第287話「黒箱が齎す信頼と新たな仲間」

ちなみに貴族全員に箱が渡されないのは意味がある。


 黒箱に入れるものが『普通の宝』である意味がないからだ……普通の献上品ならば『宝箱』で充分だ。


 なので、ダンジョン産の装備も余程のことがない限りは、通常の宝箱が使用される。



 そして何よりこの黒箱は『王様』しか開けられない。


 その為、黒箱を使用して献上する際は『中身』を明確にする必要があり、王に渡される前に中身の詳細を求められる。


 ある意味この中に爆発物でも仕組まれたら王の命は無い……しかしそれだけに重要な場面でしか使用されず、王自身も開けることなどない。


 王とて自分の弱点は知っている。


 それに多くの献上品が渡される王宮では、多少具合が良い程度の宝を『黒箱』に入れられるなど、王の手を煩わせる事以外の何物でもないのも家臣は把握している。


 ウィンディア男爵がその箱の存在を知っている事に加えて、持っていた理由はこれらの説明と異なるらしい……これも詳細は語られずに不明だ。



 この情報を知り得たのは、既に僕達の知識には『黒箱』がある。


 変な情報をばら撒かれない様に、正しい情報を与えて口止めする為らしい。


 ザムド伯爵がそう説明をしたが、目的も明確だ……今それを聞いた全員が今後も同じ様な案件に『協力』する仲間になってもらう為だ。



 これらの情報を知るものは絶対に少ない方がいい。


 金に煩くても、保身に走らず街の発展に協力的なら問題はない。



「マッコリーニ含めこの場に居る3商団は今後とも、腐らず驕らず良い商いをして我がジェムズマン領を共に繁栄させていければと思っている。この度は巻き込んで済まなかったな……全て貴族の驕りと怠慢だ……許せ」



「このフラッペ、ザムド伯爵様に忠誠を誓います!共にジェムズマインの街を繁栄など……言葉もございません!今後なんでもご利用くださいまし!」



「このハリスコ!武器商人として他より優れている自負が御座います!街の為に粉骨砕身共に頑張ってまいりたいと思います!なんでもお手伝いをさせていただきます故今後ともよろしくお願いいたします!」



「このマッコリーニ!誠心誠意ジェムズマインの発展に貢献します!なんでも仰ってください!」



 鼻水垂らしてそんな事を言い出す3人に、若干ビックリした。


 特に理由を知らずに利用されていたマッコリーニだが、今となってはあの時に知っていなかった事が助けになった。


 知っていれば必ず所作に出るはずだ……検査官の前ではそれが一番困る。



 僕も動作に出ているだろうが、一時的だが宝は『本物』ですり替えられた事を見抜ける人はそうは居ないはずだ。


 何故なら黒箱の詳細を知る者が少ないからだ。



「今回の件はマッコリーニさんにはこの宿に着くまで知られない方が良かったはずです。知っていたら身振りに出ますしね!」


「その良い例が検査官と衛兵で、僕がウィンディア男爵様から頂いた短剣のエンブレムを見える様に剣帯に入れていたら、その事を確認した検査官が何か合図したので、コマイ男爵が現れたのです」



「空間感知で、その事を確認できる範囲に全員がいたので丸分かりだったので、僕的には準備がやり易かったです」


「逆を言うと、その衛兵と検査官の動きのせいで僕は色々と気がつけたので、マッコリーニさん達の様な商人の方々は目的地まで着いた後に理由を聞いた方が、万が一何かあっても『利用された側』で対処できますしね」


