第326話「開けちゃダメ!それ危険ですから!」


「お待ち下さい、王様!そんなに落胆せずとも実は先日、私の領内で管理する『ダンジョン』からも『秘薬』が発見されました!我が『クリアウッド領』からで御座います!」



「何だと……どう言うことだ?秘薬だと?詳しく申してみよ!コッズ伯爵!」



 その言葉で一瞬にしてまわりが騒がしくなる……


 玉座の広間でそう発言したのはコッズ伯爵と呼ばれる男で、王都では一度も会ってない人だった。


 だがよく見れば、先程からソワソワしていた貴族の横に居た男だった。


 コッズ伯爵は僕達が居る場所まで進み出ると、僕を見て鼻で笑いながら王へ話し出す。



「王様!!賊に取られる様な間抜けでは御座いません故、このコッズは!!自己顕示欲を出し見つけたなどと言えば、何処で危険な目に遭うかなど分かりませんでしょう?」



「この様な我等にとって過ぎた物は、王に渡すまでは誰にも言わないのが一番なので御座います!コマイ男爵!箱を此処へ!!」


 そしてよく知る名前が呼ばれた瞬間、ソワソワしている男が誰かもわかった。


 馬子にも衣装とは言うが……コマイ男爵はしっかりした正装をしていた為に、近くに来るまで誰かも分からなかった。



「ほう?其方はクリアウッド領のコッズ伯爵と、コマイ男爵であったな?……でかしたぞ!!お主達2人で報告に来ると言うことは……コッズの管理するダンジョンを共同で探索したと言うことか?」


 王の言葉で即座に返答するコッズ伯爵だったが、僕はそれよりダンジョンが気になった……


 今までの情報で、水精霊のダンジョンにトレンチのダンジョン、鉱山のダンジョン、王都の秘密の地下ダンジョン、そして話に聞いた帝国宮殿の地下ダンジョン、そこに加えて新たなダンジョンだ……危険すぎるだろう……どれだけ魔物が居るんだか……



 コッズ伯爵は興奮を抑えきれない感じで話すが……中身は多分『馬のフン』だ……王様はマジックバッグを直接開けないほうがいい……



「そうで御座いますます!国王陛下!このコマイ男爵に共に王の為に長期に渡るダンジョン遠征をしないか?と、このコッズが提案した所、コマイ男爵は二つ返事で了承してくれました!」



「その甲斐あり、こうして無事に『秘薬』を手に入れたわけで御座います!」



 そう言って話すコッズ伯爵の横でコマイ男爵は高く『黒箱』を掲げる。


 当然此処で僕達は、それが奪われた自分のものだと正当性を述べる必要がある。


 なので此処でザムド伯爵は仕掛ける……


「王様!お待ちを!実は我々の『黒箱』を襲った犯人を捕らえております!その者達は『黒箱』を盗むようにと指示をされた実行犯に、犯人を始末する為の共謀者で御座います!」


「その者達を騎士団独房にて尋問した際に、『コマイ男爵』及び『コッズ伯爵』の手の者と自白いたしました!」


 その言葉を聞いたコマイ男爵は小心者なのか慌て始めるが、コッズ伯爵は慌てる素振りを全く見せない。



「何を言うか……それこそ金を掴ませれば、なんとでも言えるだろう?弱みを握り……金を掴ませたのであろう?後で『恩赦』でも与えると言えばイチコロであろう?同じ伯爵の爵位持ちだから、主の考えなどお見通しだ!」



「王様!コマイ男爵は残念ながらこの様な凶事や、企み事の経験が乏しいのでこの様な態度を取っていますが、その様な悪事……決して我々がした事では有りません!」



「万が一『襲われた』のが本当だとしても、我々は無実です!!そもそも犯人に接触したのが私達であれば『裏』が残りましょう?自分たちでするならば『面が割れぬ様』仲介役を立てます!」



