第410話「強襲!アーマー・センティピード」


「ギシャァァァァァ!!シュゥーシュゥー!ギシャァァァァァ!!」



 大顎をギチギチと鳴らしながら威嚇をするが、HPゲージはもう僅かで『瀕死』と出ている。


 水魔法ダメージの他に爆散による衝撃ダメージも受ける分効果絶大だ。



 僕は残り2本を片方を投擲して空いた手で、フェムトのショートソードをクロークから抜く。


 襲ってくるかと思ったが、2本目の水のジャベリンもまともに食らうアーマー・センティピード……


「見事で御座います!!これが鉱山の魔獣を倒した技なのですね!」


 その破壊力を見てレグザーが声を上げると、馬車の中からも顔を出して様子を伺う。



「凄いです!!水魔法にここまで威力が!ザベル様が執着するのも分かります………」



「アンミン……良いか?あのヒロ殿はあの鉱山の魔物を、単身で瀕死状態まで追い込んだ強者だ!!それも冒険者を救った上で振り向き様にだぞ!よく見とくが良い!国王陛下の窮地を救うほどの方なのだ!」


 そう言ったのはストレイ伯爵だ。


 僕はよくアーマー・センティピードを見たら一撃目で既に触覚を破壊され周りが分からなくなっていた。



 ムカデ種は目が無い個体も居るらしく、偶然このムカデもその種類の魔物だったのが功をなした。



「いやー運が良かっただけですね!一発目に触覚を破壊できて、この種類は『目』が無いみたいです。そのせいで二発目を感知できなかったのでしょう……鎧部分はかなりの硬度なので素材には良いかもですね!」



 僕がそう言うとレグザーは、



「このアーマー・センティピードをこうも簡単に倒すなど……運がいいとかの問題では無いですよ。噛みつきは毒があり、巻き付きは人間の骨など簡単に砕きます。それを近づけずにそれも素材は頭以外はほぼ無傷……我々騎士団が戦う場合は、動けなくなるまで足を切り落とし、鎧の継ぎ目に剣を入れて切り離し細切れにするんですから!」



 僕はほっと一息ついた後、ムカデをマジックグローブに収納する。



「な!?遺骸は何処に!?あ!例のマジックバッグ系の特殊アイテムですな!凄いですな……あの巨大な遺骸をそのまま丸ごと……それにしても父はなんて馬鹿なことを……此処まで来ると悔やむに悔やみきれません……良い関係を築けたかもしれ無いのに!!」



 イスクーバは更にびっくりした様だ。



「まぁ何にせよ、関係は良好になりそうですし……それに、後悔先に立たずって言いますからね!」



 僕達はまた馬車に乗ってジェムズマインの街を目指す………


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おお!?どうしたのだ?これまた珍しい面々だな……」



 石大工の作業場まで着いた僕たちは、見事にザムド伯爵に落ち合えた。


 今までの流れをグラハムが説明をして、ストレイ伯爵がザムド伯爵に改めて謝罪をする。



「仕方あるまい……ストレイ伯爵の所為ではないしな。引き取った子供たちの前でそう謝り続ける物ではない。それにその様子であればどうせヒロが関わっていて……予想より斜め上の方向に解決策を持ってきたのであろう?」



「はっはっは!おおこりゃ失礼……ザムド伯爵もご存知でしたか!私とすれば、まさか失った屋敷に、娘家族達の居住を許可する采配など……想像さえして無かったですぞ?そうなれば、執務を熟す新しいお屋敷を此方が用意するのが筋という物!」



 ザムド伯爵とストレイ伯爵は大笑いしながら、自分達の身に起きたことを話して笑い合っていた。


 僕はその間時間が無駄にならない様に、石大工にストーンゴーレムの素体のデザインを伝える。



「ザムド伯爵様、知り合いに鍛冶職人は居ますか?」



「はっはっは!………おお……すまん!で?鍛冶職人とな?今度は何を考えておるのだ?」



 ザムド伯爵が、ストレイ伯爵やウィンディア伯爵と歓談をしていた所に僕が話したので、当初の目的を思い出した様だ。


 しかし僕のデザインは、石大工に渡してしまい既にないので『しまった!』と言う顔をしたが、僕はいつまで経っても終わらないと困るので、ゴーレムに持たせる用の籠手のイラストを描いて説明する。


