第350話「欲望に染まったヤクタの末路」
『閑話 ヤクタ一最後の日 末路』
爵位を貰えなかったと言った時点で、この国の爵位を天秤にかける知能が既に有ると知らせてしまったのだ。
そして責任の全てを父に持って行った事で、クゥーズの為人は露見してしまった。
イクスーバとは真逆な残忍な性格だと王は即座に見抜いてしまった。
王は厳しい目で見据えてこう言う。
「誰が発言して良いと言った!控えぬか馬鹿者!!」
その発言で、クゥーズは絶望する……自分と兄の立場はまるで違うと把握したからだ。
兄は何をして此処まで無事で居るか自分には想像もつかないが、自分が取るべき行動が『ジェムズマインの牢』から逃げた後、父のところに向かうので無く、祖父の家に行けばまだ可能性があったと間違えた発想に至る。
正解は『牢で全てを自供して償う』なのだが、悪い事をした自覚が極めて薄いクゥーズは、紛れも無くヤクタ側の人間だった。
それ程までに、この二人は似た者親子だった。
「お主達に知らせることがある、お前達が持って行った黒箱は、囮の偽箱だ!中身は『馬のフン』だそうだぞ!ザムドがそう申しておったわ!それにな、シリウスは既に回復して以前の生活をしておるわ!シリウス!此処に来なさい!」
そうがそう言うと、奥からシリウスが現れる。
彼女はニッコリ笑うと、それを見たヤクタはあまりのショックにヘタリ込む。
黒箱を得るために腕を失い、帝国に行く間に財産の何もかも無くしたのに中身は『馬のフン』と知らされた。
そして王国に連れ戻されて、爵位と領地を没収され、妻とは既に離縁させられた事を知った……俗に言う三行半だ。
「どうした?ヤクタ……まだ話の途中であったでは無いか?良いぞ?申すが良い!だが、ルムーネ家は妻を切り捨てたお前事を許すわけは無いぞ?既に『把握済み』だ」
それは当然だ妻も人間だ『食事』さえも困る状況なのだ……何もかも無くしたのは妻も同じだ。
屋敷の金目の物は全て売り払われ、目に付く部分のそこそこ高い調度品を売らなければ、本来はその日の食事さえ困る始末だ。
用意周到に隠していたヤクタだったが、遠征に出ると言い残し出た直後に突然何もかも無くなったら誰でも気がつく。
長期保存できる数週間分の備蓄と若干のお金は、管理していたマークラがこっそり隠していたので屋敷にはあったが、稼ぎ頭が居なくなり領内の税収以外ではどうにもならない。
それどころか無理な徴収と鉱山連合戦へ多くの領民を追いやったので、これ以上は流石に徴収もできなかった。
義父はそれを知った事で更に激怒したのは言うまでも無い。
「う………あ……イ……イクスーバ違うんだこれは……お前は切り捨てたのでは無い……ちゃんとマークラに伝えていたのだ!だが何かの手違いで……そう!マークラが裏切ってお前を捨てたのだ!だから……」
ヤクタに見当違いな発言に、再度苛立つイクスーバは王の顔を見る。
王は、申すが良いと言う手振りをするので、それを確認したのちイクスーバはヤクタへ冷たく言い放つ。
「マークラならば今は我の付き人をしております。ちゃんと母と祖父に許可を得て我の側近と致しました。」
その言葉にびっくりするヤクタ。
「そもそもマークラは、あなたの配下でも執事でもありませぬ!母のマッタリに付けられた執事です。貴方の指示は母と婚姻関係にあったが為であり、そうでなければ『仕えもし無い』と、そう申していました!」
そのセリフに憤慨するヤクタは『お前のことを思ってマークラを差し向けたのに、恩知らずが!』と言い始めるが、話を聞いていたのだろうか?……と王は呆れ果てるが何も言わずにおく。
「ハッキリ申します、貴方は母を捨てました。そしてクゥーズも同様に母を捨てました……クゥーズに問う!父の所に行く前に母に話をしなかったのは何故だ!祖父が何もしなければ今頃母は斬首だ!」
そう言うと『だから何だ?』と言う顔をするクゥーズ。
その顔を見た王は、
「イクスーバよ?これで答えが出たな?お前が怒るのも無理は無い。お前は母によく似て母は祖父にそっくりだ。お前の祖父は娘を助けてくれと懇願して、母はお前とクゥーズを助けてくれと懇願した」
「だが、残念な事にクゥーズは生かすに値しない人間だ……ヤクタの様に性根から腐っておる。しかし、この件の実行犯では無く、父に唆されついて行っただけである」
そう言った王様は、色々家臣に調べさせていたので、事の事情を細かく説明をする。