「だって……知らない物は答えられないので!」



 伯爵とマッコリーニはフムフム……と言う顔で話を聞いていた。


 マッコリーニとすれば、結果的に助けになりさえすれば最後に説明されても問題がない……何故なら伯爵からはこうして感謝されその上ある意味貸しになるのだ。


 今回はその返しとして、本来王都の商会を通じて商いされるはずの『伯爵と男爵の商材』が既に用意されていたので、マッコリーニは飛び上がるほど嬉しかった様だ。



 事の始めはザムド伯爵はヤクタ男爵用に『偽物』の箱を用意した……これは奪わせる為だが、その後ヤクタ男爵への追っ手は出していない。



 周りの貴族からすれば不自然だが、黒箱が『一つしか無い』とは誰も言っていない……ならば当然それは『偽物』だと気がつくのだ。


 当の男爵は逃げていて『おかしい』と気がつくが、その対処で『王国軍』が謀反人討伐へ向かう。


 この時に伯爵は本来の予定の概略を王様宛に書きたかったが、書けなかったある意味止められたからだ。



 ジェムズマインを出て間も無く、この世界の可及の連絡方法をテロルに確認したら伝書鳩だった。


 その話をザムド伯爵とウィンディア男爵は耳聡く聴いてたのだ。


 王様宛の伝書鳩でも受け取る人が間者だったら『伝書鳩の手紙』を読まれておしまいじゃ無いですか?と僕が言ったせいで書かなかったらしい。



 王都には多くの貴族の間者が潜む……それは王宮と言えども同じだ。


 可及の報告を示す伝書鳩が王宮に着けばソイツ等の目に止まる……当然手を尽くし内容を調べられるのだ。


 王の耳に入るまでは誰も知り得ない事は100%あり得ない……最低限の人数は知り得る事になる。



 そしてその話は、王側の貴族と悪辣貴族に知れ渡る。


 口は勿論、表情にも出さないが『知っている』のだ……その程度ができなければ貴族で成り上がれないからだ。



 悪辣貴族達は時期を待っていた。


 王都入りしてくる伯爵とその一向が、どの様な形で入ってくるか見定めなければならない。


 誰が『本物』の黒箱を持っているかそれが重要で、そして黒箱の存在を知っている彼等は自分達では『開けられない』事も知っている。



 だからこそザムド伯爵達は最後の一手を組む必要がある。


 王都入りのその時に『黒箱』を示す必要がある。



 当然伯爵もその為の黒箱を用意している。


 ザムド伯爵が貴族門から王都入りをした際に、多くの貴族に囲まれたらしい。


 誰がどんな目的で来たかまでは分からないが、ザムド伯爵を褒め讃える為であれば別の方法を使うはずだ。



 その手段の一つとして、顔見知りの貴族達の数名は兵を差し向けてくれたらしい。


 護衛としてもカムフラージュとしても使えザムド伯爵への援護にもなる為だ。



「ですが今夜が最後のチャンスですから何かと奪いにくるはずですね……悪辣貴族と言うか腐敗貴族と言うか……其方側達はどうするのでしょうか……」


 マッコリーニの一言で今後の話し合いがされる。



「ふむ……見張りだが持ち回りで1パーティで行おうと思う……そうすれば向こうも襲いやすいだろう……」


「マッコリーニの方も申し訳ないが同じ配置で頼む……ハリスコとフラッペは既に荷物の移動を終えたと言ったが?実際どこへ移したのだ?」



 どうやら僕が騎士団宿舎へ移動している間、マッコリーニはザムド伯爵に呼ばれて部屋に軟禁状態だったが、すぐに出てこなかった為に長くなると踏んだ2組の団長は、自分の商材を販売先となる王都にある店舗へ預けて来たらしい。



「ふむ……それであれば荷が襲われる心配はないだろう。問題はマッコリーニの商材だな……もし荒らされて破壊されたり持ち去られたものがあればリストにして請求せよ」



「後で悪虐を尽くした貴族から100倍にして賠償させるからな!安心せよ!」



 非常に力強く言う言葉には説得力があった……多分王様に掛け合う気だろう……。


 こんな話をしている僕等だが既に知らない場所で問題が起きていた……それはこの宿でもなく冒険者でも無く別の人物が標的になっていた……

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