第243話「ユニークアイテムの鑑定と合言葉」

男爵の指示の元篝火を大きく作る騎士達は疲れきっていた。


 安全と思えるくらいの規模を作るのに半刻程費やしていた。


 当然この間に男爵は食事も作らせるが、その量は騎士団で食べるにはまったくもって少なかった。


 遠征準備の食材など用意しても男爵は部下にはろくに与えない……しかし自分だけは大量に貪り食う始末だ。


 その頃空腹に耐えながら6名の騎士は来た道を戻っている。


 夜間なので魔物に出くわす確率も増える上に、夜行性の魔物は獰猛だ。


 普段は平原や岩場で目立つフォレストウルフも遠出して獲物を探す位だ。



 騎士6名でも、フォレストウルフの4頭以上の群れ相手に夜であれば些か分が悪い。



 ウルフの遠吠えが木霊するたびに、騎士達は馬を止めてビクビクしながら周りを見回す……ターズの指示だ。



「いいか……我々は生きてあの騎士団に帰らねばならん。半刻は既に道を戻ったあと2時進も戻れば見つかる。切り離した腕を探すだけだからな!」



 ターズがそう騎士達に言うと、騎士の1人が不吉な事を言う。



「ターズ騎士団長発言を良いですか?」



「うむ!許可する!もしウルフの事ならば不安がるな。あんなの幾ら来ても物の数には入らん!」



 騎士の言葉を先回りしてターズは言ったつもりだが、騎士はもっともな事を突きつけてきた。



「はい!ターズ騎士団長であれば問題はないと思っております。ですが……実は思っていた事が……ウルフの遠吠えがすると言うことは、『あの現場』まで急がねばならないのでは?斬り落とされた腕はポーションで傷を癒した訳ではないので『血の匂い』を漂わせてウルフを呼ぶのでは無いでしょうか?」



 騎士のその言葉で全員が顔を見合わせる……『その通りだ!』と言う顔だった。



「でかしたぞ!その助言は騎士団たるに相応しい考えである!ウルフに咥えられどっかに持っていかれれば見つからん!いいか!?今から最速で駆け抜ける……あの黒いエルフが来たら我に任せてお前達は先に行け!このポーションはお前達がもっていけ」



「ですが……」



「あのエルフの仲間が何もできずに死んだのだ……我でも数分と持つまいだから我が囮になって『逃げ回る』だからその間に距離を稼ぐのだ。何私だって死ぬ気は無い!」



 普段は如何なる敵にも背を向けるな!と言っていたターズ騎士団長が、逃げ回ると言った時点で騎士達の中の尊敬は大分薄らいだが逆に近しい物を感じてもいた。


 騎士達は馬の速度を上げて来た道を戻る……しかし彼等の探し物は見つかるはずは無い……戻っても腕は無いのだ。


 既に魔導士学院で全貌を聞いた事で『対処済み』だからだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 伯爵達の秘薬護衛隊は、襲撃があった場所から少し右方向へずらした所へ移していた。


 大きな岩が円を描く様に並んでいた為、そこにキャンプを設営したのだ。


 周辺は今晩もチャーム効果で魔物だけは安全だ。


 既に襲撃も終わったので、エルフの戦士が仕返しに来ることと野盗だけ注意しておけば良い。


 あとは、ヤクタ男爵が斬り落とされた腕に未練を感じて、探しに来たら相当な『馬鹿』であると思うしか無い。


 目の前では月のエルフと大地のエルフが舌鼓を打ちながら相変わらず肉を頬張っている。


 交代のエルフが岩場から颯爽と降りてくる。


 切り立った岩場だがエルフにして見れば平地とあまり変わらない様だ……森で暮らしていれば木に登る事が多々あるそうで垂直な壁でも登る手段があるそうだ。


「先程大きな篝火が出来ました……時間にして3時進程帝国領に向かった辺りですね……様子を伺ってきましょうか?」



 エルオリアスが伯爵に聞くが伯爵は手を振って応える。


「いやいや大丈夫だ……罠は仕掛けただから………ククククク……イヤすまん……余りにも上手くいったので思い出すと笑いがな!奴等が盗んだ『宝』は『馬のフン』なのだよ……ちゃんと説明するとだな」


