第240話「馬の骨と馬のフンどっちも碌なもんじゃない」

それを見た追跡班はキャンプへと帰ってきて伯爵へ報告した。



「皆の者……予定外のことが多い日ではあったが、無事にことが進んだ様だ。無事『馬の骨と馬のフン』が共に『帝国』へ旅立った」



 伯爵のその一言で爆笑が起きる。……伯爵はヤクタ男爵を『素性の知れぬ者』とまで蔑み言い切った事に、皆が今までの鬱憤が晴らされた時であった。


 男爵が今日得たものは『馬のフン』で失った物は『底無しのグローブというユニークアイテム』に『鉱山の魔獣の討伐部位』そしてオマケの『左腕』だ……この後に伯爵が国王に拝謁した時点で『爵位』を失い、帝国に辿り着いた時点で『命』も失うだろう。


 無念にも鉱山で散った領民が、少しは恨みを晴らせると良いのだが………



 その伯爵の発言を聞かないフリをしている者が居た………



 横を見ると、マッコリーニが伯爵に追いついて居て、お付きとコック達へ指示をして食事の準備を始めている。



 スライム弓矢防御術を聞いたエクシアは『今すぐ太陽のエルフ狩りじゃ!根絶やしにしてやる』と怒っていた。



 因みにこのネーミングはロズ命名だ……スライムはこの変なネーミングにイラッとしたのかロズの顔にへばりつき、彼は危うく三途の川を渡りそうになったらしい。



 向こう岸では多くのスライムが飛び跳ねていたらしい……前世ではロズはスライムだったのかも知れない。



 そもそも今回の襲撃は『勝手な思い込み』での襲撃となった様で、両エルフの国から太陽エルフの国へ遺憾の意を伝えると言う流れになった。


 その後マッコリーニの一言で幸せなひと時に変わる事になる『ディナータイム』だ。



「皆様!大変お待たせいたしました!我がマッコリーニ商団にテッキーラーノ商団、そして氷菓屋より『夕食』で御座います。お口に合うと良いのですが……」



「こ!これは!?何という美味……かなり手の込んだ料理では無いですか!なんと……ホーンラビットの肉とコボルドジンジャーに魚醤ですか!」


 大感激で肉を頬張るのは月エルフ御一行の6名様だった。


「マッコリーニ殿。今宵も頂き申し訳ない!これは何度食べても飽きませんな……と言ってもまだ二日目ですが!森の恵みで作れる醤油ではダメなんでしょうな魚醤はエルフの里でも高価でして……エルフの里や国でも食べられれば嬉しいのですが」


 僕はそれを聞いて、森の恵みでできる醤油の製法と味に興味が湧いた。


 下手すれば味噌や米だってあるかも知れない。


 僕が食い気味に質問する。


「いや寧ろそっちの方が美味しく出来る可能性があります。魚醤は魚ならでわの臭みがありますが、それが得意無い人も居たりするのです。どの様な製法でエルフは醤油を作るのですか?」


