第230話「レガントの目標とギルド新メンバーの可能性」

それでも若干納得がいかないそぶりを見せるレイカを見て、僕は不思議に思った。


 なぜそこまで王都へ行きたいのだろうか?


 街娘の憧れの地であったとしても命と天秤にすれば間違いなく今回は諦めよう……となるように話したつもりだ。



 よく観察すると、レイカの目線の先にユイナ達がいたので何となく意味が分かり、話を付け加える



「それと、今回は現地に行くのは僕だけで、他のメンバー達は街で昇格試験や試験を受けれる様にの追い込みです。」


「食材を揃えてユイナさん達を呼べば、料理くらいはして一緒に食事くらいはしてくれると思いますよ?」



 突然会話に自分の名前が出たユイナは……意味を理解した。



「ああ!レイカちゃんは私たちも一緒に行くって思ったのか!ここのギルドに夕飯の素材を持ち込めば何か作ってあげるから!持っておいで?」




 優しくユイナが言うとテクテクとユイナの方に歩いていき懐くレイカはユイナの妹の様にも見えた。


 ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 酒もツマミも十分あるので、レガント達はここぞとばかりに腹に詰め込む。


 料理は街一番と言われる、踊るホーンラビット亭の飯だ不味いわけがない。



 酒が進んだ後にエクシアがレガントに質問する。



「なぁレガ?アンタ達は銅級冒険者になった後はどうするんだ?王都にでも行くのかい?」



 既に打ち解けたので、レガントは名前を略されてレガになっていた。


 そのレガが自分の夢をエクシアに語り出す。



「エクシアねぇさんそんな筈ないっすよ!俺達はここで頑張って名前をあげてから……このファイアフォックスか、希望の盾もしくは貴族お抱え冒険者を目指してるんですから!王都へは行きません。今のところですが……ダメならその先に考えます。」



「まぁ全員が銅級になってからですね……せめて俺が銀級になれたら王都で腕試しもいいかもですが……それよりやりたい事があるんですよ!」


「トレンチのダンジョンを踏破する事と、その次の目標は、この周辺のダンジョンを捜すんです!それで俺は『ユニークアイテム』を手に入れるのが夢なんですから!」



「ほう!ユニークアイテムに事を知っているのか!ちゃんと勉強してるんだな。まぁかなり確率が低いが目指して頑張らなければ獲得なんぞ夢のまた夢だしな!」


「アタイもユニークアイテム欲しいわ……」



 そう言って僕を見るエクシア……周りが気付くからやめて欲しいもんだ。


 そう思っていたが、エクシアが唐突に……


「エガお前達が銅級に全員なれたら、ロックバードの村で村長から『推薦状』を貰って来な!無事貰えたらここのギルドの入団試験を受けさせてやる!」



「その推薦状を貰える位じゃなと、ここのギルドでは死んじまう。悪いがそこは最低ラインなんだ」



 その言葉を聞いた僕は余計な事を言う。



「フォレスト・ウルフが狩れないとお肉に困りますもんね!?皆さん……旅程は肉が無いとエクシアさんはお酒も飲めないから。まぁそのテスト内容が妥当ですよね!」



 試験内容をバラし、さらに酒のつまみと言った途端ロズ達が笑い始める。


『酒と肉は遠征時の唯一の楽しみさ!』と笑いながらエクシアが言ったところで、僕はレガントに提案を出す。


「今はお互いのパーティーから2名ずつダンジョン攻略に移るのであれば、今駆け出しに残っている5人で臨時パーティーを組めば明日に満足に冒険できますよね?」


「いずれこのギルドで共にやって行く仲間なんだし、今から連携を覚えるのも良いかもしれないですね?」


「ダンジョン攻略に関しては4名揃っているなら、あと2名現地で募集して連合組んでもいいですし。そうすれば5階層までは行けそうじゃないですか?」



 その言葉に残されているミクもカナミもレガントのパーティー3名も新しいメンバーでパーティーを結成できて安心したようで、ソウマとユイナそれにゼロイックとヒーナがお互いを見合って『5回宝箱取り行くか!』とやる気が満々だ。



