第289話「演技派?エクシアのお芝居」

微妙な空気が流れる中、それぞれの目的のものを探していると、そこにエクシアが心臓が止まりそうな事を言う……


「箱じゃないか?あの黒い箱持ってこいって?」


「は……箱!?あ!ああ……そ……そうでした!箱です………黒箱をって言ってた気がします……偶然戻った時に言われまして……此処にあるかな〜…………」



 そう言って、エクシアと目を合わせることができないマドレーヌだったが、エクシアが目的である黒箱を目の前に置く。



「悪いね!私も酒探しててね、持っていってやりたいが、さっさと持っていってくれ!って言ってくれるか?マッコリーニの客人に」



「え!?あ!ああ………はい!……お……お客様に渡しておくので大丈夫です!ちゃんと渡しにいきます……し……失礼します……」


「はいよぉ〜……酒どこかな〜アレー酒!酒やーい出ておいでー」



 エクシアは手をヒラヒラさせながら酒を探していたので、間一髪と勘違いしたマドレーヌは『黒箱』だけ持って表に出て行く。



 外で待っていた冒険者に駆け寄り、黒箱を渡すマドレーヌ



「こ……これで皆は助かるんですよね!?絶対に約束を守ってくださいね!私はどうなっても構いませんから!」



「うむ……たしかに言われた通り黒箱だな……開けてみようとしても開かないところを見ると本物のようだな……」



「ではお前達は用済みだ……早く仲間の所へ行け……そしてそこにいる俺の仲間に出てくるように伝えるんだ!」


 マドレーヌの言葉に箱を確認した冒険者は、4人と給仕室に向かった冒険者に合図するようにマドレーヌに伝える。


 その言葉にホッとするマドレーヌ。


 既に此処で殺されると思っていただけに、ビックリするのも無理はない。



 マドレーヌは小走りで給仕室に向かい、冒険者に終わった事を話す。


 4人が給仕室の片隅で纏って居るが、酷い事はされていなかった。


 冒険者が部屋から出る時にマドレーヌが外の男を見ると、困った事にエクシアが倉庫からそっちに向かって歩いていた。



 慌てて給仕室にいた冒険者は仲間の元へ向かう。



「よぉ!冒険者か……黒箱持ってるって事は『客』だな?」



 エクシアが黒箱を見てそう話しかけると、それを見たもう一人の冒険者が給仕室から小走りで向かってくる。



「………」



「なんだよ……口も聞けないのか?まったく……仕事仲間だろうが……まぁいいや。とりあえずマッコリーニの黒箱頼んだよ!アタイらの仕事は此処までだ……」



 その言葉を聞いた冒険者二人は警戒を解く。




「すまないな、こんな夜に。だが、ちゃんと『持っていく』ので安心しろ。では我々は先を急がねばならんからな……マッコリーニ殿に宜しくと伝えてくれ!」




「おー!無事済んだらアンタ達も美味い酒でも飲めよー!アタイはやっと美味い酒が飲める!」



 エクシアがそんな風に冒険者にくだを巻いているとマドレーヌがくる。



「エ……エクシアさん!如何したんですか!こんな所に!」



「如何したも何も!マドレーヌ……アンタが荷物忘れたんだろうが!?『ヌギョとスライム芋』忘れてどうすんのさ!?」



「あ!……ああ…………有難う御座います……す……すいません。おっちょこちょいで……荷物も大きかったから先に渡そうと……」



 ウッカリ自分が言ったことも忘れていた彼女は動揺が隠せないが、マッコリーニと自分の仲間の為に、すぐに彼等を追い出しにかかる。


 エクシアへ本当の事を話し、怒られるのは後でいいと判断した為だ。



「では無事渡せましたね!『さようなら』………」



 そう言ってスライム芋とヌギョをエクシアから受け取り……



「エクシアさん大丈夫ですか?水でも飲んだ方が……ちゃんと話せないと後で困りますよ!?」



 そう言って給仕室に連れて行く。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そんな事になっていると知らない僕達は、どう荷物を持って行かせるか悩んでいた。



