第449話「ダークフェアリーと謎の男」


「ギムドロルを此処に連れて来たダークフェアリーの様ですね………」



『ああ!そうさ……折角トロルの馬鹿王子を人間に殺らせて『戦争』にしようとしたのに、邪魔しやがって!落とし前はキッチリ払って貰うからね!』



「羽虫風情が調子こいてんじゃ無いよ!危うくウチのギルメンは死にそうになったんだ!落とし前つけんのはそっちだ!そんなに地中が好きなら、瓶詰めにして土に埋めてやる!」



 エクシアが黒幕を前に、怒りを露わにする。


 僕はこの場に居る全員が『例のスキル』を得ている事を確認する……何処かわからないこの場所から、地上に帰る手段ならさっき手に入れたばかりだ。



 しかしビックリした事にダークフェアリーは……



『おい!そこのオマエ今スキルで、此処から『地上』に戻ろうとしただろう!?逃がさないって言ったはずだよ?』



 ダークフェアリーは僕の行動を呼んだのか全てを言い当てる。


 しかし次に話す言葉は、異世界の住民の怒りを買う言葉だった……



『まさかダンジョンの中だけ使える力とか思ってないよね?そこのメス2人の異世界人2人を強制召喚したのはこの私さ!育つまで時間かかったが片方はもう使えそうだ……って思ってたんだけどね!ひょっこり逸材のオマエが来たもんだからラッキーだったよ!』



「この羽虫が!オマエが私達を此処に連れて来たのかぁ!!オマエのせいで!オマエのせいでぇぇ!!」



 カナミは一瞬で間合いを詰めて、ダークフェアリーを斬り払った………かの様に見えた……



『馬鹿が!たかだかレベル99になっただけの人間如きが、私に叶うわけがないだろう?』



 そう言うダークフェアリーは、斬り払われたままの小さな身体で話している。



「この化け物め!燃やして消し炭にしてやる!」



『フレイムバインド!!』



『フレイムスフィア!!』



「灰も残さず消え失せろ!フレイムスピアー!!」



『だから効かないって言ってんでしょうが!安心して!異世界から持ってきたアンタ達は、他のダンジョンでこの男と同じように有効活用するからさ!あーめんどくさ!……『コラプス・ポータル』……』



 ダークフェアリーが何か魔法を唱えた瞬間カナミとの間に、波立つポータルが浮かび魔法が吸い込まれて消える……


 そして、片手間でカナミの魔法を消したダークフェアリーは話を続ける。




『どっかの馬鹿が、手違いで召喚した『使える人柱』を帰さずに放置したもんだから、コッチはそれが手に入り今は機嫌が良いんだ!まぁ、それを知らない時は邪魔されたもんで殺してやろうと思ったけどさ、まさか『獄卒』を還す事ができる異世界人が居たとは思わなかったもんでね……まぁめっけもんだったよ!』



 ダークフェアリーは切れた身体を何事もなかった様に、片手で引き寄せてくっつけ始める……



「まじかよ……化け物め!これは総力戦しかないかもね!」



『チャンティコになる気かい?エクちゃん?くっくっく……無駄だって!化現させてもアンタのレベル低いじゃん!?最低限カナミちゃんのレベルにしてからチャンティー使わないと……ダメでしょ?まぁそれでもアタイには効かないけどね?』



 ダークフェアリーは余裕を見せ煽り始め、チャンティコの事をチャンティーなどと呼ぶ。


 エクシアも気が長い方ではないので『ならやってやんよ!』と喧嘩を買い始める。



『良いかい?アタイは此処のダンジョンコアに出来損ないの異世界人を埋めた事で、全く此処のダンジョンが育たなくって苛々してんだよ!さっさとそこの男と入れ替えて次の場所作らないとならないんだよ!』



