第454話「やらかすミミの安定性」


 テイラーは僕の様子を見てため息を吐く……


「お前達……ヒロ、ヒロと気軽に接するが、彼は『私と同じ男爵位持ち』だからな?一応言っておくがヒロ男爵様だからな?まぁ彼は、貴族らしくない貴族だから気にしないだろうが……あまり『迷惑』はかけるなよ?」



 テイラーの一言で男性冒険者の押しが一時的に緩くなるが、代わりに女性冒険者の圧が酷くなる……今はシャインだけで抑えられなくなった、女性冒険者スタンピードをミオが防衛任務に参戦して、華麗にブロックをしてくれている。



 そしてミミのグループは……



「ミミ!この癒しの杖売って下さいまし!!金貨100枚の蓄えは有りますので!是非!!パーティーの回復師としてしっかり装備を整えたいのです!」



「ミミ!このカイトシールド売ってくれ!ミミは接近戦しないだろう?俺がコレからも絶対に守ってやる!」



「ミミ!このロングソード売ってくれ!ツケで!頼む!ツケで!!」



「ミミ!ミミ!この魔導書!私に引き取らせて貰いたい!!金ならちゃんと蓄えてある!言い値で買うぞ!」



 ミミは、パーティーメンバー4人から四方八方から揺さぶられて、乗り物に乗ってないのに酔っている様だ。



「皆さんはお仲間ですので!どうぞ使って下さい。ミミには師匠が見繕ってくれた、スンバラシイ!!あの弓がありますし……今後もしミミが使いたい物が手に入った場合の宝払い交換で良いです!………ウプ……」


 やはりミミは酔っている様だ………



 そしてエクシアは箱を開けて………『なんで依りによって『氷』なんだよ!!アタイは炎系特化なのに!!』とキレていた……交換すれば良いんじゃない?と言いたかったが、誰も怖くて近寄れなかった……どんな装備かは気になるが……



「皆さん!まだあるんですからさっさと回収して、『箱を退かして』下さいよ?」



 僕がそう言うと、騒然とするギルド内………



「マジかよ……『まだある』って言ったか?」



「言ったな!……マジかよ………」



「アタシ……次のファイアフォックスのギルドテスト受けよう!絶対に!」



「そうだな!あのミミって子は、そこまで強くない冒険者だけど『役割』があるって言ってたからな!俺もこのギルド受けて役割もらおう!!」



 ミミはと言えば『水精霊の波紋のベスト』をそそくさと装備していた……水系特化装備だ……常に身体周りを水のベールで覆い防御するレア装備だったが、問題は彼女が『精霊使い』と言う事だ。


 肩に水精霊が化現している……そしてミミはそれに気が付かず、仲間は宝漁りに没頭して、周りの冒険者は精霊を凝視している……


 そして精霊は周りの冒険者に手を振っている……カオスな状況だ。



 当然ミミは『鑑定スクロール』を使って居るので『アイテム銘』は知って居るが『初級鑑定スクロール』では大した事は分からない……




「アレって水精霊じゃないか?」



「って事はあの装備……精霊を呼べるレア装備か?」



「聞いた事がある!水精霊と契約して力を借りるアイテムがあるって!」



「アレって……装備すると精霊使いなのか?まさか『なれる』ってことか?」



「精霊使いじゃないだろ……精霊界から一時的に化現して守る系じゃないか?」



 推測が飛び交う……そして水の下級精霊はベストから飛沫上がる水で遊べてご機嫌だ。



「!!ミミ!か………肩に!!」



 真面目なルーナは、パーティーメンバー特権の『武器の受け取り』について『ぶつぶつ』言いながら悩んでいたが、受け取る決意をしてミミへ振り返った。


 その瞬間、水精霊のそれを見て青ざめる……自分が彼女のストッパーだったからだ。



「へ?ふぁぁぁぁぁ!水っ子ちゃん!?肩で何してるんですかー?」



「おお!良い物手に入れたね?それは水精霊を『一時的に呼べる』上着だろうね?多分だけどね?多分!」



 エクシアがそれを見て機転を利かす……さすが困った時のエクシア姉さんだ。



「おおお!そうで御座いましたか!皆さん、ワテクシ!一度故郷に帰り、村の人にこのアイテムを見せたいので御座います!」



 唐突にミミのお家帰りたい宣言が始まる……天然なのか、わざと話に合わせているのか……判断が難しい……



 しかし彼女の故郷は、僕が統治する事になってしまったジェムズマイン南部の領内だった筈……



 それであれば一緒に観に行き、今後の相談にもってこいな気がした……村民が居れば話もスムーズだろう!



