第427話「オーク砦で瓦礫の除去したら死にそうになった」


「グロロロ……グォッ!グオ!!ニンゲンドモメ!!ヤツラヲヤツザキニシロォォォ!!ヒトリノコラズヒキサイテ!キョウノメシダ!!グロロロ!!!!」



 屋敷の屋根に登っている、一際大きな大きな個体がそう叫んだ………



「グロロロ!!ウォ!ウォ!!ケチラセ!ニンゲンドモ!」



「オンナノアタマヲ、イキタママクッテヤル!!グロロロ!!」



「ウォーーーー!オゥ!オゥ!ウォーーー!オゥ!オゥ!」



 屋敷の中からもゾロゾロとオーク・ウォリアーが出てくる。



「騎士隊!構え盾!!」



 騎士団に突っ込んでくるオークの一団は、魔物の癖に連携して襲ってくる……



 最初に走って来るオークウォリアーは剣を盾に打ち付けると、すぐに剣を手放して相手の盾にしがみつく。



 そして後について走って来たオーク・ウォリアーの足場になると、後ろの個体はその背中を駆け上がる。



 そして背中がガラ空きの騎士団に構わずに、何故か剣士隊を襲い始めた………



 それを見たエクシアは叫んで指示を出す。



「くそ!戦闘慣れしてやがる!アイツら騎士団無視して攻撃部隊を殲滅する気だよ!ハラグロ!さっさと指示を出しな!」



 エクシアがそう言うと、ハラグロ男爵も理解していた様で、弩隊の一部に抜刀を指示して戦闘へ参加させる。



「全員、オークの個体を駆除するよ!良いかい乱戦だ、死ぬんじゃないよ?シャイン!防御UPの加護を全員に!射撃出来る奴は全員屋根の奴等を迎撃!薬師は部隊最後尾で薬の準備!ひろあのデカイのを下に落とせないか?」



「今からやってみます!残りのゴーレムを投入させて屋敷の破壊をしてみます!」



「あそこじゃ手が出せないからね……おろせばいい、頼んだよ!アイツさえ倒せばオークの殆どは散って逃げる!コイツらに連帯感は無いからね!」



 僕はマジックグローブから、残りの5体のゴーレムを取り出し戦場に投入する。



「ゴーレム達全個体は、あの屋敷を破壊せよ!」



 ゴーレム達の歩みは石製なので遅いが、弓などは全く効かない。


 屋根のオークは一生懸命ゴーレムに矢を撃ち込むが、岩を破壊できる様なダメージなどは矢には無い。



『ドゴン!バガン!……ガラガラ……ドガン……』



 1体目のゴーレムが屋敷へ到達して、両手で砦化した貴族邸を破壊する。


 元々廃屋だった為に割と脆いらしく、ゴーレムの一撃でかなりの破壊が出来た。



 僕は遠くから矢を射掛けるオーク対策に召喚魔法を唱える。


 足が早く、攻撃時に『周りの邪魔』にならない魔物でないとならない。



『クワンダ・エストルァテス・ラ・ファントム……ウィスプ』



 呪文を唱えると、1回目の召喚で9体のウォーター・ウィスプが召喚される。



「ウォーター・ウィスプ……奥の弓持ちオーク達に攻撃!」



 僕の指示で目の前にいたウィスプ達は『フッ!!』と消えると、オークウォリアーの弓兵から絶叫が聞こえる。


 青白い炎が身体から上がっているオークウォリアーの弓兵が、弓を投げ捨てて逃げ惑っている……あれが『霊障』効果だろうか?



 届く範囲の魔物に簡易鑑定をすると、ステータスには『恐怖』『パニック』『霊障伝染』と出ていた……



 伝染効果なのか、周りのオークウォリアーの個体にも『恐怖とパニック』がどんどん広がっている。



 逃げ惑った結果、ウォーター・ウィスプの水魔法で死ぬ個体や、戦場から離脱して逃げていくオーク兵も居た。



 屋根の上の個体を狙おうと、2回目の召喚を唱えようとした時………



 視認できる『ある物』が僕目掛けて飛んで来ていた……奥の弓持ちに意識を取られすぎた……エクシアが『乱戦だ』と忠告していてくれたにも拘らずだ!



