第266話「悪事が齎すとばっちり……折角助けた少女に待つ悲劇」
僕は周りを見て敵が『空間感知』に居ない事も確認する。
『ねぇ!ここ臭い……向こう行きたい!』
とアリン子から念話で催促されるので、魔物避けの煙が来ない風上に行く様に指示をする。
その時にスライムも一緒に連れて行ってもらう……体調でも崩したら助けに来たのに可哀想だ。
待ってて貰う間大人しくしてもらう為に口に飴玉を放り込んでおく……スライムはどこが口かわからないので手で持つと器用に絡み取っていた。
アリン子はバリバリ噛んでしまったが、スライムはゆっくり消化液で味わう様だ……アリン子はこういう時なんとなく可哀想だ。
まぁ美味しさは変わらないのだろう。
「君達はどこの商団の人かな?他の皆は無事ですか?」
声をかけると、恐怖に耐えて相当頑張っていたのだろう……お礼を言う間もなく5人とも倒れてしまう。
僕とアリン子が原因とは思いたく無い……
この子達は全員が目の下にクマが出来ていて、苦労していそうな感じが滲んでいる……睡眠不足と疲労の様だ。
簡易鑑定で出るステータスには『ステータス30%ダウン』『疲労』『昏睡』と出ている。
なんとなく、騎士団の事もあったので『男爵絡み?』と思った。
ここに放置はあまりにも可哀想なので、『伯爵に指示を仰ごう!』そう思った。
僕はこの子達をスライムで包んでアリン子に固定して運ぼうかと思ったら、エルフたちが馬に乗せて連れてってくれる様なので、お言葉に甘えることにした。
何故彼らがこの場にいるかというと、エルフの隊長たちは僕の行動を逐一確認していたらしく、山程トンネルアントを狩っていた様も見ていたらしい。
食糧不足がそこまで酷いのかと心配になる。
まぁトンネルアントの巣になかなかの食材があるので、定期的にアントを間引きする為にも是非エルフの皆さんには平原まで遠征して欲しいものだ。
人間もエルフもWINーWINだと思う。
彼らは野営地に戻ろうとした瞬間、僕が血相を欠いて移動した様を見てわざわざ馬を野営地に取りに帰り、そこから追っかけて来たらしい。
状況説明を受けていたら、部下も馬でやってきたので倒れた子達は無事馬で連れて帰れそうだ。
「ヒロ殿は無事ですか!?隊長!野営地まで使いを出しますか!?」
「いや大丈夫だ!トンネル・アント亜種の攻撃は凄まじくてな……あっという間に終わったよ……それも最後はウォーターの魔法で窒息だった……あんな使い方をするとは勉強になった。我々もあとで実技訓練をしよう。慣れれば凄く戦いが優位になる!」
部下の問いかけにそう答えるエルデリアは、森で暮らすエルフ族なのでやばい事を教えたかもだ。
見えない場所から窒息攻撃とか……混戦でやられたら、かわすのは無理だ。
「ひとまず野営地に急ごう。ここで回復させるより野営地の方が安心できるだろう。この人の子も」
エルオリアスがそう答える。
二人は旧来の友の様に打ち解けているので、別の国のエルフと言われなければ人間にはもう分からない。
倒れた5人の少女が気になるので、僕はそそくさと遺骸を回収してアリン子に乗り帰る準備をする。
くる時にエルフが馬でトンネルアントの巣の近くをかけ抜けるが、魔物が出てくることはなかったらしい。
危機感知なのか個体数の問題かはわからないが、適度に間引けば外への襲撃が減り安全なのかも知れない。
野営地には戦う事もなく無事に辿り着けた。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
「それにしても君はどっかに行くと必ず何かを成し遂げたり見つけて来るが……普通には帰れないのかね?」
伯爵は5人の少女を見ながらため息をつく。
魔物に襲われている人を見たら、助けるのが人情では無いだろうか。
そう話していると女の子の一人がうなされて言葉を発する。
「うーん……スライムが……スライム人間が………ひゃぁぁぁぁぁ!!!」