「浅はかな企みで『黒箱』を我が物としようとする、ザムド伯の浅はかな企みでしょう……残念な事です同じ伯爵爵位持ちとして情けない!!」



 コマイ男爵は下手に自分が喋ればボロが出るのを理解しているのか、ペコペコ頭を下げるが話さない。


 そして『黒箱』をより一層高く掲げるだけだ。


 その言葉を聴いて王がザムド伯爵へ尋ねる。



「ザムド!言い分はあるか?くコッズ伯爵の言い分を覆す証拠は?無ければ証拠不十分と致すぞ?………」



「く……有りませぬ!!」



「この戯けが!!裏を完全に抑えずに物を申すな!!そこに控えておれ!!」



 無事に事が済んだせいでコマイ男爵は上機嫌になり、一歩前に躍り出てさらに高く『黒箱』を王へ見せる。



 その黒箱を見て、王妃も声をかける……コッズ伯爵もコマイ男爵も、まさかの事だったのでその言葉に耳を傾ける。



「成程!理解致しましたわ!そうで御座いますか………先程のお茶会で、ルーケ伯爵夫人にテンテ男爵夫人が『楽しみに』と言っていたのは……黒箱のことでしたのね!!」


「是非、2人のご婦人もこの場に呼んで一緒に労いをされてはいかがでしょう?国王陛下?」



 思っても見ない王妃の発言に、コッズ伯爵とコマイ男爵は喜びの言葉をあげる。



「ま……誠に御座いますか?この場に我らがとるに取らない妻などを?王妃様!!有り難き幸せに御座います!!」



 王の使いにより、夫人達用に用意されている応接間に集まっていた中から2人が呼ばれる。



 お茶会の後はシリウス皇女の回復を見たい為に、参加者全員がこの場で待機していたようだ……回復のお祝いをする事で少しでも顔色伺いをしたいのだろう。



 2人は呼ばれて入室してすぐに挨拶をしようとするが、王に手で制される。



「堅苦しい挨拶など良い!共に前へ来るが良い……」



「コッズ伯爵とコマイ男爵よ!この度の『黒箱』は大義である!シリウスも無事回復するだろう……『黒箱』を此処へ!」



 王の廷臣が『黒箱』をコマイ男爵から受け取り王様へ届ける。



 貴族全員が息を呑む瞬間だ。


 ザムドとウィンディア以外は黒箱の開封は此処10年見た事がない……最後に見たのはポラリス王妃の輿入れ時らしい……僕がダンジョンに落ちる前に聞いた情報だ。



「我!ユニバース・ファイブスター。力を示し封印を解く者なり!」



 王が短く何かを言うと、今まで黒かった箱が『白箱』に変わり勝手に蓋が開く。


 マジックバッグの異次元収納のおかげで匂いはしない。



「ふむ!開封は済んだな……オイ!此処へ例の物を!」



 短く王はそう言うと、王家の紋章の入ったトレイを持ってこさせマジックバッグと共にコッズ伯爵へ返す。



「お……王?これは一体?」



「何を言うか?王自らが手を入れて中身を取り出せと申すか!この戯けが!!」



 王の側近の一言で理解する、コッズ伯爵とコマイ男爵。



「も!申し訳ございません!なにぶん黒箱の取り扱いに不慣れな物でございまして!大変失礼を致しました!」



 コッズ伯爵の指示で、マジックバッグに急いで手を入れて確認するコマイ男爵だったが、中を幾ら弄っても瓶のような物は無い。


 それどころか『ヌメヌメ』するへんな泥のような物の感触しか無い。



 マジックバッグは『中身を保存』する効果がある……それも現状を劣化させず『長期保存』が可能だ。


 そして当然中身は、自分で『出さない』限り出てこない。



 コマイ男爵は手を引き抜くと『悪臭』が玉座の広間に漂う……そしてコッズ伯爵はコマイ男爵の手を見るなり、後ろにズッコケる。



 腕が急に腐った様に見えたのだ。


 肘関節までコマイ男爵入れたので、そこまでが完全に『馬のフン』塗れだが一見すると、腐敗して爛れた感じにも見えなくない。


 腕だけ臭いゾンビだ。



 当然パニックになるコマイ男爵だが、僕は笑いたい……必死に笑いを堪えるが我慢できないので、言葉を発して誤魔化す。



「ブハハハ!!!……うお!臭い!何すか?この『馬のフン』みたいな匂い!!」



 よし『秘薬』が見つかるまで、彼等にはマジックバッグの中を探してもらおうか?

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