 あの屋根にいた巨大なオークの個体は、地上に降りずに僕目掛けて『ランスを投擲』して来たのだ……



 高い位置から視認して投げるには、その位置が最適だったのだろう……そう考えるとかなり『知恵が回る』個体だ。



 僕は、それは決して『投げる物じゃない!』と思わず叫んだが、戦場の騒音は僕の叫びを掻き消していた……



 かわすにも判断が遅れて、投擲されたランスを視認した時には、召喚準備で身体が硬直していた。


 その硬直は一瞬だが『あのランスは避けられない』と直感する。



 しかし、オーク個体を注視していたイーザが、その行動にいち早く気がついた……


 彼女が僕に飛びついた事で、僕は間一髪攻撃を交わすことが出来た。



『ドガン!!ガラガラガラガラ………』



 僕が居た場所の背後にランスが突き刺さる……



「「イーザ!!」」



 突然のイーザの行動で、ミオとメイフィが声を上げる。



「あ……危なかったです……ヒロさんに『このままだと直撃する!!』って何となく思って……自然と体が……」



「あ!ありがとう……あれはヤバかった……直撃する!って僕もわかった!」



 僕がイーザにお礼を言うと、その状況をみたエクシアが駆け寄ってくる。



「大丈夫か!ヒロ?怪我は?こんなデカイランスを投擲だと?あの距離から?………ヤベェ魔物だな?生きてて何よりだ!」



 僕は命が脅かされた事に苛つきを覚えて、心の中で『あの建物をさっさと破壊してやる』と思うと、ゴーレムの攻撃がそれに呼応する様に激しくなる。



 ゴーレム達は近くにあった建物の太い木材を武器に、建物を破壊し始める……



 屋根に居たオーク弓兵の多くは、その木材の振り下ろしで屋根から地面に叩きつけられる。



 しかし、あの巨体のオークウォリアーは器用に屋根を駆け降りた後の様だ……ダメージと落下でステータスに『瀕死』のオークが多い中、その個体はダメージをほぼ受けていない。



「グロロロ!!ガオゥ!オゥ!グロロロォウ!オゥ!」



 巨躯のオーク・ウォリアーが叫ぶと、廃墟の壁を破壊しながら何かが突っ込んでくる……



 そしてその何かに、ハラグロ『騎士団』の多くが吹き飛ばされてしまう……



「シャイン!エリア回復魔法だ!今すぐだ!急げ、騎士達が死んじまう!HP優先で怪我回復は後でいい!」



「はい!わかりました!『光の守護と、聖樹の慈しみにて癒やしを!!エリアヒール!』」



 エクシアの指示でシャインは慌ててエリア効果の回復魔法を唱える……薄緑色の光が辺り一面に浮かび傷が癒やされていく……僕が負ったのはイーザに助けられた時にできた傷で周辺の瓦礫でバッサリ切ってしまった腕の傷だ。



 『再生』効果で傷はどんどん回復していたが、ダメージを受けたHPの回復は『傷修復』の後にされるらしい。



 ちなみに今は、シャインの回復魔法で同時にHPも回復している。



 その指示の間に僕は『巨大』生物の正体を『鑑定』で確認する。



 『グレート・ストーンボア』……岩猪と呼ばれ、頭部に岩が張り付いたイノシシだった。



 その大きな巨躯からして『グレート』なのだろう……



 騎士団を弾き飛ばした後、その周辺で地面を掘り起こす様な行動をしている……


 追撃をしない所を見ると、オツムは悪そうだ。



「グロロロ!!ガオゥ!オゥ!グロロロォウ!オゥ!」



 そう思った僕だったが、当然巨躯のオークウォリアーは叫びを上げて指示を出す。


 グレート・ストーンボアは身を翻して声の方へ走っていく……



 巨躯のオークウォリアーがグレート・ストーンボアに近付きその背中に飛び乗る……


 乗る為に寄った事で『鑑定範囲』に入ったので巨躯個体を即座に鑑定をする。



 『ブラックオーク・チャンピオン・グレート・ストーンボアライダー』………



 グレート・ストーンボアに騎乗したので、名前も変わったと把握するべきだろうが……そもそもオーク・ウォリアーではない!


 『ブラック・オーク』と呼ばれる別個体だ。


 グレート・ストーンボアは上にオークが乗る事で、この場にいる目的がハッキリしたのか……先程とあから様に様子が違う……


 前足の蹄で地面をガシガシと蹴る素振りを見せる……猪突猛進するのは一目瞭然だが、上のブラックオークは近くの死んだ個体が持っていた両刃斧を手に振り回していた。

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