払いたくないのよね!せめてミミみたいに水輝石光らせてくれればそれこそ価値があるけど!」



「あ!ミミちゃんに寄進料払ってない!!」



 話からして、どうやら水輝石を光らせる事はこの村では価値がある様だ。



 しかし問題としては、薔薇村に比べれば遥かに少ない。


 そんな話をしていたが、突然『バタン』と勢いよく店のドアを開けて入ってくる者がいた。



「水輝石をインチキで光らせた『ミミ』が帰ってきたと聞いたぞ?この村の面汚しだ!即刻村から追い出すから何処へ行ったか教えろ。クラッパ!」


「何だと!?インチキだと?この目で今さっき見たばかりだ!ミミはインチキなんかしていない、『祈って光らせた!!』此処にいる全員が見てたんだ!!そうだよなぁ?」



「わからない様にインチキしたに違いない!お前達も騙されてるんだよ。あのインチキ家族とミミに!あの万年最下位の出来損ないが姪っ子ができない事を出来るはずがないだろう!!」


「バカはお前だ!毎回あの家族に喧嘩売りやがって!お前達が祀る水精霊の輝石を集めてきてるのはその彼らだろうが!!此処にいる皆さんは全員ミミの仲間だぞ!下手な事言って村の品位を下げんじゃねーぞ!ボーザー!お前が禰宜になれたのはベグラーとミミの親父のおかげだろうが!」



「は!バカな事を言うな!あんな石ころ水精霊が好きなわけないだろう!水精霊が好きなのは、我が家系の『神託の巫女』だけに決まってんだろうが!馬鹿な噂に騙されやがって!!コレだから素人は!」



 突然ミミのことで喧嘩をし始めたが、僕達は全く意に介していなかった。


 彼女が『水精霊』と契約しているのは、ファイアフォックスのギルドでは周知の事実な上に、彼女のメンバーは彼女が水精霊を出す度に急いで隠すのだ。


 エクシアの言いつけは絶対なのだ……隠せと言われたら隠すだけだ。


 最近その皆は色々とやらかしているが……


「アンタ達!悔しくないのか?仲間があんな風に言われて!!」



「僕達は彼女が幸せなら構わないですよ?だって……誰に何言われても彼女今幸せですしね?」



 僕がそう言うと……同じパーティーのルーナが……



「ヒロさんの言う通りね!私は同じパーティーの『ルーナ』って言いますが、毎日楽しそうに踊ってますよ?それにこう言ってました……『出来が悪い私でも、ヒロさんに出会えたし、大切にしてくれるパーティーにも出会えたからそれだけで幸せです!』ってね?」



「そうだぜ?俺はパーティーリーダーのルームだ!ミミはおっちょこちょいだけど、周りが何と言ってようが今は実力がある奴さ!アンタ達に『トンネル・アント』が倒せるか?ミミは一人で倒せるんだぜ?何がインチキかしらねぇけど石ころ光らせるのが出来るか出来ないかで追い出すとか意味わかんねぇよ!」



「ホラ!仲間が今言っただろう?石ころ光らせるのがって!巫女のなんたるかを知らないミミだから仲間も馬鹿しかいない!!自白した様なもんじゃないか!どうやって光らせた?やり方をいえ!インチキ冒険者が!」



『何この変な奴……禰宜だって?偽者はそっちだろ!!って言ってやりなさいよ!水精霊が好きなのは神託の巫女?そんなもん知らんよわたしゃ!それにこの水輝石は滅茶苦茶好きだよ!意味わかんない巫女より大好きだよ!』



 念話でガチクレームする水精霊だったが、この人『禰宜の偽者』なんだって事の方が重要だ。



「クラッパお前達家族だって村への貢献が少ないんだぞ!ミミの親父は輝石売っているからまだ稼ぎがあるが、お前達は違うだろう!領主様への物納は今回は何にする気だ?魚か?野菜か?それとも子供でも売って金にするのか?」



 ボーザーと呼ばれた偽者の禰宜の男は領主への物納と言ったので、僕はマークラを見ると彼はボーザーに見えない様に首を横へ振る。



 その行動は『そんな事例はない』と言っている様なものだ。



 あえて僕はそれを伏せておく……今言えばボーザーに疑われる元を作るようなものだ。


 一網打尽にするためには今は我慢だ。


 しかし、当然だが酷い事を言われた食堂の亭主は声を荒げている。



「子供を売るわけ無いだろう!馬鹿かお前は!!」



「だったら夜逃げしかないよな?マッタク……使えないこの村のお荷物は困る!!」



「何だと!お前達一族は何もして無いくせに!デカイ口を叩くんじゃねぇ!お前等が『ジェムズマインの領主』に呼ばれている事が無いことなんか既に調べてんだよ、こっちは!祈祷だの何だので金を得ている?俺達が収めたものを横取りして年貢を収めている癖に!しらねぇとでも思ってんのか!」



「な!何だと!言いがかりはよせ!くそ食堂の馬鹿亭主が!!此処にいるとバカがうつるわ!」



『バタン』



 ボーザーはそう言って店を出て行く。



「モーシャイ!テラリナ!店の前に水撒いとけ!水の精霊の加護があの馬鹿のせいで消えちまう!!」



「アイヨ!アンタ!」


「だね!此処ぞとばかりに沢山水を撒いてやるわ!!」



 子供達二人がお手伝いでドアを開け、女将さん達が手持ちの水瓶を持って水を撒こうとするが、勝手に水が瓶から浮き上がりドアから水の塊が出て行く……



『バチャバチャバチャバチャ……………』


『うぉぉぉぉ冷てぇぇぇ!!』


 水っ子が相当苛々したのだろう……水瓶2個分の水をボーザーの頭の上からかけたようだ。


 まさにこの村にしてみれば天罰だろう。

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