第290話「トラブルメーカーと脳筋代表の夢のタッグ」

「見事な物ですね……到着してすぐの気が抜ける一瞬で犯行に出るとは……まぁ何にせよ今の状況であれば助かりますけど!」


 惚れ惚れしてはいけないが、腕前は確かだった。


 怪我をさせず変な騒ぎにもならず、欲しい物だけ奪っていく怪盗〇〇〇の様なやつだ……。



「だが、これならば何の憂いもなく捜しに出れるな!よしでは1時進程街を捜し回ろうではないか!」



「ヒロはお留守番だぞ!何かやらかすからな!」



 しかし僕には違う考えがあったので、折角なのでその提案は却下させてもらった。



「いやいや……これは明日早く王様に会う約束をアレックスさんに伝言をしに行くべきですよ!アリン子の件で言えば通してくれますよ!城門をきっと!」


「明日の皆が呼ばれるよりも早い時間に『秘薬』を届けて問題解決した後、悪辣貴族を一同に集めて『秘薬お披露目会』と言う名の『一斉清掃』をお願いしに行く下準備をするべきでしょう!?」



「絶対にアレックスさんに今のうちに伝えるべきです!」



「因みに王様への面会はいつ時なんですか?」



 僕は『信憑性』確保と同時進行で、裏取りの手段を講じるべきと言っておく。



「「………………………」」


「この状況でそんな事を更に考えるのは………お前だけだ……もうお前の頭の中身がわからんわ!」


 ザムド伯爵とウィンディア男爵は一瞬黙ったがすぐに伯爵は意味を理解してそう言って来た。



「拝謁できるには基本正午からだ」


「だが……その前に会えれば確かに可能だな。我が恥をかくと思って皆は来るだろう……王の御前で恥をかいた奴等のその前に回復した姫が来れば……うむ……ありだな!」



「それは王も姫が回復して、更に腐った家臣が一掃できたならば尚の事愉快だな!」



「ではその話をしに行くか……ヒロとウィンは一緒に騎士団宿舎へ!他の者は1時進適当に探してくれ。酒場を中心に捜しに酒でも飲みながらゆっくりやってくれ。見つける必要は全くないが、探して居るふりだけは忘れずにな!」



「あ!あと冒険者2名の遺体もある可能性があるのでそれも忘れるな!では皆の者行ってこい!」



 ザムド伯爵とウィンディア男爵は僕を伴い王宮の城門へと急ぐ。


 状況を見て番兵が来るが予めアレックスより申しつかっていた様で、そのまま騎士団宿舎に入ることができた。


 今はアリン子に跨らず慣れない馬に乗っての移動だが、元の世界と大きく違うのはある程度であればステータスが補正してくれるらしく乗りこなせる様だ。


 そして何より『乗馬術LV1』のスキルが身に付いていた。


 この補正もかなり大きい様だ。



「すまんな……アレックス殿。前もってこうなると予想していてくれたお陰で助かった。この時間に王宮城門を通れるのは君の機転がきいたおかげだ」


「いえいえ……我が皇女様を王の元にお連れした時に、王と皇女にそう言い遣っていたのでそうしたまでです。流石皇女様……こうなると分かっていたのですね……」



 アレックスは何かあると、皇女をベタ褒めする。



「相変わらず君は叔父として甘いな……まぁ気持ちはわからんではないがな……」


「絶対に私だけではないぞ!ウィンだってあの3人の娘が居なければ同じだったはずだ!同じ叔父としてな!……今度暇を数日貰い遊びに行くから飯をご馳走してくれ!お前の娘の叔父としてな!」



