第249話「判断を迫られる騎士団員」

若干やる事や言う事が不自然だが、何処に居るかは等は彼等が帰った後ろを距離を持って追跡すれば分かってしまう。


 だからと言ってこの場から逃げれば、結局ヤクタ男爵の騎士団員として縛り首も確定だ。


 彼等にはヤクタ男爵と共に行き、家族を諦め帝国で暮らす。もしくは一族郎党を連れて逃げ回るかしか無かったが、伯爵の一言で彼等には別の道が開けたと騎士達はしっかりと理解した。


 此処は普通に一旦戻り、伯爵へ野営中の場所を知らせた上で仲間と共に夜中に逃げ出し、伯爵の秘薬警護隊に加わり王へ一部始終を吐く事で罪を軽減してもらうのだ。


 伯爵は、ヤクタ男爵から黒箱を取り返せる手段がある……と言っている様な言い方だったのだ。


 万が一に伯爵の計画が失敗して取り返せない場合でも、協力した事で恩赦があるかもしれない……自分は騎士団の責任を負い死ぬが、家族は助かる可能性は高い……彼等が家族を救うにはそれしかなかった。



 彼等は一路伯爵の待つ野営中の場所へ向かう……伯爵の例の左腕は見つからなかった……帰り際にも少し探したが腕は無く、あの不気味なエルフが来る前に、どう見てもウルフか何かに咥えられ持っていかれたとしか考えられなかった。



 戦闘跡地に戻る時に遠巻きで何回か『平原ウルフ』の群れを見かけたのだ。


 その度に移動する向きを変えつつ、追いつかれて襲われる度に撃退し現場へ向かって行った。


 討伐個体は都度腹を割いて中をみても見つからず、全部空振りだった。


 伯爵の護衛隊が腕を気にもしていない以上、あの腕が無くなったのは他の群れが咥えて持って行ったか、既に喰われたとしか説明がつかない状態だった。


 誰もが腕が見つからなかった説明を……と、そんな事を考えていたが、騎士団長だけは違う事を言っていた。



 彼等は帰る途中に騎士団長から耳にタコが出来るほど『裏切るな』と言われ続け、それを聞くたびに逆に騎士団員にはコッソリと伯爵が言った事を全て伝えようという気になってしまい、完全に逆効果だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「アイツらまだ追いかけてきますね……このまま帰ったら男爵に大眼玉じゃ無いですか!?」


 騎士の1人がそう言う……理由は簡単で、如何に手練れの冒険者と言えども騎士団員多数相手では厳しいと思ったからだ。


 彼等は自分たちの家族を救うきっかけの為に、追跡してくる冒険者に死んで貰っては困る。


 だが、当然騎士団長はある程度陣営近くまで来たら、騎士に招集をかけて後ろの冒険者を返り討ちにする気だった。



 彼等は後ろを振り返っては確認をするが、かなりの距離があり確認は出来ない。


 騎士団長は時々馬の歩みを遅くして、追跡者が追い付く距離になるように調整していた……しかし彼等は思い違いをしている。


 理由を知らない為その様な考えに至るのは仕方が無いが、彼等が得たものは『何も無い』寧ろそれどころか失った物しかないのだ。


 そんな彼等を追うことなど意味がない……伯爵的には休む暇があるなら早く『帝国領』へ渡って欲しいくらいだ。




 その上、彼等の後ろを追跡していたのは冒険者達ではでは無く『エルフ』だった。


 それも実は追跡をしていたわけでは無い……彼等が放免され帰る時の『会話』をエルフ達は耳がいいので聞いたのだ。



 彼等騎士は何度も『平原ウルフ』を見かけて逃げ回り、時には戦闘になり対処したと言っていた……それであれば帰りも彼等が『餌』となりウルフが襲いかかって来るに違いない。


