第296話「真紅の魔女の教えと、スキルの復習」

「聞きたい事は山盛りあるだろうが、私も仕事があるんでね!また来るからよろしく頼むよ『お隣さん!』せいぜい頑張りな!」



 聞きたい事がある僕を、置いて帰ろうとするその魔導師の女性を何とか引き止めようとするがうまくはいかない様だ。



「ちょっと待ってください。まだ聞きたい事が!」



「残念だが私が設置したこの扉がもう持たないんだ。今度来る時はもっとマシな扉を用意しとくから少し待ちな!お互いの領域が引っ付いたらお前は二度とこの部屋には入れなくなるからね!私の領域に喰われて此処がなくなるからね!」



「な!……わ……わかりました」



「じゃあ頑張りな!」



 そう言って真紅のドレスを着た魔導師が扉を開けて消えていく……



 彼女が扉を閉めた後、ほんの暫くだけ扉はそこにあったが突然剥がれる様に扉が崩れて落ちた。


 崩れた扉は生き物の様に蠢き崩れて消える。


 その様は見てて確かに奇妙で『ヤバイ』と感じる物だった……力の源は多分彼女だ。



 この能力を維持している間は、運が良ければ出会いそして話を聞ける事が分かっただけも1歩前進だ。


 僕が今やるべき事は真紅の魔女に『聞いた情報』を整理する事が先決だ。



 この部屋は、内部から扉を設置してそこから『特定の場所』に戻れるが、ただし距離が関係してどのくらいかは分からない。



 そして扉は同時設置可能は外から4扉、中から4扉の合計8扉で設置数が鑑定結果とはちょっと違う。



 そして使える時間は外に扉を設置した場合4時間、内部は時間の関係が曖昧の様だ……そもそも中はカウントされて無いかもしれない。


 仕組みはマジックバッグ同様なので当然と言えば当然だ。



 僕のクロークや魔導士学院のマジックグローブは時間経過無しだ。


 マッコリーニ達が持つマジックバッグは、それぞれ大きさで経過時間が異なる。


 だからこそ、この倉庫の時間経過も調べる必要がある。



 だが今はそれを細かくやっている余裕がない……明日のこともあるし、とても疲れている。



 前に手に入れた壊れた携帯を再度充電して、時間の経過だけでも調べるべきかもしれない……一先ずは時間差がわかれば助かる。



 そして僕が倉庫内にいるのに、僕自身の時間が止まらない理由も不明だ。


 時間停止をしない上、本来入れない『生き物』が中に入っているのだから。



 とりあえず倉庫内部の壁面に今の宿への扉を1つ設置してみる。


 やり方は簡単で、入り口の様に頭で扉のイメージを作りだけで設置が可能な様だ。



 ひとまず部屋から出て、設置していた場所の入り口を消す。


 そして別の場所に『倉庫』への入り口を作ってまた中に入る……



 そうすると倉庫内に設置した『出口』は、そのまま消えること無く残っている。



 僕はその『出口扉』を開けて出ると、今度は先程消した筈の壁方面から外に出た……


 しかし先程と違うのは、振り返ると扉は跡形も無くなり壁だった。



 しかし倉庫に入る為に作った入り口は、消える事なく残っている。



 またそこから入ると、今度は倉庫に設置した『外への扉』がなくなっている。



 テストの結果を纏めると、外から入る入り口なら『何度でも』可能だが、『倉庫内から出る扉は1回しか』使えない様だ。



 もの思いにふけって居たが、明日のあるのでそろそろ寝ないとまずい……



 ふと魔女が居たカウンターに目をやると、その台の上にはIHコンロの様な色違いの場所があって、そこだけ作りが近未来的デザイン的だ……色は薄く緑がかって発光している。



 ひとまず僕は部屋から王に貰った金貨150枚の袋と残っている『フルーツセット』を持ってきてカウンターの色違いの台の上におく。


 真紅の魔女が居た以上何か此処に細工をした可能性もある。



 フルーツはひとまず情報提供代として、あの魔女が好きだったら食べてもらう為だ。


