第400話「プラチナギルドが誕生した日」


 そんな心配を他所に、ザムド伯爵は『貴族任務終了』報告をギルドに伝える。



「ギルド、ファイアフォックスのエクシア!本当に助かった。この采配が無ければカノープス様は勿論、王都の防衛も出来なかったであろう……そうなればこの王国は混乱期になり、国力は益々低下した筈だ。」


 ザムド伯爵はそう言って一枚の羊皮紙をエクシアに渡す。



 「貴女のギルドはこの貴族任務の終了を持って、この世界初の『S+級ギルド』にギルド連盟から任命された!銀級ギルドから『S+級』への飛び級など過去に事例は無いが、『王族への貢献』『鉱山において脅威を退けた実績』『王都の防衛』を進んで行なった勇気、全てに於いてギルド連盟は『異論なし!』の裁量だったとの事だ!」



 ザムド伯爵の言葉が、耳に入って無いのかエクシアは『ポカーン』とした顔をしている。



「その上で『2人目の精霊使い』である事、そしてその力は暴走せず誰も傷付けずに、悪しき者のみに振るって来た事!そこが大きな理由ではある。その精霊の力で人間を救う仕事を選んだ事を、父上は誇りに思っている事だろう!」




「ちょっと待っておくれ……S級の上って……プラチナギルドって事だよね?アタシのギルドがかい?」



「ああ!そうだ!!そうだとも!ギルド連盟からは『拠点本部』の申し出をジェムズマインのギルド本部へする様に、との通知があった。ギルド連盟と王国から特別費が算出され、君達の『新ギルド』の土地の買付及び建築を始める。早急にかからねばじきに冬になる。良いか?『早急に』だ!」



「やったーーーーーーー!!」



 エクシアは大喜びして、話も終わっていないのに勝手にドアから出て行ってしまった……




「お前ら!!アタイ達のギルドが!!ファイアフォックスが『S+ランク』!!プラチナランクの冒険者ギルドになったよ!!今日はお前ら全員に酒奢ってやる!!『飲んで騒げ!!!』ヒャッハーーー!!」



「アイツ………やりやがった………」



 ギルドマスターが背後から忍び寄り、エクシアの頭を鷲掴みにする。



「今のは聞かなかった事にしろ!この馬鹿の発言よりザムド伯爵様よりの通達が先だ!酒盛りのバカ騒ぎはそれからだ!!この大バカギルマス教育をちゃんとやれ!ファイアフォックスのサブマスター、ザッハ!!」



「「「「「ぎゃはははははははは!!!」」」」」」



 完全にエクシアのとばっちりで怒られたサブマスターのザッハだったが、ザッハも我慢が出来ないらしく勝手に酒盛りを始める様だ……



『いいか!お前ら!酒は奢るがどんちゃん騒ぎは明日以降だ!皆飲んでくれ!!』



『『『『『『うぉぉぉぉぉ!!!!』』』』』』



 こうしてザッハは小声で皆に伝える……こそこそとした宴会と言う矛盾した物が始まった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 現在は絶賛正座中のエクシアだったが、顔がニタついているので足が痺れているのだろうか……