 形は腕を守る部位の外側に戦斧を付けて、籠手の先をシャベルの先端の様な形にする……本当ならショベルカーのアームの先の様にしたかったが、そうれならそもそもショベルカーのゴーレムを作った方が早い。


 足なんか正直飾りだ、偉い人には解らない。それに車輪の方が速く進める!と言いたいが、イレギュラー過ぎると多様性に欠けるので、今回は諦めて今は伯爵達へ籠手の説明をした方がよさそうだ。



「こうすれば木材も敵も切れますし、先のシャベルで地面を掘り起こし『畑の基礎』だって作れます。ゴーレムに命令出来る僕だから出来ることをやろうかと……」



「万が一戦いになれば相手の攻撃を盾がわりに受けられますし!鉱山に配置しても良いですしね?また宝石食いに来たら戦斧を御馳走できますよ?」


 そう言ってファイティングポーズを取ると、盾で身体を守るポーズになって意味が伝わる。



「ほう?籠手かそれは面白いな!こっちもそれを採用しよう!」


 ザムド伯爵は新しいオモチャを見つけたので、すぐに鍛冶職人の工房に行きたくなって、石大工と契約締結をする。


「石大工よ仲間を集めて即生産を開始せよ!これはジェムズマインの領主命令だ!王都のスタンピードの様な時に我々も対処せねばならん!それにこれがあれば鉱山にまた魔物が現れた場合は防衛も可能だ!」



 そう言ったザムド伯爵は僕達を伴って、お抱え鍛冶職人の工房に向かう。


 非常に大きな工房で、大小様々な部屋がある……ザムド伯爵はその工房を抜けて奥の建物に向かうと、見るからに『頑固親父』に見える職人に挨拶をする……



「……ほう……そんなデカイものをですかい?散々無理と思える物を作ってきた我々ですが……今回ばかりは冷や汗もんですな!それも同じ物を20個ですか?流石にそこまで鉄鉱石は手に入りやすかね?………」



「鉄鉱石ならば、山程鉱山に蓄えがある安心せよ。鉄鉱石以外に作製するのに足りない物はあるか?」



「俺達は、満足な鉄鉱石と家族を養う仕事と、満足な飯があれば満足ですぜ!ガハハハハハハ!!!」



「ならば制作期間中は僕がビラッツさんにご飯を頼みましょうか?言えば多分嫌とは言わないはずだし……」



 僕が踊るホーンラビット亭の名前を出した瞬間、親方とその場に居た職員の表情が一変する。



「ビ……ビラッツって……あの踊るホーンラビット亭の事か!?マジか!あそこの『弁当の契約』はかなり先まで無理なんだぞ?もしお願い出来るなら是非頼みたい!!」



 そう言われた僕は、ホーンラビット亭まで聴きに行くことにした……ビラッツには迷惑を掛けてしまうが、この街の防衛手段と僕の新拠点の為だ……いずれはこの街の周辺全ての役に立つ……



 話に行くと、ビラッツだけで無く総理長長までが『現場で食の好みを聞きたいから是非そこに行きたい』と言い出して……『ちょっと店を空けますよ!』と言って、鍛冶職人の工房まで戻ることになった。



「おい!茶を入れろ茶だ!………ビラッツさんに総料理長!?な……何で此処に?むさ苦しいし、暑苦しいでしょう?今飲み物出しますから……暑いですが……」


 僕は出されたお茶を『アイス』の魔法で急速冷却する。



「な!?キンキンに冷えてやがる!?アンタ一体!!」



「この方がヒロ男爵様と申されて、我々の踊るホーンラビット亭の裏の支配者でございます!このビラッツこのヒロ様のレシピで今の人気までこぎつけたので御座います!」



 僕は苦笑いして、話を進める様にジェスチャーをした……

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