第450話「彷徨った過去と最後の願い」


「これは、僕の肉体の一部を元にダンジョンコアの制御を組み合わせた、遠隔操作ができるダンジョンコアだ!コレがあればこのダンジョンはヒロの好きにできる……ダンジョン内部に居ないから穢れに飲まれる事もなく、僕の様にもならない……」



 彼は今この話しをしながらも、身体のヒビはどんどん大きくなっている。


 しかし大切な事なのだろう……話すのを辞める気もない様で、少し間を置いて休憩してから続きを話す……



「コレの存在はあのダークフェアリーも知らない!コッソリ時間をかけて作ったんだ!でも、この存在は絶対にあのダークフェアリーに知られてはならない!僕はもう駄目だ……だから君がこれを持って居てくれ……これがある限りこのダンジョンコアには『新しい異世界人』を入れられなくなる」



 彼はそう言って『漆黒の遠隔操作コア』を僕に渡す……



「そして、出来れば同じ物を作り他のダンジョンの機能を停止して欲しい……此処と同じ様に各ダンジョンには『異世界人』が命を吸われ続けている筈だ!彼等はコアと一体化する為に肉体の一部が既にコアに飲まれている。遠隔コアを切り離すのは簡単で、飲み込まれた者は痛みも伴わない」



 そういうと、彼はダンジョンのコアから新しい球体を切り出して見せて、即座に破壊する。


 彼が破壊した遠隔コアは、すぐに粉々に砕け散り消えてしまう。



「いいか?コアは呼びは作るな手に渡ったら最悪だからな?フェアリー対策だがダンジョンの力を束ねれば、ダークフェアリーの様な力が使える……そうすれば倒す事もできるし、元の世界へ帰れる『ゲート』作れる……『遠隔ダンジョンコア』の作成方と『ゲート』の仕組みは、その遠隔コアにしまってある。持って念じれば読める様に作ってある!」



 試しに念じると、頭に色々な情報が流れ込んできた……



「君にしかお願いできないんだ……すまない……僕の肉体はとうの昔にこの球体にのまれた……後は魂を切り離したこのアイテムを迷宮の外に持っていくだけだ……これを持って地上へ……そしてそのアイテムを『祝福』してくれないか?そうすれば僕の魂は浄化される………その先の門から出れば……迷宮の主の部屋に通じて………」



 そう言うと、長谷川と名乗った彼の手から一つの『卵型のマジックアイテム』が滑り落ちる………


 そして彼はそのあと一言も話さなくなった……



「分かった!必ず……持ち帰る……祝福も!!」



 僕がそう言うと、安心した様にヒビが大きくなり全身が崩れて壊れて消えていく………




「ヒロ!しっかりしな!アンタが関わった全員を助けられるなんて訳はないんだ……グズグズなんかしてられないよ!アンタの世界の仲間が死んだお返しは、いつか必ずあの羽虫を八つ裂きにする事で済ませな!!」



「エク姉さん……流石に今は………ちょっと酷っすよ……」



「そんな事はわかってる!だがね……死んだコイツは自分の命削ってコイツを守ったんだ……コイツがショック受けてる場合じゃない……万が一同じ様に取り込まれたら彼の努力が無駄になる!」



 そう言ってエクシアは僕の胸ぐらを掴む……



「いいかい?悔やんだり凹んだり悩んだりは『後で』しな………残念だが此処であの羽虫に敵う奴は居ないのが実情だ!ならばすぐに此処から出るしか無いだろう?行く宛は無いが此処よりマシだ!さっさと此処から出てあの真紅の魔導師に何か聞いてきな!!」



 僕はエクシアの一言で急いで壁に駆け寄り『倉庫』を開く。



『くそ!居ないか………』



「アナベルさん!アナベルさん!!出てきて下さい!今すぐ聞きたいことが!」



 いくら呼んでも返事も変化もない……エクシアの言う通り今は一刻を争うのだ。


 僕は最下層への扉を倉庫内部に作る。


 これで倉庫内部の扉は3枚になった『王宮』『トレンチのダンジョン9階層』『トレンチのダンジョンにあるコアの部屋』だ。



 僕は黒い球体を握り締める……



「くそ!助けられなかった……何も手段が無かった……くそ!殴る事もできなかった!!」



『悔やむな……僕は身体は失ったが魂はこの球体に移してある……エルフ族の『魂の器の原理』という物の原理の応用だ。でもありがとう……見知らぬ僕のために怒ってくれて!しかし今は脱出する事だけを考えろ!』



