第251話「騎士団だって怖い者は怖いんだ!」

「どうなっているのだ!!ターズ!お前の管理はザルか!部下の管理も出来ないのか!ちゃんと出来ないなら帝国領に着いた時点で騎士団長の任を解くぞ!いいか!これ以上脱走者を出すな!」



 翌朝ヤクタ男爵の陣営は大騒ぎだった。


 団員が12名も姿を消したのだ……その中の5人は昨日探索任務を申し付けた後に見張りをさせた騎士達だった。


 騎士団は鉱山に向かったのが20名、屋敷に残したのが10名の合計30名だった……今はそれを総動員させている。


 本来はもっと騎士団を用意していなければならない……国同士の戦争の時に騎士団が30人だけでは全く足らない。


 戦争時は他にも多くの兵種が必要だ。


 勿論、領民兵を含めればかなりの人数になるが、騎士団は居るだけで兵の士気を上げることができる憧れの的であり、民の味方だからだ。


 自分の領土を守るための兵なのだ、彼等は日頃からちゃんと訓練しておく必要がある。


 いくら足らなくても騎士団見習いも含め50人は最低でも欲しい……理由は重装備の騎士だけでなく、付き添う軽装備の従者も必要になるからだ。


 ちなみに、戦争時の兵種だけで考えても、騎兵10人の2部隊で既に20人が必要だ。


 歩兵を横5人で縦5列用意すれば25人で歩兵デタッチメント15人2部隊で30名、そして弓兵を10人2部隊で20人にもなる……歩兵だけでも75名なのだ。


 その上で騎士団という存在の人数を配置するかも問題になる。


 少ないからじゃあ増やそう!と言ってすぐ増やせるものでもない……騎士団となれば長い期間の血も滲む訓練が必要だ。


 ヤクタ男爵が所持する騎士団が、何故此処まで兵士が少ないかと言えば……当然の事ながら金銭面問題だ。


 維持するだけで普通の兵でさえ金を食う。


 給料から始まり、基本装備に騎兵であれば馬も……それに戦時に備えての必要不可欠な消耗品にアイテム、それどころか最低限の人数を常時寝泊まりする宿舎も必要だ。


 そして一番かかるのは何より食費だ。


 1日2食で現在の最大人数30人でもかなりの額になる。


 抱えれば抱えるだけ出費が増えるのだ。



 そして男爵は見栄を必要以上に張るため、自分の装備に金をかける……戦わないのにだ。


 そんな理由から、周りの貴族達には100人以上いると見せかけていたが大概は農民兵であった。


 その30人しか居ない騎士団から、たった1日で12人も居なくなったのだ……理由は当然昨日の男爵の仕打ちが原因だ。



 伯爵に媚び諂う側の者は騎士団の中で10名、彼等はテントで朝までぐっすりだったので異変にさえ気がつかなかった。


 彼等は金に卑しく良い思いをさせて貰っている為に従っているだけだが、今回のこの事件で流石に彼等も気が付いてしまった。


『騎士団は当に終わっている』と……



 逃亡した騎士団員は殆どが騎士見習いだったが、昨日探索に向かった5人は騎士だった。


 その友人と従者数名が消えていた。


 従者が全員消えていなかったのは、その場におらず寝ていたからだ。


 これには他意は無く、起こす事で巻き込まないように考えたまでだった。



 そんな状態で朝から慌ただしいヤクタ男爵の野営地だが、男爵は間違えた一手を取る。


 ターズとお気に入り騎士団員10名の合計11名以外の、騎士と従者の9名に全ての雑務や逃亡した者の追跡を命じた。



「お前達は手分けしてこの野営地を片付ける者と、追跡者に分かれて作業をしろ!荷馬車組は片付けた後に早く次の設営地を目指して移動させて、設営と我々の食事を用意しておけ!」



「追跡班は見つけ次第連行してこい。我々は先に進んでいるから早く連れてくる様に!いいか!?これは帝国領に着いた時に私が恥をかかない様にする為だ!奴等には帝国領までついたら騎士団から除名してやるから好きなところに行けと言っていたと伝えろ!」