 僕の質問に興味を覚えたのは、エルフの戦士達ではなく踊るホーンラビット亭のコック達だった。


 森エルフの『醤油』の一言で、僕は社会科見学で醤油工場を見せてもらった時の記憶を思い越す。


 中学の時の自由研究は家で作る『醤油』だった。


 母が家で調味料を手作りする事にハマっていたので、一緒になって作っていて日誌を作り始めからつけていたので折角なのでそれを自由研究にした。


 その時の知識を活かせば僕も再現が可能かも知れない。


 森エルフの隊長が事細かく説明をしてくれた。



「エルフの里には精霊豆と言うマメ科の植物がありまして、それと魔麦を使います。あとは塩水も必要ですので岩塩も用意する必要がありますね」



「精霊豆は大地のエルフ里の特産品なので販売許可を得ている人間には出入りが許されています。その商人を経由すれば取引は可能だと思います」



 マッコリーニがその言葉を聞き逃す筈もなく……魚醤と精霊豆の取引に持ち込もうとするので一旦僕はマッコリーニを止める。



 しかし、僕の質問も伯爵の一言で一旦終了にされる。



「すまぬな皆の者。私は既に自己紹介が済んだのだが、王都までは一緒に向かう事になったので自己紹介だけでも済ませておかねばならない」


「それに今回の光エルフ騒動は、彼等がいたお陰で此方側は酷い怪我もなく、明日からまた無事に王都へ向かえるようになった」



 ひとまず、今起きている『秘薬』絡みの問題について騎士団とバームの報告が粗方済んだところで、焚き火を囲みながら月のエルフ達との自己紹介が始まった。


 助けられた恩もあり、伯爵は助けられた側でお礼も満足に出来ていない。


 同行を断る理由がなかったので、自然と自己紹介が始まった。



「お招き頂き有難うございます。我々は月のエルフと言い、大地のエルフ同様この世界に一緒に住まう者です。訳あってこの世界の住民とは長きにわたり袂を分けていました」


「その事を語る許可を得て無いので、皆様には話す訳には行きませんが……兎にも角にも王都までの護衛は、帝都皇帝との盟約に従い可能な限り手助けさせて頂きましょう」


「ちなみに私はエルオリアス・エルフィンデルと申しまして、王国親衛隊の第二部隊の隊長をしています。共に居るのが私の部下で御座います」


 そういうと、部下が1人ずつ会釈をしながら名乗るが、隊長と違い長い名前ではなかった


 名前の最初に『エルフのエル』と付くのは、ある程度の階級になると付ける事を王から許されるらしく、エルフ共通だと言っていた……だから大地のエルフも同じらしい。


 大地のエルフと同じように『エルフィンデル』は王都の名前らしい。


 名前の成り立ちもエルフ共有の様だった。



 帝国との盟約と言っていたので国が違う王国とも有効なのか聞いたところ、人族との契約でありその後起こり得る国の分断には関与されない盟約だと言っていた。


 国王はマーナガルム・エルフィンデル・シャドウ・ムーンと言うらしく、王妃はアセナ・エルフィンデル・シャドウ・ムーンと言う事を教えてくれた。


 今の月エルフの王国名などを詳しく知る者は魔導師ぐらいと言っていた。


 人間には『影のエルフ』と総称され、『闇のエルフ』と間違われる事もしばしばあるらしい。


 ちなみに帝国との盟約は500年以上も前らしい。


 その際に、月エルフの国王から帝国の王へ貢ぎ物として、ユニークアイテムが齎された事を教えてくれた。


 しかしその後に、理由があって月エルフは周囲との国交を閉ざした様だ……その理由はあまり良い話じゃ無いらしくエルフは語らず、その空気を察してコッチも聞かずだった。


 因みに、その後に大地のエルフと王国が盟約を結んだそうだ……空気を察して大地のエルフ親衛隊隊長エルデリアが教えてくれた。



 大地のエルフ親衛隊隊長は、この待ち伏せの件を伝えていたので詳細を聞きたかった様だ。


 その事を聞いた月エルフ達も興味を持ったらしく、自然と視線が伯爵へ集まる。


「事の始まりは、強欲な1人の貴族が原因でな……事もあろうに我が国の魔導士学院の講師を脅し、ダンジョン産のアイテムを強奪したうえで、それを行使して王への献上品を奪おうとしたのだ」



「献上品の内容は関しては流石に言えぬが……あの積み荷を見れば、まぁ判ってしまうな……人間同士の醜い争いに巻き込んでしまいお恥ずかしい限りだ……こんな事を繰り返す人間が見限られるのも致し方ない事よな」



 伯爵は『秘薬』の存在を明らかにはしなかったが『耳の良い』エルフなので、もう知られていてもおかしくは無いだろうと考えてはいた。


 何故ならば、あのヤクタ男爵が事あるごとに秘薬だー秘薬だーと言っていたのだ、聴かれてない方がおかしいだろうと思っていた。



 ちなみに捕虜にした太陽エルフの戦士も、今この焚き火周りで暖を取りながら、足の傷に傷薬をかけられてご飯を貰っている。


 彼は捕虜だが、現代人の僕は捕虜規定が気になって聞いたところ、種族間には適用されないと言っていた。


 その上、太陽のエルフは現在何処の国とも国交を一方的に閉ざした為に特に問題視されていた様だ。


 だが、どうにも人権問題が気になってしまい怪我の様子だけ見させてもらった……この様な態度が玉虫色と取られるのだろう。



 エルフ達はすごくビックリしていたが、一番びっくりしたのは戦士本人だった。


「す……すまない話は今聞かせて貰った……我々の過ちだ。アイツは特にプライドが高く何時も問題を起こす。しかし有力者の孫なのでな……私が代わりに謝らせてもらう」


「それと、話の途中で弓を射るなど卑怯千万……本来我々は口上を述べて記憶に留めたのちに戦う作法がある……それさえしなかったアイツはもはや太陽の戦士とは言えない……何なから何まで本当にすまなかった」


 今の話を聞くと口上の前に既に矢を射掛けたよな?と思ったが、彼はしていない様だ。


 彼だけでも口上を述べてから戦士として戦おうとしたのだろうが、先にやられてしまった様だ。


 そんな風に謝られれば、話せば分かり合えるかも……ならば最低限の捕虜扱いとして飯も用意せねば……なんて甘い事を考えてしまう。


 それを見た周りは頭をブンブン振りながら『命狙われて面倒見るなんて……甘ちゃんだよな!』って半分呆れていた。


 まぁそれも当然だろう……しかしそんな気持ちを棄てれば『穢れ』はどうにかならないだろうか?と考えてしまう僕だった。

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