女の子の『ひゃぁぁぁ』の声で周りもビックリするが、気を失っていた女の子たちも飛び起きる。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ご主人様ごめんなさい!」
起きるなり謝る少女達に、イーザが駆け寄り背中をさすりながら落ち着かせる。
「大丈夫ですよ!もうあの人は男爵じゃありませんから!それに既にもう此処には居ませんから、酷い目には会いません。安心してください」
その言葉に周りを見回す少女達。
少女の一人が僕を見て……『きゃぁぁぁぁぁ!スライム人間!!!』と言うと全員が僕を見る。
「何をしたんだね?ヒロ……スライム人間と言うことは、スライムと融合し得る手段を見つけたと解釈していいのかな?もうそうなったら……S級冒険者に唯一いる精霊使いなどと言うレベルを遥かに超えてしまうんだが?」
僕は伯爵と女の子に理解できる様に説明すると、伯爵は頭を抱えながら……
「馬車より早く進む方法を魔物で実現するなど……まぁ君であれば驚く事はないのだろうが……スライムが巻き付いていれば少女が驚くのも無理はないぞ?本来それは中の人間が『溶かされている』事に間違いはないからな!?」
と注意を促す。
「僕は少しでも早く行かないと、死んでしまうかと思ったんですよ!死んだら死んだで後味が悪いじゃないですか……まぁ商団が襲われたわけじゃなかったので、安心しましたが……魔物に襲われていた事には変わりませんよ」
と自分の弁護をする……誰も味方がいないせいだ。
「助けて頂いたのに、お礼も言わず申し訳ありませんでした。本当にありがとうございます。」
彼女達が気を失っている間に幾つかわかった事がある。
なにかと言うと、予想した様に彼女達はヤクタ男爵のお付きであることが分かった。
理由は簡単でヤクタ家の家紋が入ったメイド服を着ていたからだ。
どうしてあんな場所で5人で居たのかは確認せざるを得ないが、伯爵の言葉で大凡の想像はでついていた。
伯爵と男爵が呆れ果てていたのだ……荷馬車を騎士達が持って来ない為に、徒歩の彼女達が置き去りにされたのだろう。
その場合に彼女達だけ残せばどうなるかなどは誰でもわかるが、ヤクタ男爵は奴隷ならまた買えば済むと考えるに違いない……と言っていたからだ。
そして彼女達は周りにヤクタ男爵の騎士たちが居ることで、全てを悟ったので朝から起きた事を全部話すことにした。
彼女達はヤクタ男爵のお付きであったが、馬鹿ではない様で自分たちの主人がした事を理解していて、これから自分達もお咎めを受ける事は理解していた。
「………と言うことで、私達は男爵様に見捨てられてあの場に置き去りにされました。ターズ騎士団長様は最後にこの武器を置いていきました……多分あのウルフの魔物に生きたまま食べられるなら、痛い思いをする位なら自分で……と言う事だったのだと思います」
ターズと言う騎士団長は、その場に残る選択肢もあったはずだ。
しかし、ヤクタ男爵を選んだ様だった……不幸中の幸いは、残される彼女達を憂いで手にかけなかった事だ。
「すまない……我々が安直な行動を取ったせいで君達にこんなことが起きるとは思わなかった……本当にすまなかった……」
騎士団が謝るが、元々彼女達はヤクタ男爵の家のメイドだ
国王宛の荷物を主人が襲撃して、無事で居られるはずなどない。
「お気になさらなくても大丈夫です。既に逃げられない時点で私達には運命が決まっていますから。自分たちで全てを終わりにする勇気がなかっただけです。」
その言葉を聞いて周り全員が黙ってしまう。
一番上でも15歳程度の幼い娘がそういえば黙りもする。
荷馬車を届けなかった事でお付き達が被害を被った事で、後から来た騎士含めてお通夜の様な空気だった。
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