 ダークフェアリーはそう言うと、黒い球体を指さす。


 どうやら黒い球体のそれがダンジョンコアの様だ。



 ダンジョンコアの前にいる男に、ダークフェアリーが指示をする。



『あそこで大声上げているこの世界の雑魚相手に、ミノタウロス出してやんな。暇だろうからそれ相手にさせている間に、アタイはオマエの代わりを準備すっからさ!』



 ダークフェアリーがそう言うと、ダンジョンコアから一筋の黒い光が出て、地面に当たると黒い魔法陣が描かれる。


 そしてミノタウロスが3個体その召喚陣から這い出てくる。



『何で3匹なんだよ!?相手は6人だろうが!ケチってないで6匹出せよ?まさか穢れが溜まってないとか言わないだろうね?』



 そう言ってダークフェアリーは『仕方ねぇな』と言いながら、ふよふよと飛びながらベンの側に行く……



『おぃ……ダークフェアリー……俺はこの時を待っていたんだよ!『アビス・ゲート』………』



 人形の様に静かだった男は、急に豹変してダークフェアリーにそう言った。



『き……貴様!さては今までわざとゴブリンだけ召喚してたな!!穢れを……溜めてたのか!!覚えてろよすぐに戻ってくるからな!『深淵』程度4刻もあれば戻ってこれる!いいかオマエはすぐ様廃棄処分だ!!くそ!折角カモがダンジョンコアまで来たってのに!!クソッタレガァァァァ!!』



 謎の男とダークフェアリーが急に仲違いを始めて、ダークフェアリーとミノタウロス達は『アビス・ゲート』と呼ばれた漆黒の門に吸い決まれる。



 ダークフェアリーは酷く暴れたが、吸い込まれる力には敵わないのか、最後は憎悪を吐き出して門の奥へとのまれた……



「何が起きたんだい?一体………」



「もう余り時間がない!現地民は悪いが黙っててくれ!」



 エクシアが質問しようとするが、謎の男はエクシアの言動を静止する。



「おい!ヒロと言ったな?俺は『長谷川 尚之』だ……オマエと自己紹介したいのも山々だが、もう俺には時間がない……既に身体が変質して、この通り崩れる一歩手前だ!…………」



 この長谷川と言った彼は、僕と同じ高校生だった。


 彼は『一方的に話す事を許してくれ』と前置きをして話し始めた。



 彼はカナミと同じくこの異世界に呼ばれた……そして異世界を150年も彷徨い、自身のレベルを上げて帰る方法を探したそうだ。


 そして、このダンジョンでダークフェアリーと出会い、120年彷徨った月日の恨みを晴らそうとしたが、敵わず捕まったらしい。



 それからは、このダンジョンの深淵で300年も過ごしたそうだ……ダンジョンコアの一部として……


 彼が言うには、ダンジョンコアは通常『魔物』をコアに埋め込んで使用するが、魔物は馬鹿なので欲望のままにダンジョンを食い潰すそうだ。


 そこで、この世界の人間を試しで使ったが、人間だと言うことは聞かせられても精神混濁があり長持ちしないそうだ。



 その時偶然見かけた『流れの異世界人』を使ったら飛躍的に良くなった。それに味をしめたダークフェアリーは異世界からダンジョンコアの運用の為に、若い人間を攫って来ているそうだ。


 長谷川という彼は、嘗てそうやって連れてこられた異世界人の1人だった。



 通常、召喚された異世界人には召喚主の『マーキング』があるらしいが、その見分け方は召喚主しかわからないかもしれない……と、言っていた。


 少なくとも彼は知らないそうだ。




 彼は今までこのダンジョンで集めた穢れを、別場所へ蓄えてダンジョン深化を遅らせていた。


 そして、更にごまかす為ゴブリンを多めに配置したそうだ……それもギムドロルがいる9階層に。



 しかしそのお陰もあって、このダンジョンは『10階層』しかない……歴史が長いにも関わらずだ。


 そして溜まった穢れを利用して『アビスゲート』をコッソリ作っていたそうだ……今日という日に為に。



 しかし彼は穢れを長い間使い、身体をダンジョンコアにのまれたせいで、最近になって魂のと肉体の崩壊が始まったらしいのだ。


 ダークフェアリーもその事を理解してて後釜を探していたので、ダークフェアリーが行動に出た時に隙を見計らって次の人柱を助けようとした様だ。



「僕はもう助からない……魔物になどなりたく無いんだ……だからお願いだ!僕を自由にして欲しい……いいかこれを見てくれ……」



 彼はそう言って小さい黒い球を出す。

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