 それ以外にも此処に置いとくことで、この部屋の時間経過を知ることができる。



 鑑定結果ではどのフルーツも消費期限があと7日はある。


 わざわざ僕に渡すために良いものを買ってきてくれた様だ。


 実験に使い申し訳ない……とか思ってしまう。



 クロークに入れれば良いのだが、今は検査用に使うのがベストだ。


 この部屋なら最悪どこでも入れるからだ。


 クロークの中にあるアイテムも、この部屋の謎が分かり次第、時間のある時にこの部屋に置いて整理しよう。


 僕は宿の使用人にお湯を貰い、身体を軽く洗いさっぱりしてからベットに横になる。



 異世界では風呂は珍しく、貴族以外は入れない……だからこそ現代の技術が恋しい。


 日本人は風呂の習慣があるので、どうもシャワーやタライから体を拭く様な方法では満足できない。



 今度時間を見て、風呂の自作に勤しもう。


 ボーイスカウトの講習で、外国人が変なお風呂を作っていたのを見ていたので原理は覚えている。



 そんな事を考えていたら眠りについていた………



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌朝『風の6刻』(朝6時)に僕は叩き起こされる………マフィンだった。



「ヒロ様『風の6刻』になりました。朝食が出来ています大ホールにお願いいたします」



 扉を開けずに声だけ聞こえてくるが次には



「ユイ様、モア様、スゥ様。『風の6刻』を過ぎました。朝食のご用意が出来ましたので大ホールまでお願いします」


 ………と声がする。


 あの5人は、ヤクタ家の侍女兼メイドをしていただけあって手際も良く勤勉だ。



「おはようございます……はぁ……眠い……」


「だから言ったじゃないっすか!リーダーまた夜中までバタバタやってたんでしょう!?」



 僕が欠伸しながら大ホールに来ると、チャックもチャイも既に起きて朝飯を食べていた。


 僕達の世界のホテルでは割と朝食込みだが、異世界ではそうはいかない。



 貴族愛用のこの宿は『ホテル』では無い……宿屋なので眠る場所の提供が主で食事は運営する主人次第だ。


 後で文句を言われても困るので『この宿』では頼まれない限りは食事の提供していない……貴族は曲者が多いからだ。



 その為、依頼すれば宿として厨房の貸し出しはしている。



「おはようございます〜ヒロ様!今日は頂いたレシピから『おにぎり』と『味噌汁』での朝食です。既に大人気でございます!」


 そう言われてホールの奥をみると多くの貴族やその従者、護衛冒険者までもが食事をしている。



「おい!マッコリーニ!コッチに『ミソシル』のお代わりを持ってくるのだ!妻と娘の分も合わせて3杯だ!後はホーンラビット柔らか焼きの入った『オニギリ』も4個追加だ!」



「フラッペ!こっちも昼食分の注文だ。さっきの量と同じ分量で頼むぞ!鍋をメイドに持って来させるから、そこに入れてくれ!」



 昨日の夜からずっと商売の事ばかり考えていた3人は、毎朝のことを思い出して、声を合わす様にこの『朝食サービス』を思いついた様だ。



「おはよう御座います!ヒロ様!今日も沢山の注文で大忙しで御座います!このフラッペ貴方様との出会いに感謝します!まさに『食は金』ですね!」



「おお!おはよう!ヒロ様。いや本当に出会えたことに感謝だ!このハリスコ何かあったらすぐに手を貸すので!言ってくれ!………『今飯持って行くからちょっと待ってろ!』……おっと!すまんな!朝から喧しくて……冒険者の販売担当なんだ我が商団は!はははは!」


 たしかに炊けたばかりの米は、嗅ぐと食欲を刺激する……そして味噌汁の良い匂いも当然食欲を増加させる。


 そして食べやすく腹持ちも良い。


 中に入っているホーンラビット柔らか焼きの肉ダレがコメに染みれば、美味いことは間違いが無い。

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