第284話「王都の夜は騒がしい」

「ふぉっふぉっふぉ……アレは何かを捜してましたな?欲が顔に出ていたので毛皮を『与えて』見ましたが……案の定『どっかへ』行ってしまいましたな?これは流石にお粗末ですなぁ……『担当官を待たなくて』良いのですかね?」



「それに、あの方が調べている物は何かは存じ上げませんが……商団の荷馬車に国王近衛兵の二人が我々と同時に入場して、『騎士団長の馬』まで一緒に居るのです……荷物云々ではなく本来はそこで気がつくべきですな!」



 開口一番ビックリした。


 マッコリーニがあの貴族を試していた等とは思いもしなかった。



「ヒロ様もそれがあったので荷馬車に登ったのでしょう?中身を確認するだけで、荷馬車へ上がる人など居ませんよ。普通は『トランクの方を寄せる』のですから。上がるのは『担当官』の役目です」


「ヒロ様はどうしても、その黒箱をあの貴族に『見せる必要があった』と推察します。まぁ私などが知ったところで意味は無いのですが、伯爵様のお役に立てたのであれば嬉しいですな!我々の商団の先に希望が出ますからな!」



 マッコリーニは荷台の側に既に『担当官』が居ない事を不自然に感じたのだ。


 コマイ男爵が荷台横に来た時点で荷馬車の積荷を調べる担当官が1人も居ないのはおかしい。


 文句を言いに来たのだから、僕達の荷物チェックをする担当官はその件には無関係だ。



 誰かが暴れて、衛兵に取り押さえられているなら僕達の側に居なくても理解できるが、別の荷馬車をチェックしている訳でもない。


 そうなれば答えは自然と出る。



 コマイ男爵は王都門に居る兵を使い、王都にくる者が持つ荷物を虱潰しに確認してそれらしい人物を探していたのだろう。


 『秘薬』捜しのために……問題は『国王側』か『腐敗貴族側』かが問題だ。


 まぁ十中八九は『腐敗貴族側』だろう……やましい事がなければ普通に聞いて探せば良いだけだし、国王近衛兵の存在で意味に気がつく筈だ。


 この騎士達は『護衛』ではなく騎士団宿舎への『案内役』として僕達には予定外で側に居るのだが、相手がそれを知ろう筈もない。


 僕達は不本意ではあるが『秘薬』に関する一連騒動の答えを出してしまう形になったので、それを上手く利用することにした。


 『勘のいい悪辣貴族』が狙ってくるのであれば、それはそれで罠を張れば良い。


 そいつらが迂闊に手を出して罠にかかるのを待っていれば自滅するのだ……しかしそれに関係のないマッコリーニはと言えば……



「それで……『販売』は諦めですかね?」



 などと、悲痛な顔だったので安心させる為に、催事の言い出しっぺとして伝えておく。



「催事の準備はしないと、『伯爵と男爵』に怒られますよ?販売は任せられたんですよね?ぼく催事にはノータッチですから!『念の為コッチに居る』だけで、後はマッコリーニさんと伯爵達で話した事はちゃんとやらないと……ねぇ?」



 それを聴くと、マッコリーニはトロールトランクの上蓋を開けて検査官の為にリストと一緒に置くが、その時に中身を見て『ほっと』していた。


 少しすると、担当官が雑に中身を見てすぐに通してくれた……多分この検査方法が『通常』なのだろう。


 全員のチェックが終わった後、マッコリーニはフラッペとハリスコを待ち共に宿を探しに行く。



「ヒロ様!今回は一緒の宿でよう御座いますか?私共の商会はこの王都でも名前が少しは知れていまして、宿の準備くらいは問題なく出来るのですが……」



 途中歩きながらもフラッペは、何かと世話を焼きたがる。


 多分レシピだの何だののお礼を兼ねてだろうが、伯爵の件もあるのでどうしたものかと考えていた。


 交換して連れ歩いている騎士団長の馬を見てふと良いアイデアを思いついた。



「実はアリン子が入れる場所じゃ無いと不味いんですよね」



「あ!マッコリーニさん万が一の場合は僕納屋でもいいので………」



 僕がそう言うと3人の商団長が慌てふためく。



「「「探しますから大丈夫です!!!」」」



「ヒロ殿、我々にお任せを!騎士団長より仰せつかっていますので、今からご案内をさせて頂きます!」



 騎士2名は既に別れ際に騎士団長に言われていたようで、万が一決まった場所に宿泊するのであれば、団長が伝えた内容を言わない様にと言う事だろう。



「じゃあそこで良いんじゃないかい?あのアリン子の上で鼻の下伸ばした団長も恩を感じたって事だろう?王宮じゃ周りの目があるあんな風には接することも出来ないだろうからな!せめてもの礼だろう」