そして説明が終わったと、ジェムズマインの件の説明をする。
「ジェムズマインの魔導士学院及び詐欺騒動の主犯である一方、それだけではヤクタの様に『死罪』には値しない。」
王の言葉でヤクタは『何故死刑なんだ!結果的に秘薬を奪えて無いのだから、厳重注意が妥当じゃ無いか!』と王に噛み付く。
すると周りの騎士はヤクタの暴言に我慢ができなくなったのか、剣を抜こうとするが王に手で制される。
そして王は気にせずに話を続ける。
「だが詐欺の一件で此奴は多くの貴族に迷惑をかけた。ルムーネ家に迎えれば各貴族と魔導士学院への代理弁済と、この倅の責任を明確にする為に、祖父のルムーネ家には爵位剥奪の上領地没収になる。その様な上訴が間違いなく来るからな!」
そう王は言うと、溜息を吐く。
子供を持つ親とすれば、まだ幼い子を借金奴隷に落としてしまうのも、気持ちの良い物では無い。
「だが迎えなければ、このバカは犯罪奴隷は間違い無いのだ……鉱山行きだな、そしてそれは余にはどうすることもできん。自分で撒いた種だからな……」
王がそう言い切ると、今度はクゥーズが『一人頭たかだか金貨数十枚ずつで犯罪者扱いは横暴だ!厳重注意が妥当だ!』と喚き出す。
すると王は、『お主は脱獄の罪に殺人幇助もあるのだぞ?犯罪奴隷以外の何者でも無い』と極め付けを言う。
そう彼は捕まっていた場所から、逃げた事を何とも思っていない……周りの大人の指示に従った為に自分が悪い事をしたなど思っても居なかった。
そして王は、此処へ呼んだ理由を言う。
「ヤクタの王族への反逆罪は揺るがなく、倅の詐欺罪に脱獄罪、殺人幇助も揺るが無い。お前達はこの期に及んで開き直っているが、爵位も領地も既に無いのだ!あとは牢獄に繋がれて刑の執行日を待つだけでな!」
爵位などの件は帝国で既に聞いていたが、此処の場に呼ばれた真の事実を知らされた二人は口を開けて唖然とする。
その馬鹿面を見て、王は話を付け加える。
「これは最後の家族の会話の為であり、これまで王宮で一人過ごしたイクスーバの為に呼んだに過ぎぬ!そんな理由がなければ既に、ヤクタは市中引き回しの上斬首し魔の森へ遺棄、倅は犯罪奴隷の烙印を刻んだ後鉱山で強制労働に当てていた!
イクスーバも覚悟はしていたが、弟は運が良ければ助かると思わなかった訳ではない。
だが、事実を聞けば無理なのは一目瞭然だ。
詐欺と殺人幇助罪などの罪状がかけられれば、もはや一族の恥でしか無い。
「幾ら憎んでも家族である事には変わりはない!後で悔やんだりせぬよう言いたい事は言っておくのだ。イクスーバよ……恨み辛みでも父に話せる最後のチャンスだからな。弟は鉱山行きだがまだ会うチャンスはあるから許せる日が来たら話すが良い」
そう言った王へ感謝の意を伝えるイクスーバだったが、父との会話はこれ以上望まなかった。
ヤクタはその後市中を引き回しにう。
多くの馬糞やら石やらを投げつけられた後、断頭台で首を落とされその生涯を終えた。
身体は先に魔の森に遺棄され、首は王都で暫くさらし首にされた後魔の森に投げられた。
彼は時間が経った後、首のない身体が頭を探して彷徨う事だろう……
弟のクゥーズは犯罪奴隷落ちの焼印を額に押されて、鉱山へ連れて行かれた。
やっても居ない『殺人幇助』が決め手になり、犯罪奴隷は揺るがなくなった……見つからない死体は、その場に置いておくはずも無く、逃走の際に森にでも遺棄したのだろうとなり、その結果魔物が食べてしまったとされた。
クゥーズと騎士が檻から出られたのは、衛兵の一人が開けたと判明した。
兵士の一人は、最近はぶりが急に良くなったと言う話が浮上して、当日の勤怠を調べた結果、逃走した日が宿直だと行き着いた。
詐欺罪の賠償金はルムーネ家の祖父が、自分の家系から犯罪者が出た事で支払わざるを得なくなった。
理由はヤクタの妻がルムーネ家に出戻りした為だ。
クゥーズは生涯兄とは顔を合わせず、鉱山での落盤でその生涯を閉じる事になる。
鉱山でも口の悪さが災いして、犯罪奴隷の鉱夫数人と喧嘩になりその際の落盤が原因だ……享年21歳だった。
こうしてヤクタが起こした事件は幕を閉じたが、彼が居なくなることでこの領地は急な発展を遂げる事となる。
今まで苦労してきた領民は幸せな時期を迎える事になるが、それはまた別の話……
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