 急に聞こえた声にびっくりしたが、『念話』である事に気がついた。


 僕は念話で返答をするが、慌ててしまい言葉が口にでる……



「でも……外に出ても……あのゲートみたいな魔法で……また此処に……」



『それは大丈夫だ!君が此処から出れば君以外はもうコアの部屋に入れない……この球を持たなければ、あのダークフェアリーさえも。そう僕が長年かけて構築した部屋だ、この日のためにな!あの漆黒のダンジョンのコア部屋ではダークフェアリーは無敵だ。魔力も力も穢れを使えば思いのままだ……あのフェアリーの魔核がダンジョンコアだからな』



 ダークフェアリーの無敵パワーは、ダンジョン最深部の『ダンジョンコアの部屋だけ』と彼は、黒い球体の中から教えてくれた。


 身体の崩壊のせいで時間が無いので、話せなかった様だ……



『僕に既に身体がない以上、この球を強く握った時に君の意識に繋がり『念話』でしか話せない。君を助けてやりたいが精神の混濁も酷くなっている……今でさえ魔物になる可能性も高いんだ』



「魔物だって?でも身体が………」



『申し訳無いが、繋がった時に記憶を覗かせて貰ったが……君は知っているだろう?アラーネアが嘗てそうだったように、僕もああなる……そして無限地獄の様に、この世界を彷徨う事になる。僕は『異世界の人間として』死にたいんだ!クソみたいなこの世界の生き物なんか絶対に嫌だ……』



「……………それは僕にもわかる…………」



『いいかヒロ?同郷の好だ……それが僕の助けになるんだ。だって450年だよ?……考えられるか?ヒロ?……死にたいと願った300年は長いなんてもんじゃない……だから気にするな!やっと願いが叶うんだ。君が地上に出たら、僕の記憶と知識をこの球から吸い出すんだ。必ず君の役に立つ筈だから!さぁ!悔やんでないで今は逃げるんだ!僕の為にも!』



 僕は長谷川と名乗った彼に感謝しつつ、勢い良く異次元倉庫の扉から出る。



「皆さん、長谷川くんが教えてくれました!あのダークフェアリーの魔核があのダンジョンコアなので奴は此処で無敵なんです!だからこのダンジョンから出れば勝算がある様です。スペックダウンするみたいですから!そして一番大切なのは、僕らが此処から出てしまえば、ダークフェアリーもこの部屋を使えなくなる様です!」



 そう言って黒い球体を見せる。



「なら此処から速攻で出るしかないじゃ無いか!行くよオマエ等!!」



 急ぎ部屋から出ると、そこは不思議な文様の壁だった……



「こ………此処がダンジョンコアの部屋だったんすか?アニキ?」



「ロズさん!僕に言われても初見ですから!この階層………」



 エクシアがロズの頭を叩き、すぐに迷宮の主部屋に向かうと部屋中を隈なく探す皆が居た。



「おおお!無事だったか!声が響いてお主達が消えたから……心配したぞ!」



「「ヒロさん!良かった無事で!」」



「「く!!」」



「私の方がシャインさん『より』心配してました!」


「いいえ!私の方がミオさん『より』心配してました!!」



「エルオリアス!エルフレア!ヒロ達が帰ってきたぞ!ユイ様とモア様にスゥ様……此方です!!吸い込まれた者は皆無事です!!みなさんは無事でございます!!姫様方!ご安心を!!」




「「「「「「「姫様方ーーーーー!?」」」」」」



「「オイ!エルデリア!」」



 エルデリアのウッカリに一同がすごい裏声で驚き、エルフレアとエルオリアスのツッコミは矢の様に速かったが、今はそれどころでは無い。

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