第217話「食事時のお勉強会……胃もたれしないのかな?」
アープの友達である4人の子供達は、僕と学長の話を終わるのを待っている様だ。
さっきからソワソワしている。
もしかしたらこの後の授業も僕がやる事になるのだろうか………
「ところで学長、このランチの後は何の授業なのですかね?」
「いえ?授業はございませんよ?受講時間の兼ね合いで自宅に帰してからだとお腹が空くのでこの時間に食事をさせているだけなのです。魔法を使う者は燃費が悪いですからね。」
「ああ!そうなんですか、この後授業でもしかしたら僕がとか思ったので……この子達がなんかソワソワしてるので………」
「お話の最中に申し訳ありません。お食事が用意できましたので、お出し致しますね!?温かいうちにお召し上がりください。」
そう言ってビラッツの指示で机の上に食事が並べられていく。
どうやら魔石を使った加熱方法が存在するらしい。
並べられた食事はちょうどいい熱加減に温め直されていた。
「すごぉぉぉい!一度私食べたかったの!」
「私もぉ〜!お母様が予約が取れないからまた今度って食べれなかったのぉー」
「そうで御座いましたか!これはこれは、ではお付きの方には先程ですが面識を得たので是非直においで下さいまし。特別室もございますので今度はそちらにご案内を致しますね!」
「本当にー!?やったーお父様にお願いします〜」
「私もお母様におねがします〜」
この一言でビラッツは見事に顧客ゲットをした様だ。
「ところで先ほど言われた件ですが、この食事の時間は自分の担当講師のそばで食することが多いのです。その時に色々と為になるお話があるのです。話の内容は講義時に話せなかった魔法やノウハウとかが主ですが。なので皆ヒロ様のそばに席を取ったのは演習時間の件で期待しての事ですわ。」
「確かにアープ御令嬢のお付きであり、そもそもが冒険者であるのでその様なことは知りませんものね!事情があって特別講師を請け負って頂いただけなのに、また私ってば生徒の皆にその旨を言うのを忘れてました。申し訳ない事です。」
「皆さん!この魔導師様はアープ御令嬢のお付きであり当学院の特別講師ではありません。従ってプラム魔導士の時に話されていたお話はありません。ちゃんと説明できずにすみません」
そう言われてた生徒達はひどく悲しい目をしていた。
皆の見る目が痛いので冒険の話でもするか……丁度モンブランと水っ子が信奉者を欲しがっていたからその話をするかな。
「では、折角なのでちょっとした小話をしましょう。」
「良いですか?今から話すのは、聖樹と精霊の話です。」
急に周りがザワザワし始め他のところで話をしていた先生方までも僕の話に反応を示す。
話すと言ってしまった手前もう後には引けない。
「皆さんは聖樹と精霊を知っていますか?」
「聖樹は今でも各地に存在します、ただし今は危険な場所である為に僕達がそうそう行ける場所では無いのです。しかし昔は沢山生えていたという話です」
「聖樹は数は減らす事があっても無くなることはありません。一度聖樹としての役目を終えても、からずまた聖樹としての役割の為何処かで芽吹く樹木なのです」
「聖樹はあるがままを受け入れる定めに有る為に、特別に誰かに味方をすることはありません。しかしとても自由な性格なので結果的には何かと助けてくれます。その他の特徴とすると常に自分の周りを加護する役目を担っています」
「但し、守れる範囲は限定的なので木の大きさに比例します」
「守護範囲がある為に、勘違いする輩も多いのが実情です。聖樹は何があっても守ってくれると……しかし皆さんの中には知っている人も居るはずです」
「聖樹から葉をもぎ取ると即座に枯れる話を。それは本当の事です」
「しかし気に入った人にはちゃんと葉を分けてくれます。その場合は自分が意図せずとも、勝手に頭上に舞い落ちます」
「僕の知っている聖樹はとても大きな巨木です。名は『モンブラン』と言い僕の住んでいた場所では『大きな山』の名前でもあります。意味は『白い山』ですね。」
