第286話「騎士団の偉い人……教官ダンベル」

「馬鹿もん!それも分からないのか!地面を見るがいい。こんな威力をその装備に受けた時点で腕など千切れ飛ぶぞ!」


「それに馬鹿なことを言って困らせているのはお前達だ。魔法の威力を見たいあまり、お前達がせがむからこそ足元に撃ち込んだのだろう?それが身体に当たったならばお前達など騎士団には居れんぞ!」



「王の盾の本分をなんと心得るか!全く馬鹿もんどもが!アレックスの代わりに礼に来たら恩人に迷惑掛けるなどもっての外じゃ!」



 ピシッとした空気が漂い、皆が背筋を伸ばす。



「すまん事をした。私は王国騎士団教習官のダンベルと申します。姫の護衛を買って出て頂き有難う御座います」


「それどころか、仲間の遺体も王都まで運んで下さった事、このダンベル礼に尽くす所存で御座います」



 ダンベルという男は口振りからして上司だと思っていたが、どうやら教官だった様だ。


 僕は、悪漢に襲われ亡くなった騎士の遺体をマジックグローブに収納して、王都まで運んできた。



 初めは魔物の餌にならない様にその場に埋めると言っていたが、余りにも忍びなかったので収納という形で良ければマジックグローブに入れて持って帰れると言ったところ了承してくれた。


 荷台の積荷を収納してそこに遺体をと思ったが、万が一にも魔物化すれば彼等はこの先永遠に浮かばれないので収納して帰る事になった。



 その事をアレックスに聞いたのだろう……もう少し早ければ助けられた命かも知れないのでとても残念だ。



「所で、アリン子殿は宿で平気なのですかな?もし問題があれば我々宿舎でお預かりしても何ら問題ないですぞ?」



 かなり良い申し出だが、ここに預けると後日僕が騎士団へ入団とも成りかねないので遠慮させて貰った。


 それよりかなり時間を食ってしまった。


 宿で伯爵達と打ち合わせがあるのだこれ以上ここで時間を浪費する訳にはいかない。



「まだ先程この都に着いたばかりで、やらなければならない事がありまして……ひとまず宿へ戻らねばならないので此れで失礼致します」



 僕がそういうとダンベル教官は、問題が起きぬ様に宿まで送る様にと2名の見習い騎士に同行を命じていた。


 この問題は僕にではなく、街の住民だと何となく思った。



 興味本位に近づく分には問題ないが、パニックだけは避けねばならないからだ。



「また明日にでも遣いを送ります。王が姫の無事を確認して現在説教中でしてな……今日礼ができずに申し訳ない」



「いえいえ……そもそも時間が時間ですから。日も暮れていれば本来城門もくぐれないと言われていますから大丈夫です」



 僕達は簡単に言葉を交わしてから別れる……ここでこうして居る時間が既に致命的ミスになりかねない。



 王都に入ってから『監視』されて居るのは『空間感知』で把握済みだ。


 移動中に偶然気が付いた……初めはエルフが気が付き、その様子を見て感知を使った結果ある程度の距離から監視されて居たのだ。


 宿の側で数人の人間の反応が止まったので、田舎者のふりをしてキョロキョロ見ながら目視で確認したが、『どこかの貴族の私兵』と思われる身なりだった。


 商団全部を監視して居るわけではなく、狙いは『黒箱』の様だ。


 僕が騎士団宿舎に移動する際に誰も後をつけなかったからだ。


 何時迄も暇な時間がある訳ではないので、見習い騎士の先導の元僕は急いで宿まで帰る事にした。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 宿に帰ると女将さんが門の前でウロウロしながら待っていた。