 エルフ達はこれから迎える冬のためにウルフを彼等は狩って野営地まで持ち帰りたかった。


 そしてウルフジャーキーの製法を伝授して欲しかったのだ。



 エルフのマリョクッキーは腹持ちが良いが、冬の間そればかり食べていては流石にエルフとて飽きるのだ。


 それに比べてウルフジャーキーの使い道が素晴らしかった。


 そのまま保存食として食べるだけで無く、スープに入れて柔らかい肉へ戻して食べることも出来る。


 其れどころか肉によって味が異なるのだ、毎日ジャーキーを食べるだけでも冬の間は楽しく食事を食べれるだろう。



 それにまだ食べ方やらが幾らでも有るようなのだ……そうなればこの王都までの旅程で覚えておきたいのは当然である。


 目的の姫もそばに居て護衛隊として役目を果たせる上に、王国の食糧事情を改善できれば言う事無しである。


 そんな理由で『早くアイツ等が襲われないか!』とエルフ達は手ぐすねを引いていた。


 当然騎士団はそんな事など分かるはずもなく、後ろを振り返りつつ帰るしか無かった。


 そんな中状況が一変する……お互いが待ちかねた状況が起きたのだ……騎士団員が中途半端に速度を上げたり下げたりしたせいで変に目立ってしまい平原ウルフの目にとまってしまった……



「ウォォォーーーン!!ウォォォーーーン!!」



 騎士達が後ろを気にしていると、ウルフの遠吠えが聴こえる……岩場を縫うように現れた平原ウルフ達は、騎士団員の事を『今日の晩飯』として完全にマークしていた。


 中規模の群れだったようで12頭にもなる大きさだった。


 群れは6頭ずつ左右に分かれているので、2チームでの狩りのようだ……狼は通常6〜10匹の群れを家族単位で作る習性があるが、異世界の場合は若干異なっていた。


 雄のグループと雌のグループに分かれて狩りをして、長距離を雄が追いかけて持久戦を仕掛ける。


 疲労で動けなくなったり、傷ついた獲物を雌の群れで仕留める狩りの方法だ。



「だ……団長!!中規模の群れです此処は逃げないと!我々だけでは到底無理です。平原ウルフのリーダーは既に中型種の大きさになっています」



「くそ!追手を巻く事も出来ず此処で死ぬわけにはいかん!お前達此処で奴等を食い止めるぞ!このまま野営地までウルフと追手の双方など連れてなどいけん!」



「出来る限り多くの個体を追手にこのウルフをぶつけてチャンスを作り帰るのだ!行くぞ!」



 そう言ってターズ騎士団長は剣を抜きウルフと追手の中間位置まで馬を走らせる。


 ターズは後ろの追手のまで下がり、ウルフと戦闘をして手頃な時期を見計らって戦線を離脱するつもりだった。


 人間達がウルフを引き付けながら後退してくるのを、エルオリアスが目視確認して『念願の個体が来た!』と部下の皆に指示を出す。


「プフにガリアとキーナは側面から弓で射撃。なるべく額を狙え!肉を傷つけてしまうと困るかもしれない!カイラーとピコーは抜刀!確実に首を切り落とせ!流石に頭は食べないだろう!」



 その言葉に従い、馬を降りてすぐに戦闘準備を始める。


 エルフだけあって弓の使いに慣れているのだろう、飛び降りると同時に矢筒から矢を引き抜いてすぐに撃てる体制につく。



 エルデリアも月のエルフ達のそれを見て、自分の部下に弓の用意をさせる……森の食糧も冬の間は少ないので目的は月のエルフ達と同じだった。


 当然自分たちの獲物は『狩った分』しか貰えない……それも教えて貰う以上は、ウルフ肉の半分近くは材料提供として供出せねばならないと考えておけば1匹でも多く狩りたい。


「良いかお前達!俺たちは右側を殲滅する!体躯の良いあのリーダーは絶対に逃すなよ!メフィーとエクラは抜刀後前進!アセリーにブーケは弓を用意!エリケは魔法で頭のみ狙え!『月の』と同じ理由だ!肉はなるべく傷付けず多く残せ!」




 エルフ達にとっては待ちに待った状況であり、騎士達にとっては『恐怖』の幕開けだった………

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