第265話「過小評価していたアリン子の実力と最高時速」

僕はアリン子がどれくらいの最高速度が出るのか試したかった……


 理由はステータスでスピードに関する項目が死滅項目だったからだ。


 僕はチャームを、野営地に留めてある荷馬車の目立たない場所に括り付けて、安全を確保した上でアリン子の身体能力をチェックしに出た。


 最初のうちは更にチャームを出して安全を確保していたが、アリン子の運動能力は『蟻』と言う事もあり安定していた。


 姿勢が低く、背中に乗って状態でも脚がサスペンションの役目なのか上に乗っていても、それほど振り回されない。


 最高速度は測れないが、常時時速70キロ程度で歩ける様だ……前に蟻が1メートルあった場合オリンピック選手並みの速さと聞いたことがある。


 時速換算で35〜40キロって所だ。


 なかなか速く走れる事を知った僕はチャームをしまい走ってみたらまずかった……周りから続々とアリン子に仲間が出てきたのだ。


 目の前で仲間を倒すのは気が引ける……親戚や兄弟だったらどうしようとか思ったが、普通にアリン子にも襲いかかって来たので魔物って!意外とタンパク!って思ってアリン子に噛みついた奴の頭を吹き飛ばした。


 そして傷薬をアリン子の噛まれた所にかけると、普通に傷口から出血が止まるので魔物にも薬品が効くと分かると安心できた。


 そして群がるトンネルアントを殲滅する事にした。



「此処でドリフトだー!アリン子!ウォーター・バレット!!」


 ズザザザザ!!と土埃をあげながら向きを変えるアリン子、僕はどんどんとアントの頭に狙いをつけてシングルショットをする。


 燃費が悪いが、下手に怪我させると『ギチギチ』と牙を鳴らして仲間を呼ぶのだ。


 死屍累々と横たわるアントの死骸……どの個体も頭が無いが、片っ端から回収して回る。




 片っ端からトンネルアントを蹂躙したせいか、途中から出て来なくなった。


 合図をするまもなく駆除される為に、各巣穴のクイーンから出ない様に指示があったのかも知れない。


 本当にパッタリと出なくなった。


 もしかしたら巣穴の中から出せる個体は全体の何%と決まっているのかもしれない……自分の身の回りもさせないとならないし、巣穴の守りもある。


 考えてみれば当然だ。



 『アオーン!アオーン!』と声がするので、遠くを見ると……『平原ウルフ』だ!鑑定経験値!と思う。


 そこそこ離れている様だが向かいたいと思うと、意思が疎通できるのかアリン子がそっちの方を向く。



 アリン子に跨り声がする方向へ向かう。



 そこにはなんと焚き火と煙が上がり、ウルフはその周りを遠巻きにぐるぐる回っている。


 風下にいたので煙が流されてくる……どんどん焚かれる変な煙だなと思ったが……


 もしかしたら商団が逃げ遅れて襲われていて逃げ遅れた人かも!と気になった。



 僕は全速力で向かう様にアリン子に指示すると……『全速力でいいの?』と頭に返事が帰ってくる……まさかの念話だった。


 それに対して頭で『全速力で救いに行くよ!』と念話で返すと、身体が後ろに転げて落蟻する……馬じゃ無いから落蟻だ……



 後頭部が非常に痛かったが、大きく弧を描いてアリン子が帰ってきて『大丈夫?』って顔をする……なんとなく意思表示がわかる感じがする。



「ごめんね!アリン子がこんな早いと思わなかった!今度はちゃんと掴まるから!」


 言葉で言ったがアリン子は『ぴこぴこ』と触覚を動かす。



 僕はしっかりとアリン子の背中にしがみつくと景色が凄い勢いで流れて行く……顔を横にしないと目が辛い……と言うか前が見れない。


 時速約70kmで走るのだ当然だ……時速70kmで掴まって居られるはずがないと思い、よく見るとスライムがバッグから出て体をアリン子とくっつける様に覆って居てくれていた……こうでもしないと当然既に落ちている。