「ミミさん!折角なのでその話後で一緒にしましょう!僕の統治する領内にミミさんの村があるので!一度話に行かないとならないんですよ!でも今は『宝箱の分配』を優先して欲しいです!じゃないといつまで待っても終わらないんです……」



 僕がそう言うと、何故かエクシアが……



「ってか、アンタの箱祝福かけておくよ?自分の分片付けないとダメだろうよ?シャイン!シャイン!こっちの箱を祝福かけて!出ろー!炎系!出ろー!炎系!」



 酷い事に勝手に開け始めるエクシア……ロズとベロニカはホクホク顔で自分の宝箱のアイテムを取り出していて気が付かない。



 唯一ゲオルが気がついたが、エクシアの行動を見ても止める勇気は無いらしい。


「おおおおおおお!!『スキル付き!?フレイムファルシオン!!』おい!ヒロこれくれ!ってかアタイの氷装備と交換しろ!水とか氷ばっか使ってるじゃ無いか!アンタ!良いだろう?お前に焔は似合わないよ!」



 勝手に宝を開けた上に凄く失礼なことを言うエクシアだったが、既にフレイムファルシオンを手放す気は無い様で、ガッチリと抱え込んでいる。



「わかりました!良いですよ、因みにその氷装備って言うのはなんですか?」



 コレだコレ!!『フロストサラマンダーのタリスマン』だ!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『フロストサラマンダーのタリスマン』


 使用者は『精霊使い』の特殊ステー

タスを獲得。


 氷の精霊フロストサラマンダーとの

契約に必要なマジックアイテム。


・特殊効果『精霊使い』

・使役精霊『フロストサラマンダー』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕のモノクルを奪ってわざわざ確認したのに、何故コレを僕に渡そうとしたのか……エクシアの頭のネジを心配する。


 僕はコレが一応何なのか分かってはいるが、モノクルをエクシアから受け取り『鑑定』するフリをする。



「『モノクル』使って確認しましたよね?何故それを僕へ?」


「決まってんじゃ無いか!これ以上問題を『増やしたく無い』だけに決まって居るだろう?」



 周りはそれが何か分からないが、僕等の話から『普通じゃない物』だと察しがついた様で、じっとアイテムを見つめている。



「うわ……計画犯じゃ無いですか!」


「そりゃそうだろう?それにお前の方が適任だろう?ある程度の力が必要じゃ無いか!これからの為にもさ!」



 エクシアの言葉を聞いた周辺の冒険者は『宝箱をこれ程手に入れて居るのに……これ以上の力を?』と、あちこちで話している。



 当然周りがこのアイテムの特殊効果を知ったならば、喜んで交換するはずだろう……


 コレにはそれだけ価値はある……S級冒険者への足掛かりなのだから。



 しかしルーナは別の物に興味を持った。



「すいません……それってもしかして『鑑定』できるマジックアイテムなんですか?」



 ルーナがそう質問してくるので、僕はルーナに渡し『見て確認してみた方が早いよ?』と言う。



「す!凄いコレ!鑑定スクロールより遥かに性能がいい!!うそ!?コレ……『癒しの杖』ではない!?私のは……『輝く・溢れる魔力・癒しの杖』!?『銘付き武器』だったなんて……ミミさんどうしましょう!?魔力強化ですよーー!きゃーーー!!」



 ルーナは『キャーキャー』言いながらエクシアの様にがっちり抱えて離さない……間違いなく『貰う気』だろう……


 そして周りの『回復師』の嫉みの目力が半端ない……

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