第465話「ローズビレッジの改善計画開始」


 その全てはエルフのマジックバッグに収められていて、村の中でどんどん山積みにされる。


「ここいら周辺はウルフはもうおらんぞ?エルフの狩るスピードが速いのなんの……ウルフを見つけると、どっかから矢が飛んできてウルフが死ぬんじゃ!探し回って逆に疲れたぞ!ガハハハハ!!」


 アルベイの話を聞いたユイナが馬鹿な大人の相手をやめて、子供の前に行く。



「あそこに居る冒険者の皆でね?ウルフ全部倒してくれたって!良かったね!?ホラ!いっぱい食べて!明日からも沢山お肉食べれるからね?」



 そこからは魔物の解体が大変だった……



「すいません!これからは自分の子供のようにしっかり村民全体で立派に育てます!暮らし向きが良くならず……男爵家にも助けも貰えず!ヤクタ男爵にも副村長にも搾取しかされない!って腐ってた自分が恥ずかしい……」



「ごめんね……小さいあなた達に苦労ばかり……私も逆らえなかったのよ!仕事を貰う関係もあって……あの副村長はヤクタと契約してたの……でも……それも言い訳よね……」



 口々に、自分は悪く無い……仕方なかった……という言葉を挟みながら言い訳をするのには、正直ウンザリした。


 だが、その言葉の中には明確な名前と理由があった。



 まずはヤクタ男爵と契約した『副村長』の問題が大きかった。


 そして村を維持できなくなった『村長』と副村長の企みの『仕事の独占』だ。



 その仕事の収益は全て『副村長』が回収して、『ヤクタ男爵』へ流れている。


 ……と、いう物だった。



 しかし『ヤクタ』は死んだ……それなのに未だに契約と言うのは何かがおかしい。


 マークラにその事を聞くと、『大凡、見当はつく』と言うと説明をした……



 その見当は当然『搾取側』に回って、ヤクタ男爵が死んだ事を黙っているのだろうと言う事だ。


 『そこまで情報が回らないものか?』と僕は思ったが、その日を暮らすのがやっとな彼等には『ヤクタの生死』などより僅かな金だったのだろう。



 そんな状況にしたのは『村長の責任』では無い……


 彼は以前ヤクタに反抗したが、見せしめに『鉱山の戦闘』に息子達全てを連れて行かれた……そして鉱山で『死んだ』事を報告された。



 副村長はその頃既に『ヤクタ側』だったので、目溢しされて息子達は『戦闘参加』せずに今もこの村でのさばって居る。


 今ここに居ないのは、父親の製材業で村の外にいるからだそうだ。



 刃向かえば、家族を連れて行かれる……言う事を聞かなければ家族を連れて行かれる……そうやってこの村の男手は減った。


 そして子供を養うために母親は、副村長の扱う仕事へ出る……製材業だが護衛など居ない。



 いわば、副村長一家が逃げるための肉の壁だったが、彼らにはそんな仕事しかなかった……


 聞く限り領内移動もヤクタは許可をしていなかったし、そもそも村民は彼が死んだ事を知らない……と言うより興味がない。



 こうして小さい孤児が出来上がるがこの村には孤児院さえない。


 その彼等は僅かな銅貨と食料のために、山程の丸太を必死に転がしていたのだ。



 だから僕は一芝居打つ事にした……村の全員に『今まで通り』副村長の言う事を聞いていてくれと指示をする。



 全員『若い冒険者が何を言う?』と顔をしたが、目の前に積まれた『フォレストウルフ』の遺骸に、子供達が食べている『フォレストウルフ』を使った料理は、この村の新しい収入源と食料になるのは明白だ。



 ローズビレッジの周辺は『魔の森』ではなく『精霊の森』と呼ばれる場所で、今でも穢れを受け付けず豊かな森が広がっている。


 魔の森では無いのでフォレストウルフの凶暴性は若干失われている……だが村人には脅威ではある。



 そこを一掃したのは『ユイナ』と言う女性が一言『ウルフを掃滅しろ』の一言で全員が動いた。



 そしてそのユイナは、目前の『少年』に今後の予定を聞いている……と言うよりエルフまで含めて全員が『少年を中心』に回っている……


 その状況を見てしまえば『文句』などつけられるわけもない……今まで誰かに従って来た彼等だからすぐには変われない。



「ひとまずは、生肉の貯蔵用と冬の食糧生産を頑張って貰います。ローリィとエイミィは村人を数人連れて香木の採集を。香木は出来る限り多くお願いします。このマジックバッグを持って行って詰めてください。村人の護衛には輝きの旋風がお願いします。あと行く村人は、使える香木をちゃんと覚えてくださいね!」