「ヒロ様!伯爵様がお待ちで御座います……聞きたい事があるのだそうで………ひぃぃぃぃぃぃ…………」



 僕がアリン子から降りてウロウロしている女将さんに向かって行ったのだが、女将さんも僕を見てすっ飛んできた。


 伯爵の事をいち早く伝えようと不用意に近づいた。


 アリン子の事を警戒して無い訳では無いが、顔をニューッと伸ばして来たアリン子にびっくりした様で尻餅をついていた。


 アリン子はその場で待って居る様に言ったのだが、約束の飴玉を貰って無い事を思い出して催促をしようと近づき顔を伸ばした時にタイミング良く女将さんが来たのだった。



「分かりました!じゃあアリン子を〜裏に連れて行くのでちょっと待っててください」



 僕はそう言って建物裏の馬車が置いてある横に連れて行く。


 そして『これから伯爵のと話さないといけないから良い子にね!』と言って飴を2個口に放り込む。


 バリバリ言いながらも噛み砕いて、貰えた事に満足したのかその場に伏せて眠りこけるアリン子。


 貰う物を貰ったうちの従魔は自由だ……



「待っておったぞ!出てから結構経つが帰ってこないから、エクシアが城で暴れて居ると脅すモノだから気になって仕方なかった」



 僕は見習い騎士の事を話すとエクシアが大笑いをする。



「だから言ったじゃ無いか……絶対何かやってるって。今日は伯爵の奢りで酒が決定だな!ヒロ有難うよ、あんたのおかげであたしゃ賭けに勝ったよぉー」



「騎士団見習いとは盲点だった……アイツ等は脳筋の集まりだから、言われてみればそうなる予想はついたなぁ……仕方ない……話が終わったら酒とツマミをご馳走しよう!賭けは賭けだからな!」



 ザムド伯爵のとエクシアのやり取りを聞いて、なかなか楽しそうな待ち時間と理解は出来たが、伯爵の奢りで酒は分かるがエクシアは何を賭けたのだろう……



「ザムド伯爵様が酒を賭けたのは分かりましたが、エクシアさんは何を賭けたんですか?」


「あたしかい?兵役だよ?私達のギルド全員が兵役で何か仕事を受けてやるって話だ」



 僕等を巻き込んで一体なんてものを賭けにしてんだと思ったが、今やってることの延長で騎士団や王国軍に入る訳では無いらしい。



 僕自身の兵役期間が気になったが、藪蛇になりそうなので黙って居る事にした。


 騎士団の話をして事で脱線している話を元に戻す為に、王都に入った時のことを報告する。



「うむ……その事は先程マッコリーニとエクシアから報告は受けたが、何か他に気になる点があったか?」



「伯爵様が気になって居るのは、王都に入った時の間者がってことですよね?此方にはコマイ男爵がきましたが……空間感知で見た感じで検査に関わった検査官と男爵はグルですね」



「お金で雇われたか、自分の手の者を予めその職に潜ませたかのどちらかでしょう……お金であれば口を割りますが、雇われている者であればそもそも何人潜んで居るかもわからないですね……」



 伯爵は既にマッコリーニから説明を受けていた。


 なので僕は、簡単に自分の考えを言っておいた。


 しかし、現状であれば伯爵の持つ黒箱とマッコリーニの持つ黒箱の両方を、今後の企みの為に悪辣な貴族達に奪わせておく必要がある。



 因みに黒箱の説明を明確に受けた……箱は王家から貸出されたスキル再現の特殊箱らしい。


 特に『ダンジョン』がある領地には多くの黒箱が渡されている。


 その理由は、該当領主が自分に協力する貴族のみにその箱の存在を明らかにして、協力しつつ『ダンジョン探索』を進める為だ。



 ダンジョン産の武器の多くは王国騎士団が所有しているらしい。


 当然騎士団には王国から貸出になるのだが、特殊な能力付きの装備になると王の評価は大きくなるらしい……当然と言えば当然だ。



 では、その装備で何をするかと言うと、王家の管理するダンジョンの攻略に当てられるらしい。


 スタンピードを防ぐ目的が主だというが、詳細は教えてくれなかった……ザムド伯爵が所有する鉱山のダンジョンと同じ扱いらしく内情は該当者のみの秘密らしく、緘口令も出ているそうだ。


 僕達が知らされた理由は簡単で、そのダンジョンにいずれ参加して欲しいとの事だった……問題しか起きない気がするのは気のせいだろうか……

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