 ビックリだった……皇女様は騎士アレックスとウィンディア男爵の姪になり、アレックスはウィンディア男爵の兄だった。


 と言う事は彼等は王族?と思ったら、妻……つまりは王妃の兄がアレックスで弟がウィンディア男爵だった。


 今この話をしている暇が無い……と言う事で詳細はそれ以上は判らないがビックリして口を開けていたら、ウィンディア男爵に



「やっと仕返しできた様だな……あまり嬉しく無い仕返し方法だったが……毎回我々はそんな気分なんだぞ!?」



 と言われた……なんか悔しい。


 一つ分かったのは『王位継承権』は既に辞退しているそうで、王の家族に何があってもアレックスとウィンディア男爵には継承権は回ってこないそうだ。


 結婚時に悪辣貴族の策で何かあったのかもしれない。


 そんな考えを巡らせていたら、ウィンディア男爵が話を切り出していた。



「実は頼みがあるのだ明日の朝早い時間に王に謁見させて貰えるように頼んで貰いたい……できる限り周りには内密に……『餌』に魚がかかったと言えば多分わかる……間者だけは注意してくれ兄上」


「うむ……それは妹……ゴホン!!……王妃に今から直接話しておく。それで……例の物は無事なのか?姪のシリウスは助かるのか?」



 アレックスは如何にもこうにも姪達がお気に入りの様で、目に入れても痛くない様子だ。


 そんな彼の気持ちを察してザムド伯爵は言葉を付け足す。



「アレックス殿それは『ある者』が保管している……何より『一番安全』だからな……怒らせたらまず王都さえも無事ではあるまい……そう言っておく」


「はははは!理解した!確かに一番安全だ。エルフも従え、魔物が従魔……いつもは多くの冒険者の真ん中に居るくせに戦闘になると我先に飛びでていく……そしてとても凶暴だが全くもって自覚が無い……襲う側は襲われて初めて『後悔』する羽目になるからな!」


「そうだ……あの悪漢どもはすぐに口を破ったよ……『二度とあの魔物の相手』だけはしたくないと言ってたぞ!?」



 失礼極まりない!!多分それは僕だろう……凝視しているのだから!


 それに彼等はアリン子とチャンティコ・エクシアのタッグの暇潰しに巻き込まれただけであって、あの件には僕は関係ない!



「そう言えばまだ詫びていなかったな……我が騎士団の見習いがすまない事をした。実力を見てみたかったと言ってな……我等が騎士団は脳筋しか居なくてな!自分で言うのも何だが!がははははは!」



 がはははははは………じゃない!教育してくれあれは困った急いで帰って最低限シャワーは浴びたかったのに……結局埃まみれで会議になった……


「アレックス殿……助かりますでは連絡をお待ちしています」


「うむ……明日は私が直接出向くことになる。土の9刻にはそちらの宿に行くのでな……要件は『皇女救出』の件でお礼をしに行く。その為申し訳ないが時間を空けておいてくれ。その時に謁見時間を伝えよう……何時でも出られる準備だけはしておいてくれ」


「多分もう少ししたら王宮から遣いが向かうだろう……ヒロ殿宛だ。すまんが王宮からの伝達は我には止められないから二度手間になるが聞いてやってくれ」


「では兄上頼んだぞ。」


「うむ……お前も抜かるなよ!」



 そう言って僕達は後にするが、アレックスが追いかけてきた。


「ところで何故3人で来たのだ?ウィンだけで充分だろう?餌て事は……またヒロ殿が何かやるのか?人手が必要なら騎士団の見習い共も貸すが?」



 僕はそれを聞いてお願いするしかない……『信憑性』だけは爆上がりできるじゃん!と思ってつい言ってしまう。



「良いですね!ぜひ借りたいです。探し歩いてください……冒険者の2人組と多分暗躍するのに慣れたプロ集団です!」


「そうすれば……『客』もこれ以上になく信じてくれそうですし……」


 それを聞いたアレックスは悪い顔をしながら


「うむ!分かった!楽しみだなぁ!」


 と言いザムド伯爵とウィンディア男爵は頭を抱え始める……彼等の頭には『王宮や騎士団』を巻き込む事は想定に無かったからだ。


 しかし、既にもう遅いと悟ってしまった。


 トラブルメーカーの少年と脳筋騎士団代表がタッグを組んだらもうトラブルしか起き得ない……

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