「おいおい!引っ掛かったぞ!マッコリーニの『客人』が来た!無事に『荷物』は出たぞ!」



 伯爵の部屋に連れて行かれてマドレーヌは既に泣きそうな顔だった。


 しかし、当のエクシアは皆に簡素な説明をした途端にその場にいる全員が笑い出したので、彼女は戸惑うしか無かった。



「なんでだ?今か?……って今か?」



 伯爵がビックリして同じことを2度聞く。



 マドレーヌと共に4人の少女も後を着いて来ていた。


 万が一マドレーヌが怒られる場合、自分達も責任を負う事にしよう!と決めたのだった。



 エクシアに促されて、マドレーヌは一部始終を話す。


 そしてエクシアも途中でマドレーヌの様子に気がついたので、その事を話すと5人の少女以外は皆が大爆笑だった。


 ひとまず心配で押し潰されそうだった5人に、お咎め無しを伝えておく。


「理由は言えないけど大丈夫だよ!寧ろ良く渡してくれたと思うくらいだから!手間が省けてさらに自然に渡せたよ!」


 僕の言葉の後に、伯爵は笑いながら『大丈夫だから下がりなさい』と優しく伝えると、マドレーヌは緊張が解けたのか泣き出した。


 その後、僕達の話の邪魔にならない様に、仲間に連れられて彼女達の部屋に戻って行った。



「エクシアさん!ファインプレイですよ!それは見たかったな……でもこれで後程か明け方に皆で街を探した方がいいですね!」



「何故そんな事をする?無事渡ったではないか?」



 ザムド伯爵の質問で、今の状況と盗まれた箱の中身により『信憑性』を持たせる為の説明を皆にする。



「コマイ男爵が直に受け取りに来たのではなく、『冒険者』と言う事は彼等は『渡した瞬間』始末されるはずです。間違いないでしょう」



「マドレーヌちゃんと同じ雇われですね。助ける気もないんですよ」



「実際は人が寝静まる夜中でもいいわけですから……それを『今』なんですから。きっと前から準備してたんですよ。中間の受取人でなんとかすれば手に入れた経緯の足がつかないですからね……」



「そして何よりマドレーヌちゃんですが、今は身分が奴隷です。その言い分は『信用性』が持たれないです。どう言っても上手く逃げられちゃいますよ」



「だからこそ、そこで僕達が王都を探し回っておく事でより箱の『信憑性』が出ます」



「問題はもう一箱をどう盗ませるかですね……」



 一通り考えを説明した後、残りの箱をどう奪わせるかを考えた……時間がずれれば何故両方捜したのか疑問に思われるだろう……出来ればこの奪われた時間で探すべきだ。


 相手方はどの馬車のどの荷物が黒箱入りか判断が出来ないので、さほど問題ではないができれば街に繰り出すのは一緒の方が都合がいい。



「なんかさぁ……ヒロってこう言う意地悪いのを仕込む時本当に!!生き生きしてるよね………性格……ワルゥ……」


 ひどい事を言うエクシアだが、その言い分は否め無い。



「ついでに何組かの冒険者には少しの間酒場に息抜きに行かせて、騎士団の半分は食事で気が抜けた振りでもして寝てもらい、倉庫をもぬけの殻にして奪わせ易くしましょうか?」



「マッコリーニさんの馬車の事情を知らない貴族は奪いに来るかもですし!」



「では我が騎士団に探しに行かせよう!騎士団長よ皆に通達だ。今より隊の半分は王都内で起きた殺人特に二人組の冒険者を漁れ!」



 勢い良く出て行った騎士団長だったが、直ぐに部屋に帰ってくる事になった。



「ザムド伯爵様……すみません。既に騎士達は睡眠で眠らされました……護送馬車は既に漁られ、アリン子殿対策で睡眠を使用した模様です。マジックアイテムか魔法かは分かりませんが、今シャイン殿に回復を依頼中です」



 騎士団を眠らせる手段から見て、こっち側はその手の『プロ』の腕だ。


 兵の交代などを狙わず、宿に到着後の気が抜ける一瞬を狙い警戒させず眠らせた犯行だった。

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