「私等は先に向かっているから早く済ませてついてこい!いいな!」



 そう言って野営地を出て帝国領へ馬を駆け向かって行く……暫くすると豆粒程度に小さくなる。


 それを確認した残された7名は『全員』で荷馬車へ荷物を積み始めるが、全員無言だった……


 片付けが終わる直前に徐に仲の1人が話し出す。



「悪い……俺はもうこの騎士団に居る気はない。アイツに報告するなら勝手にやってくれ……家族を『縛り首』にされてまではアイツに着いて行く気などなれない。『どうせもうアイツは『男爵』じゃないしな」



「昨日の夜消えた奴等は全員、家族を救う為に伯爵に報告にいったんだ……俺は……伯爵に謝罪して家族だけでも恩赦をもらえる様に頼むつもりだ……」


 その言葉に全員が賛同したのか、『伯爵』の護衛馬車へ向かうことに決定した。


 彼等は来た道を帰らず、王都に続く道にショートカットして向かって行く……


 この時、伯爵の運命は全て尽きた。


 『魔導士学院』のプラムを脅して奪ってきたマジックアイテムは全部この荷馬車に積んでいた。


 奇しくも彼等は、この荷馬車を伯爵に届ける事で自分達の難を逃れる事になろうとは、この時思ってもいなかった。



 ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 伯爵が野営地を出たのは、前日より若干遅かった。


 理由は『平原ウルフ』の解体ショーが始まったからだ。



「じゃあエルフの皆さん申し訳ありませんが、ウルフの毛皮と、魔石の除去お願いしますね。僕は燃やせる木々を集めますから。終わったら教えてください。食べられる部位別に仕分けるので、『ファイアフォックス』の皆も手伝ってください量が多いので!」



 僕がそういうと、エクシアが肉を頬張りながら『任せとけーーー!!』と上機嫌にいう。



 エルフ一行が昨夜戻ってきたのは結構明け方近くになってからだった。


 交代で僕達は見張りをしていたので、松明が近づいてきたときは凄く驚き全員が飛び起きる羽目になった。


 その後、エルフ一行も睡眠を取るという話でまとまって、皆がうとうとし始めると次の事件が起きた。



 エルフ一行が戻ってから約束1時進後に『ヤクタ男爵の騎士』が12名も来た。



 来て早々に重苦しい雰囲気で、全員が頭を下げたまま伯爵に顔を見れないでいる。



「我々はヤクタ男爵の騎士ですが……虫の良い話ですが伯爵様にお目通りをお願いしたく……」


「今回の事件で我々が知っている事全てを白状致します。必要であれば我々は全員証言も致します……ですので、我らが家族にヤクタ男爵の被害が及ばない様に……取り計らっては頂けないでしょうか!伯爵様!!」



「虫はいい事と充分に分かっておりますが……我々の命でなんとか!なんとか!お願いできませんでしょうか!」



 そう言って、石と砂の地面に額を擦り付けるので伯爵は


「どうせアイツの責任だ!お前達が罪を被る必要はない!騎士団はその家主の命令は絶対だ……逆らえようも無いだろう!?ひとまず王都へついたら、お前達の証言を全員取る。」


「知っている事を包み隠さず全て話せば、お咎め無しにする手段を講じよう……彼の知っている限りの不正も言うと効果的面だぞ!まぁその場合は、騎士団を『鞍替え』して忠誠を誓うのが前提だがな」


「本来の騎士団はヤクタの所の様に甘やかされた騎士団では無いから『死んだ方がマシだ』と思える日が来るかもしれないがな!」


「だが、騎士団は過酷だから騎士道なのだ!今までが『騎士団でもなんでもなかった』と気づく事だろう…ひとまずは、明日から自分の食い扶持の為に『平原ウルフ』の討伐から始めるんだな!」


「エルフ一行でさえ路程分の『調理用の肉』を今さっき自分で取りに行ったんだからな!」


 そう言って伯爵が先頭の騎士5人にエルフ達を紹介すると、顔を上げた5人全員が全員が一斉に後ろにのけぞって倒れてバタバタとしている……


 よほどあの時の闇のエルフが怖かったのだろう……エルフ恐怖症かもしれない。

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