「次に精霊の話ですが、精霊はまだこの世に存在します。詳しくいうと、他の次元を介してこちら側に来ます。」
「水精霊であれば水面を門として、水そのものを使い実体化します。それを『化現』と呼びます。」
「精霊種は初級、中級そして上級精霊が居ます。中級精霊は初級精霊達の注目を浴びたがります。それだけ中級精霊は人気があります」
「ですが、上級精霊は中級と異なりしっかり者です。皆の面倒をよく見るおねぇさん的な存在です」
「聖樹と精霊に共通して言えるのは、人間や他の生き物の信仰心があればより力を増すことができると言う点です。なので『居ない』とか『信じない』と言うと、力が落ちてしいます。それに信じていない人には力は貸してくれません。」
「なので皆さんは魔法を扱う者として、ちゃんと自分が使う魔法形態の属性に類する精霊は敬いましょう!それが魔法使いとしての何を差し置いてもするべき最初のレッスンなのです」
「あと見た事がなくてもちゃんと、聖樹の事も敬いましょう!そうすればいずれこの街にも新しい聖樹の新芽が芽吹く事になるでしょう!」
「以上です。」
「先生〜質問です!」
「聖樹の葉を貰ったことがありますか!?」
「ハイ。ありますよ!?スライムが主食にして『いました』」
僕はそう言ってカバンからスライムを取り出すと周りがザワザワする。
「このスライムは僕がテイムしていますので安心です、先生方で感知魔法が使えればそれでわかるはずです」
「本当だわ……何故か敵対サインが出ないわね……」
「凄いことじゃな……こんな近くてテイムされた魔物を見るなんぞ……王都でも行かねば見れんのにな」
などと口々に話し始める。
僕がちびっ子の質疑応答をしているとあっと言う間に時間がすぎて昼食時間が終わる。
最後に質問した子の内容が問題だった。
「銅像を壊した『ウォーター・スピア』ってどれくらい勉強すれば使える様になりますか!僕もそれを覚えて一流の水魔法を使える宮廷魔術師になりたいんです!」
「ま…まずは魔石を回す特訓をしましょう。このくらい自由に回せれば使える準備は出来る頃合いです」
そう言って内ポケットがあるかの如く魔石を取り出すと、人差し指に立てて『◇』ぐるぐると魔石を横回転させる。
錬金術の時に勉強した応用で、周りを魔力で二重に覆い、内側だけを回しているだけのトリックだ。
それを見た先生の見る視線が痛い………あとで子供騙しだと怒られるかもしれない……
まぁ僕は講師じゃないから大丈夫だろう。
アープの付き添い時以外は聞かれることはないだろうし……
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
何故か僕がアープの側に付き添い出口に向かう途中、生徒からは『先生さようなら!』とほぼ全員から声を掛けられる。
それも担当していない他の受講生からもだ………。
「それでは、学長今日はお世話になりました。また今度ゆっくり『魔導書』を読み漁りにきます!」
「是非是非!今日は講義をしていただき有り難うございます。つきましては、講師を引き受けていただける様出来るだけ前向きに検討をお願い致します」
「僕昨日銅級に上がったばかりなんですよ……なのでできても当分先ですし、もし出来ても今日みたいな臨時講師……」
「臨時講師でも全然!一向に構いません!」
僕はこれ以上此処にいるとミーニー学長の迫力に負けて、押し切られそうだったので、アープちゃんに馬車に乗る様に促す。
因みにクゥーズの問題児は男爵命令でこの学院内の空き部屋で衛兵が見張りをしている。
プラム魔導士はランチ後に学院からヤクタ男爵家へ向かっていった……スクロールを持ってだ。
学長の話では、伯爵の息子はクゥーズから目を話す事が出来ないらしく、未だ衛兵の見張る小部屋を罵りながら見張っているとの事だ。
アープへの好意が行きすぎて、恨みから何かウッカリやらなければ良いのだが……ちょっと心配になる。
こうして僕たちはそんなに距離のない『男爵邸』へ戻っていく……
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