 煙が巻く場所の側まで来て、気が付いた……周りにはいくつかの松明が投げられていた。


 そのおかげでそこに魔物避けのお香を投げ入れて距離を稼いで居た様だが、もう遠くまで投げ入れていないところを見ると既にお香が尽きたのだろう。


 女の子5人が震えながら、手持ち最後と思われる魔物避けのお香を目に前の焚き火に放り込んでいた。


 焚き火から出る煙が強く苦しそうだが、魔物が多いのでそうも言ってられないのだろう。



 急に現れたトンネルアント・タイラントにびっくりした平原ウルフは、一斉に距離をとりつつも獲物の女の子を狙いながら、新手のアリン子を敵視している。



 獲物を横取りされると勘違いしているのだろう。


 突然現れた、巨大な蟻の魔物に悲鳴をあげる女の子達。逃げたくても脚がすくんで逃げられない様だ……寧ろ今はその方が助かる。


 下手に動けばウルフの胃袋に収まり、巣穴にお持ち帰りされてしまう。



 僕は鑑定をする暇などなく、五発のウォーターバレットを作ってお見舞いする。



「ウォーター・バレット!!」



「ギャン!ギャン!グギャン!グオン!」


 と言って僕から近いウルフの4頭が絶命する。


 残念ながら視界が煙で悪いせいで、1匹やり損ねてしまった。


 しかし上々だ!これでこの子達の安全はかなりマシになる。


 4匹も初撃で倒せれば上出来だ。



 急に人の声がしたので、女の子たちは声の元を探すが気がつくはずも無い。


 今目に映っているのは3メートルの巨躯を持つトンネルアント亜種に、何故か身体がスライムで覆われている見た事もない化け物だ。



 よく見れば背中から僕の顔と腕だけが何故かスライムから生えて出ているのが分かるが、それを見たら間違いなく気絶するだろう……一見スライムで溶けた人間の身体の一部が出ている様にしか見えない。


 僕の様は置いておいて、化け物に囲まれて煙内部にまで侵入されているのに、よく逃げ出さないで居られるもんだ。



 僕はスライムに言う……


「スラちゃんありがともういいよ。ウルフの駆除を急がなきゃ!」


 その言葉でスライムが元の形に戻り、僕はアリン子の背中から降りる。


 女の子たちは急に僕が現れたので、未だに立てない脚を使う代わりに腕を使いズリズリと後ろに下がる。



 僕がウルフへ身構えるより速く、背後から矢がウルフへ射掛けられる。


 びっくりして振り返ると、月のエルフ隊長のエルオリアスと大地のエルフ隊長のエルデリアが弓を構えて残り4匹に牽制射撃していた。



「エルオリアスさんにエルデリアさん!いい所に!この子達のカバーお願いします。アリン子!ウルフなんてやっておしまい!」



 そう言った瞬間後ろ脚を使い突進しつつ、器用に上体を起こし大鉤爪の腕で薙ぎ払うアリン子。


 ウルフの首が鉤爪で切り裂かれ1匹がビクビクして倒れる。


 巨体なのに物凄く素早いアリン子は『女王蟻』の制御じゃなく僕の指示で行動できるので、確実かつ一番威力が見込める攻撃をしていた。


 振り下ろした鉤爪を今度は地面に突き刺し突進すると、鋭い大顎を使い頸部を下から接敵して噛み切る。


 アリン子はとんでも無く戦闘慣れしていた。


 僕はしまった!と残り2匹の片方を思い大慌てで『鑑定』する。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


プレイン・ウルフ (別名: 平原ウルフ)

 (通常種・イヌ科イヌ亜種・中型種)


『使役可能個体』 第一次系統進化個体 


・条件により使役可能

 捕縛の魔物罠、使役強制スクロール、

 従魔契約スクロール、使役の絆…etc



LV.16 HP.130/130 MP.0/0

STR.40 ATK.100 VIT.70 DEF.72 INT.45

REG.32 DEX.54 AGI.70 LUK.45


・ステータスは個体差、系統差あり。

・スキル  なし


・個体特徴


  群れで活動し、人を恐れる事はなく馬

 さえも襲って食べる肉食魔物。


  強靭な後脚のバネを使い高く飛び上が

 り噛みつく他、鋭い爪で引き裂き攻撃を

 する。


  動きが非常に素早く、硬めの毛皮で攻

 撃から身を守る。


・取得部位

 鋭い牙、毛皮、ウルフの肉、鋭い爪、

 小魔石、中魔石…etc


  上記部位は武器、防具、etcの素材に

  使用可能。


・食用が可能(※秋時期個体は特に美味)

 頭部…可もなく不可も無く。

 腹部…部位によって味と保存期間が異なる

 胸部…上記同様。

 脚部…上記同様


・攻撃・防御:


  噛みつき、斬撃、突進、強打、引っ掻き

 引き裂き、体当たり


 系統変化先(進化先)

 ・プラント・サーベルウルフ

 ・ブラッド・ウルフ

 ・ウルフマン

 LV、経験値不足で鑑定不可。


 稀に宝箱を落とす。(ダンジョン個体のみ)


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 『カンイッパツ』鑑定が間に合った。


 アリン子だけで無くスライムがウォーターを使い2匹の顔を覆った為にもがき苦しんで逃げようとする。


 しかし、そこにスライムは的確にウォーターの魔法を撃ち込み脚をまともに使えなくする。


 数分で動かなくなるウルフは窒息していた。


 スライムが自分の身体を使わず窒息させる手段を得た今、ヤバい生物が出来上がった様だ。

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