「文字通りギルド管理している馬でな。ソイツの尻から出すアレだ!くっくっくっく……王様に早く言って『黒箱の解錠』をして貰わねば……奪った物を帝国に持っていくと言っていたからな……直接見れないのが非常に残念だ」



「ハッハッハ!そんな事をなさったとは……伯爵様は意地が悪い!先程小耳に挟んだ『馬の骨が馬のフンを持って出た』と言ったのはそう言うことか!ハッハッハ!」



 側にいた月のエルフも大地のエルフも大爆笑だった。



「それにしても安全な夜だな……魔物の気配がこの周辺はほぼ無い。伯爵はよほど強運をお持ちなんだな……大概夜中までには平原オオカミが襲って来るんだがな……」


 月エルフの一言に僕は『鑑定チャンスが!!』と思ったがよく考えればエルフが全部倒してしまう。


 鑑定する前に『遺骸』になってしまうのだ意味がない……


 そんな話をしていると、遺骸で思い出した事があった。


 ヤクタ男爵の『左腕』だ正確には『底無しのグローブ』の事だがあまり変わりはないだろう。


 僕は食事中の皆の前で、斬り落としたヤクタ男爵の腕を出すわけにはいかないのでクロークに手を突っ込んで底無しのグローブだけ外せるか試す。


 念じてみると部分的に外せたので複雑な使い方も可能な様だ。


 拳部分の装飾品だが今は片方しか無い……じっくり眺める様に『鑑定』する




◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 強欲の左手「左手グローブ・装飾品」


『ユニークアイテム』 (ランク:⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)


 錬金可能マジックアイテム


・防御 35 装備品・グローブ


 マジックバッグ『特殊』

・接触面に関わらず回収可能。

 ※サイズ指定なし

・グローブ内側に高次元収納。

 ※個数制限なし ※生き物は収納不可

・合言葉設定アリ『4件』

  『※※※※※※※※※※』契約者

  『※※※※※※※※※※』契約者

  『※※※※※※※※※※』契約者

  『※※※※※※※※※※』契約者

 ・鑑定LV不足により契約表示不可

 ・合言葉鑑定不能


 『マスターキーワード』強欲の王

 ・キーワード変更不能


 このグローブは、はるか昔に錬金術師に

よって造られた。


 素材は、『強欲の王』と呼ばれる魔物の

斬り落とされた手を加工した装身具であり、

主にグローブに装備して使う事ができる。

ユニークアイテムである。


 マスターキーワードを使い、アイテムの

合言葉をリセットできるが、中身は全部排

出される。


必要素材


 強欲の王の掌、赤龍の逆鱗、精霊の雫、

ハイドホラーの外皮、流体オリハルコン、

聖樹の枝、黒龍の外皮


 ※鑑定LV不足により表示不可


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 どうやら鑑定の話は『魔導士学院』で詳しく調べる必要がある様だ……かなり詳しく鑑定できたが、合言葉が『リセット』出来るとは聞いていない。


 中身が出せるとプラム魔導士も喜ぶ事だろう。


 ひとまず『リセット』しなければ魔獣の遺骸も取り出せないので、街に戻ったら何か言い訳をしつつ中身を取り出さねばならないだろう。


 決してマスターキーワードを教える様な事はしないほうがいいだろう。


 あの学院はあまりにも管理がザルだから、一番危険そうな情報は伏せておくべきだ。


 それにしてもユニークアイテムの鑑定は出来ていても、鑑定では分からない内容があるのは証明できた。


 話には『マスターキーワード』など全く話題に出てない上に、確認した所4件のアイテムが格納されている。


 何人の契約者の分が格納されているかを調べるには、もっと上位の鑑定スクロールが必要なのだろう。


 マジマジと僕が装飾品を眺めていると、感の良いエクシアが………



「ヒロ……お前……どうやってそれ手に入れたんだ?『例の』物だろう?プラム絡みのさ?」



 エクシアさんの強かさは本当に恐れ入る。



「そうですね……男爵が『黒箱』を目前に掲げて『とったどぉー!』ってやってたので『エイ!』って肘から下を『チョンパ』しました……」


 そういうと酒が入ったエクシアが大爆笑し始める………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る