 ローリィとエイミィはこの村の出だから周辺には詳しはずだからお願いする。


 出来れば、ローリィとエイミィの昔話を聴きながら僕も見て回りたかったが、それは後回しにするしかない。



「手が空いている冒険者は村周辺のウルフ以外の魔物の駆除を!主にゴブリン種を駆除で……アイツ等増えるのが早いから。ウルフが居なくなった以上、異常繁殖しても困るし」



 討伐対象を明確にした後、村人への指示をする



「村人は全員肉の捌き方とジャーキーの作り方を覚えて下さい。今は香木が無いので肉の加工を優先で。村長マジックバッグを集めて大きさの種類順に置いてください」



「うし!じゃあ行ってくるかの?ローリィとエイミィ、香木集めの住民を選んでくれるかの?」



 ローリィとエイミィは、道具屋のおばさんと食堂の女将さんの二人を選んだ。


 この二人は、食に精通しているのと購買に関係するので外せなかった……彼女達は村長を連れて行きたかったが、そもそも歳なのと肉加工を覚えておく年長者が必要だったので、村長は肉加工組になった。



 刃物の扱いが危ない子供達は切り分けた肉を、燻製用と近々に消費する食用とこれから迎える冬に備えての保存用に分ける係だ。



 僕はミクにお願いして『クルッポー』に仕事をお願いする……



 内容は手紙の配達で、相手は『マッコリーニと氷菓屋とテッキーラーノー』の3商団だ。



 手紙内容はこうだ。



『買い取って貰いたい物があるので、ローズビレッジ(薔薇村)まで来てください。因みに来る時は、魚醤を多めに持って来てもらえると助かります。香木を集めさせてますので買取希望者は準備が終わっていたら先着になります。村人には僕が誰かは黙っていてください。ちょっとした計画の最中なので正体を知られると計画が頓挫します。』



 木材を売買するこの村には、定期的に商団は来ない……必要な時に買い付けに来るか、他の村へ行く途中に寄るくらいなのだ。



 来ないならば呼べばいい……金にうるさい彼等ならすぐにくる事だろう……言い方は酷いが間違いではない。



 予定外の仕事で本題には全く関係ないが、乗りかかった船だ……この孤児を放っておく事はユイナが許さない。


 それにユイナを呼んでご飯を作らせてその気にさせたのは、他でもない僕だ。



 大きなタライに魔物の血抜きをしては、桶に移して遠くに穴を掘りそこへ捨てに行く。


 血抜きが終わった個体から、討伐素材と肉を切り分けて行く。



 村の周囲の木には、血抜きの為にフォレストウルフが山ほどぶら下がり異様な光景だ。


 どんどん加工をしては、新しい個体を木に吊るす。



「このウルフはこの村の共同資産になるんだよね?ヒロ?」



「そうだよ……でもその前にちょっとやらないとならない事がある。『富の独占』をしている人を懲らしめないと!」



 加工中ミクが僕に質問をして来たので、簡潔にそう答える。


 会話が聞こえる範疇に副村長側の人間がいないとも限らない……なので全容は語れない。



「王都の孤児院出の私だけど、孤児の扱いの酷さは何処も同じと思ったけど……ここは本当に酷いね。格差が人をおかしくするのは見てたけど、この村は『誰も信じられない』って言う空気が流れてるね」



 アーチがそう言うので周りを見ると、たしかに同じ村民だが凄くよそよそしい。


 今でこそ孤児の子供を中心に話す様にはなったが、村に来てからの違和感はそこだった。



 言われるまで僕は、その違和感に気が付かなかった。



「申し訳ない……ヒロ様に冒険者様……鉱山への強制召集迄は普通に村民同士交流があったのです……ですが副村長の匙加減で鉱山兵士行きが決まるので、それこそ疑心暗鬼に……家族を守る為に、代わりの誰かを差し出さなければならい……それがこの村の姿になったのです……」



 村長が側に来てこの村の実情を話をしてくれた………

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