 明日からの臨時パーティーが決まったところで、時間も遅いから今日の飲み会はお開きになった。


 時間的にはまぁまぁ遅いが、大きな理由は明日から大遠征があったからだ……因みに携帯の時間は既に夜9時になる頃だった。



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 僕達は宿まで戻ると、交代で風呂に入った。


 その間に夕食を用意していてくれたので、僕は半分食べて残りのそれをスライムにあげた。



 スライムは大食漢で、あればあるだけどんどん食べる。


 まぁ今日は特にお腹が空いているかもだ。


 エルフとの一戦があったので、良い運動だっただろう。


 スライムにカロリー消費があるかは不明だが。



 僕は明日からの『王都遠征』を宿の主人に伝えておく。


 ちなみに宿は貴族特権を使用してキープしてもらう。


 費用は払ってもいいのだが、宿の主人はキープなら『貴族特権で処理せよ』と既に言われているらしい。



 宿屋の主人の説明では貴族特権を使った場合、多くの冒険者にもその宿の名前が知れ渡るので、同じ宿を運営する職業では同業者に自慢になるらしい。


 貴族特権を使った宿は、その貴族と勿論面識が持てる。


 なぜかと言えば宿泊費が当然発生し、初回は必ず執事が支払いするからだ。




 ちなみに『貴族特権』の効果は凄まじく、帰って来た時に宿の前まで上級宿屋の案内人が列をなしてセールスに来ていた。


 簡単な自己紹介から始まり、多くが自分達の宿の自慢だった様だ。



 僕は明日が早いので、申し訳ないが変える気はないと伝えて早々に帰ってもらった。



 何故こんなに必死に勧誘したかと言えば、貴族特権を出すまで世話になった冒険者の場合は2度目がある場合も多い。


 冒険者の常宿ともなれば、何かあった場合には貴族からそこに連絡がいく……何度も伝言を依頼すれば当然貴族からの信頼も厚くなる。



 それに冒険者は遠征で街から出たとしても、以前使った宿に戻って来ることが多い。


 勝手知ったる宿だけに、一から全ての関係を始めるより遥かに楽だからだ。


 宿で風呂を貰い、皆で翌日話やこれからの予定を決めて部屋に戻った。


 こうして僕の朝から護衛任務で忙しい一日は終わった。


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『ヤクタ男爵の企み-悪巧みに至る経緯』


 以前、小国郡の貴族が抱える騎士団が、砂漠地帯にある『未報告のダンジョン』で『秘薬』を手に入れた。


 その騎士団の団長は、金に汚い貴族のやり方がどうにも許せなかった。


 騎士団を使い弱き領民から搾れるだけ税を搾り、払えなくなった場合は家族を人買いに売らせ金を工面させていた。


 領民が村を捨て、所属領から逃げ出したことも両手の指の数では足らない程だった。


 このままこの領主の元で同じ事を続けていては、死んだ時に報いが絶対に来ると思った団長はこの『秘薬』を用いて領民を救う事を考えた。


 敵国の『帝国』へ渡り、地位を得てこの腐った貴族の領土に戦争を仕掛ける気だったのだ。


 そこで、自分を慕う騎士団員に事情を話すと、快く従ってくれた。


 帝国に渡ったのち『皇帝』に面会することができた彼は、『秘薬』と引き換えに帝国領の『爵位』を与えられ、彼の希望した帝国で一番端の領土を与えられた。


 騎士団長が望んだ場所だったが、しかしそこは領土とは呼べず戦争時に使われる物見砦しかなかった。


 そこで元騎士団長に皇帝陛下より『皇帝直属の騎士団』を貸し与えられ、その上戦争に必要な物資全てを与えられた。


 帝国はその貴族が行った悪事を全て白日の元に晒し『人民の敵』として戦線布告をして、小国郡の領土へ元騎士団長を攻め込ませた。


 当然元騎士団長の行動に感動した領民が、街や村を捨てて共に戦線に加わった。


 そして戦争開始から四日目に、貴族が治める街は内部から崩壊した。


 街の衛兵も主人である貴族に嫌気がさしており、なんとかこの街と領民を救いたいと思っていたのだ。


 その後、衛兵の手により無血開城され腐敗貴族であった主人は、見事に打ち倒され騎士団の団長はこの占領した領土の主となった………



 この話は数年前に起きたばかりの事件で、全土が衝撃を受けた占領戦だった。

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