第397話「深刻な問題」


 彼等の馬車は、ジャイアントマンティスの攻撃で酷く破壊されて居たので『大型荷馬車』をマジックグローブから取り出すと顎が外れるくらい大きな口を開けてびっくりして居た。



「いやグローブも大型荷馬車も自前の物じゃないですから……」



 僕は説明を端折ったが彼等はすごく感謝して居た。


 何故ならば馬車が使えない以上、荷物は捨てていくしかないからだ。



「そう言えば先程、森に中にジャイアント・マンティスを閉じ込める『檻』があったと言いましたが……荷馬車は通れませんよね?どうやって運び入れて、その周辺の樹木はどうしたんでしょうかね?その良いマジックアイテムは割と入手は可能なのですか?」



 僕達はその言葉で『確かに!』と思った……馬車を引いて行った形跡はない……なのに大型の檻はあった……となれば僕のグローブのようなマジックアイテムを持っている可能性がある……



 しかし大きな問題は、僕の管理中のマジックグローブよりも『上位のアイテム』と言う事だ。



 何故ならば『生きたままの魔物』を収納できるからだ……


 僕はその仮説をザムド伯爵の告げると『問題ばかりだな!これでは大量の魔物を、何処にでも運び込めてしまうではないか!』と頭を抱えて居た。



 それがあったので僕は報告したのだが、全て言わずに理解してくれたので助かった。



「ここで時間の浪費も出来なくなった……皆の者、急いでジェムズマインの街まで戻るぞ!」



 ザムド伯爵の号令で一団は先へ向かう……3商団も仕切り直しという事で一度街まで戻るようで、かなりの人数の集まりになった。



 流石にそこから街は近かったので、大きな戦闘もなく数匹のゴブリンやらウルフが出て来るだけだった。



 ジェムズマインの街に到着したのは、翌日の昼過ぎの事であった………



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ヒロ男爵様!本当に有り難うございました!まさか男爵様とは知らず……ご無礼の程お許し下さい」



 一般門と貴族門に分かれるので、並んでいると衛兵に『ヒロ男爵様お帰りなさいませ!』と言われた時に、冒険者と思って居た3商団に即謝られた……まぁ冒険者の格好だし、魔物に乗っているし……でそう思わない方がおかしい。



 問題は行きに居なかった巨大な魔物が、今は自分の従魔であるという事だ。



 入場には問題はなかった……門が小さかったが壁を越えたので……しかしそれを見た街民は大パニックだった。


「何で衛兵は鐘を鳴らさない!魔物が壁を乗り越えて!…………え?従魔?え………ええ??」



「子供を!早く避難させなきゃ!カイト!カイトーーー!…………え?大丈夫?従魔?アレが?……嘘よ!絶対にあんなの……蟻よ?壁を越えれるのよ?本当なの?」



「ワシは!ワシは美味くないぞ!もう生い先短いのじゃ!食うならこの使えん息子の嫁を食え!…………文句ばかり言う嫁でグーたらしているから肉だけは豊富……え?従魔?……アレほどの魔獣をテイムするとはすごい冒険者もおるな!……おお……ワシの横には嫁のような魔獣が見えるぞ………くわばらくわばら……」



 こんな事が各所で繰り広げられたが、その背中に載っている女の子の方が『重要危険生物』である事は伏せておこう……卒倒じゃ済まないかもしれない……



「ひとまず申し訳ないが、皆の者にはこのまま冒険者ギルドまで直行をして貰うぞ?ヒロ男爵は要件が済み次第、明日中にはヤクタの治めていた領地に向かうようにな?騎士団長レグザーよ、お前は後ほど予定を決めた後、同行し領まで案内をして来るように!テイラー男爵もウィンの引き継ぎがある、忘れなきようにな!」


 入場の確認に時間が掛かるので、僕達はザムド伯爵の説明を聞いて今後の予定を決める。



 僕の予定は………


 このままギルドへ向かい要件を満たす、これは既にザムド伯爵に言われているので断れない上に、それ自体が銀級冒険者に上がるための足掛かりなので、僕自身がギルドに用事がある事になる。