「それに一般宿よりは『客が限定』される宿の方が後で特定がしやすいからな……」



 エクシアの言葉でハリスコとフラッペは頭を傾げる。


 当然二人は事情を一切知らないのだ、巻き込まれ組だからこうなるのも不思議では無い。


 しかし、マッコリーニだけは頷きながら騎士2名にその場所に案内を頼んでいた。



 僕はエクシアの言葉でピンと来た……『客』というのは泊まる客と『尋ねて』くる客がいるという事だ。


 一般の宿だと多くが泊まる為に誰かに罪をなすりつける事は容易いが『貴族』が主に泊まる宿であれば、なすりつける事もそう簡単では無い。


 更に今はジェムズマインを出る時より大所帯になっているのだ……アレックスがくる前には既に氷菓屋とテッキーラーノ両商団は行動を共にしていた。


 今更別宿に行く筈も無い。


 理由は簡単で今となってはマッコリーニのやることに興味があり、宿が同じであれば『運』が向けば自分達にもチャンスが来ると思ったからだ。


 それに思いがけない客人のエルフ3王国の関係者がいるのだから、此処でわざわざ離れるなど馬鹿げている。



 自分達だけ除け者にならない様にフラッペとハリスコは事前にマッコリーニと話して、エルフ達の宿代は既に3商団で持つ事で話がついていた。


 コレは彼等を伝手に、エルフの国と仲良くしたい表れだ。


 例え王国に入れなくても、ジェムズマインまでエルフが行商に来れば3商団だけは、その珍しい商材の全てにおいて優先的に取引ができる。


 それだけエルフは義理堅く、特定の商団としか取引をしないのだ。



 その為にマッコリーニは騎士に質問をする。


「ところで騎士殿……エルフの皆様も同様に宿泊なのですがその点は問題ありませんかな?代金については我々が持ちますが、部屋がない事にはお誘いもできませんので……」



「ええ大丈夫ですよ。ザムド伯爵様にウィンディア男爵様もお泊まりの宿になります。部屋に関しては宿に着いたら関係者が案内する事になります」



 その言葉を聞いて随分と手回しがいいな……と思った。


 昨日出会ったばかりなので、宿が人数分用意できるかなどわからない筈なのだが……と思ったので率直に聞いてみる。



「かなり大所帯なのですが、よく皆が泊まれる部屋数が用意できますね?」



「昔のままではとてもこの人数などお泊めになる事はできない宿でしたが、ちょっと訳がありまして……」



 そう言って騎士が説明してくれた。


 単にライバル関係にあった宿の長男と長女が親の知らない間に良い仲になっていて、親の反対を押し切り結婚したらしい。


 そして、お互いの宿の利点を更に伸ばす為に子供達が努力した結果、今の形態になったらしい。


 そしてライバルで無くなった結果、その周辺にはあり得ない巨大な宿が誕生したらしいのだ。



 その説明を受けつつ宿に進むと『ある言葉』がチラホラ耳に入ってきた。



「騎士団のアレックス様が!魔物を手懐けたらしいぞ!それは巨大な魔物だが……なんでも人を襲う事なく背中に乗せているらしい!」



「ああ!聞いたぞ!アレックス様が第二皇女のカノープス様と共に騎乗されているらしい!」



「あたしゃビックリしたよ!さっき向こうの通りで道具屋に薬草の配達に行ったら、トンネルアントに乗ってたのさ!それもかなりデカかったよ!」



 そんな会話がそこかしこでされていた。


 どうやらアリン子は無事に貴族門から内部には通してもらえた様だ。

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