 話は終わったものの、ギルドマスターのエクシアへのお小言を聞くのに耐えなかったので、僕は『銅級講習』の終了報告を言い訳に執務室から出る事に成功した。


 ひとまずは、銅級講習を終えた証をもらい、アーチの宿泊先を同じ宿に取らないといけない……部屋に空きがあると良いのだが……


 ちなみにアーチは、僕のパーティーと言う流れに無理くり持っていったので『貴族特権』の対象になり宿泊費は免除される。


 彼女は孤児院で院長を助けていたので、持ち合わせが少ないだろうと思って、ザムド伯爵へお願いしたら、難なく通ってしまった。


「そもそもヤクタの屋敷に泊めれば良いのでは?」


 と言われたが、今から移動も面倒だったので貴族特権を使わせて貰った。


 まぁ最悪僕がお金を払えば済むのだが……正直お金の貸し借りを彼女は嫌がると思ったので気を使った結果こうなった訳だ。



「ヒロー!やっと解放か?お帰り!!」



「何かまたやらかした様ですね?ソウマさんは『絶対に何かやる』って、ずっと言ってましたよ?」



 そう言って来たのは、ソウマとユイナだった。



「まぁ色々あり過ぎたよ!他のメンバーのカナミちゃんとミカちゃんは?」



「今薬草屋へ買い物に行ったわ。私達はさっき入れ違いで帰って来たのよ?ヒロが上に行った時に私達が帰ってきて、ひろが降りてくるちょっと前に買いに行ったわ」



「そうなんだ?取り敢えず紹介しておかないと……ちなみに……声出し禁止ね!『同郷の東京出身』のアーチです。『詳しい』自己紹介はまた後でになるけど!」



「「はーーー!?」」



 ちょっとまって!と言いたかった……



 『声出し禁止ね』って言ったのに、第一声が『はーー!?』だった。



「初めまして……アーチです!同じ東京『村』出身の高校生です……よろしくお願いします!えっと……かれこれ1年彷徨ってます……皆さんは同じ時期なのですか?」



「私は……『ユイナ』よ!よろしくね!『看護師』やってました。詳しくはまた後でね?私達は同じ時期に一緒に飛ばされたわ」



「お……俺は『ソウマ』と言います。よろしく……何かヒロのやる事が出鱈目すぎて……えっと……『消防士』やってました……まぁユイナが説明してくれた通りだね……一年か大変だったね!」



 ソウマとユイナにあって涙腺が緩んだのか、アーチは涙ぐんでいた。



「ヤッバ!何でだろう!グス……何か急に知り合い増えて涙出てきた!グスッ……よろしくお願いします!」



「仕方ないよ!アーチちゃん一人で1年でしょう?多分10年選手のカナミちゃんと意見合うと思うよ!」



 そう言ったユイナは『ハッ!!』として驚いた顔をする。



「つい緩んだわ!この話はまた後でね!アーチちゃん!」



 『10年選手のカナミ』と言われてアーチは……異世界に10年!?上には上がいるんだなぁ………と思っていた。



 僕は宿の説明を二人にして、例の宿泊施設までソウマがアーチを連れて行く……ミカとカナミへ待ち合わせ場所変更の説明には、ユイナが行ってくれた。



 まだ僕は『銅級任務完了』の証明付き冒険者証を受け取れていないので、若干待ちになるからだ……この間に『宿』が無くなるのだけは困るので先行してソウマにお願いをした。


 そう言っても宿まではユイナも一緒だから、実質は3人なのだが……



「じゃあ、宿の主人に聞いてくるね!受け取ったら宿に集合で!」



 元気ハツラツなアーチは、既にユイナとソウマに馴染んだ様で仲良く宿屋に向かって行った。


 程なくして受付担当のミオさんが冒険者証を持ってきた。



「ヒロさん……あの子ってヒロさんの妹さんでは無いですか?……その何と言うか……ご飯食べ終わったら『マリンちゃんと遊んでくるね?』って言った途端、目の前で『パ!』と消えて足元に黒い穴が……そして中から『お兄ちゃんのところに行くねー』って声がしたんです……でも誰も信じてくれなくて……」



「ああ……えっと……実は生まれ付き高位呪文使えるんですよ。それは内緒にしてもらえると……まだ幼いので危ないですし(周りが)何かあったら(その人に)」



 ミオさんの言葉に対して嘘をつく事になって若干心が痛むが……世の中知らない方がいいこともある……特に彼女の事は……



「ああ!確かにそうですよね!でもやっぱりザムド伯爵のお子さんじゃ無いんですね!てっきり王都に住まわせてたお子様かと……怒らせてしまってたら謝らねばと思ったんです……」



「ああ!大丈夫ですよ?今色々問題が山積みなんですよ、魔物を秘密裏に運び込む集団がいるので……他にも王都のスタンピードもありますし……でも伯爵の言葉についてはミオさんが気にすることでは無いですから!」



 一応気にしていた様なので、気にしなくて大丈夫だと知らせておく……実のところは単純にザムド伯爵は悪魔っ子が怖いだけなのだ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る