 次は冒険者ギルドで初心者講習終了確認をして来る……そうしなければ駆け出しに戻される案件だ。


 そしてヤクタ男爵領に行き、担当者不在だが引き継ぎを含めて所領の拠点を確認する。


 ちなみに、そこでコッソリとマジックグローブの中身を整理して『マスターキーワード』を再設定しておかねばならない。


 理由は魔導士学院へマジックグローブを返さねばならないからだ……だから関係者に出会ったら、今は自分の荷物が入っているので……ヤクタ領で取り出して来る……と誤魔化しておく必要がある。


 それが終わってやっと、冒険者ギルドで『銀級冒険者』への昇格説明を聞く事になる。


 問題は何時自分が所領の領主であるとそこの人達へ話すかだ……そもそも貴族に今まで関わりは無いし、友人にそれをした現代人など居ないだから、やり方が分からない……ザムド伯爵達に聞いてから領民へそれらの報告になるだろう。


「とりあえず伯爵達と向かった後に、講習会終了認定受けないとならないので……」


 僕がそう言うと『基本は貴族じゃ無く根っからの冒険者なんだな?』とテイラーに茶化された。


「ザムド伯爵様、ウィンディア伯爵様そしてテイラー男爵様、ヒロ男爵様検査が終わりました。お待たせして申し訳ございません……異常などあろう筈もないですね。国王陛下のご息女を治療しに向かいスタンピードを治めた英雄様方が、馬鹿な部下が申し訳ありません。商団の者達も問題はございません……お通り下さいませ!」



 今回マッコリーニ達が『貴族門』から入場したのは『貴族依頼』の都合もあったからだ。



 そしてジャイアント・マンティスに襲われた商団も、衛兵に事情を話して貴族門から入れさせている。


 噂話であろうと『檻』が見つかった以上、もう噂では無い。



 この事情をギルドに本人達から語らせる事で、事の重大性を理解して貰う為もある。


 一行は何よりも優先してギルドへ向かう……


「誰か執務室の用意を!至急報告がある故、直ちに役職者に集まる様に申し伝えろ!」



 ギルドに入って直ぐザムド伯爵が受付嬢に声をかける。



 背後には大人数を引き連れていたので、既に『大問題』と理解したようで、『直ちに呼んで参ります』と言って飛んでいく。


 しかし、その一角で頭お花畑の2人がいた……ミオとメイフィだ。



「ミオさん!ヒロさん帰ってきました!無事です……王都のスタンピードにも大活躍だったらしいですよ!」


「メイフィ……ちょっと……行って来るわ!!」


 メイフィはソワソワしていたミオの姿に我慢が出来なくなり『つい余計な事を言ってしまった……』と思ったが、案外素直に飛んで行った事で『ニヤニヤ』が止まらなくなり、自分も追走して行く……こっそり遠巻きから観察するためだ。



「ヒロさん!お帰りなさい!無事で何よりです……王都でスタンピードの報告が来た時点で……もう……とても心配したんです!」



 僕の横には『悪魔っ子』がいたのだが、目に入らなかった様で話始めようとすると……『お兄ちゃん……お腹すいた………』と悪魔っ子がご飯をせがんで来たのでミオは『クワッ!!』っと目を見開く……



「!!お………お兄ちゃん?………妹さんですか!?おねぇさんは『ミオ』って言います。ご飯さっき買ったから食べる?」



「ゴハンーーーー!!食べるーー!」



『わっぷ!!』



 勢い良くミオに抱きつく『悪魔っ子』を何とか受け止めるミオ……



「ミオ!丁度よかった!今から大切な話があるんだ!その子の面倒を頼めるか?」



「はい!分かりましたザムド伯爵様!!」



 ミオはザムド伯爵の言葉で盛大に勘違いした……



 『小さい女の子』は伯爵の連れ子で『王都から』連れてきた……そして懐いていたのが冒険者のヒロで、旅の間にお兄ちゃんと呼んでいたのを『自分が勘違い』をした……そのせいで伯爵は『遠回しに』伝えて来た……


 そう勘違いしたミオは直ちに襟を正して『受付嬢ミオ』に切り替わるが、メイフィは大爆笑していた。

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