第216話「騒がしい男再び」

「じゃあアタイ達は先にギルドに向かうよ。『初の護衛任務』よろしくね!」



 軽く言うとエクシア達は学長室から出て行く。


 学長はすっかり疲れきた顔で僕を見て、『本当ホンモノの冒険者って大変なんですね……』と言っていた。


 学長室内の待合室に置いてきたアープは、僕のリュックからスライムを出して遊んでいた。


 プッチィは僕のリュックを外から眺めつつも、決して触らない様にはしていた。


 不思議な素材であると感づいた様だ。



「お帰りなさいませ。結構長話でしたね……アープちゃんも今日の講義を受けた報告日誌と感想を書いて、既に教室へ届けに行ってきました。」



「これから生徒達のランチタイムなので、下の食堂までお願い致します。」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ハイ!食券はこちらです。注文後お知らせパネルを受け取ってから席におすわりになってお待ちください。」



「注文がお済みの方は座席は自由ですので、好きな席にお座りください!」



 食堂では受付嬢が注文を取りながら座席へ誘導していた。



 多くの生徒が既に注文を済ませて、座席に座り友達と談笑しながら食事が来るのを待っている。



 ここの料理は街に店を構えるお店が営業しているわけではなく、料理ができる町民を雇っている『なんちゃって食堂』だ。



 お金のない一般受講者はここで食事を買う。



 逆に貴族の殆どは、自分の家から食事を届けさせていた。



 そんな中一際目を引く男が現れる………




「ハイ!ハイ!ハイ!みなさん失礼いたします!ちょっと通して頂けますか!?おおー!!いらっしゃいました!捜しましたよぉ〜アープ御令嬢に〜ヒロ様〜!」



「ファイアフォックスに行きましたら既に朝早く単独の護衛任務に行かれたと聞いたので、本日はお弁当をお渡しできないかと思いました〜!」



「よくよく話を伺ったら魔導士学院と言うじゃありませんか!以前よりここの学長には『貴族向けの昼食提供』がどうにか出来ないか?と言われてまして!今日は『その打ち合わせ』を兼ねてきた所存です!」



「ちゃんと、アープ御令嬢様のお弁当もお持ちしました。ご学友のお弁当も勿論!ご用意させていただいてます。『今すぐ』ご用意いたしますね!『料理長〜準備をお願いします。」



 周りが非常にざわつく……怪しい人間が入り込み大声をあげれば大抵こうなる。


 誰かといえば、こんな奴はもう1人しかいない……『ビラッツ』だ。


 どうやらランチタイムは店の者に任せて、この魔導士学院まできた様だ……迷惑極まりない



 しかし僕が心配したのとは裏腹に、周りの貴族や一般市民は『尊敬の眼差し』でアープを見る。


 アープは皆に見られたので恥ずかしくなって、先程のお友達4人を『おいでおいで』する。


 そして遠慮がちにも集まってくるお友達4人



「アープ様のご学友ですか?私ホーンラビット亭の支配人で『ビラッツ』と申します。今後ともよしなにお願い致しますね。もしお父様かお母様に昼食の件話す機会がありましたら、『是非ホーンラビット亭においで下さい』と申してた。…とお伝え頂けますか?」



 危険人物ビラッツが幼児おさなごに近寄ったためにお付きが集まってきた…………と思ったら違かった。


 この機会を逃がさんと、お付き達は面識を持つつもりの様だ………五月蝿いからやめた方がいいのにと思ったのは秘密だ……



「もしや後ろの方がお付きの方ですか………ペラペラ……ペラペラ……ペラペラ……」



 ずっとペラペラしていたので、よく喋るなぁと思っていたが、『ビラッツ』はべしゃり担当でそれ以外の用意に関しては店員と料理長が全部担当している様だ……全員ある意味手際が良い。


 そして食堂フロアの騒ぎを聞きつけて、学長室から降りてくる……学長


 そして遠巻きからビラッツを見つけるなり、猪突猛進してくる……どうやらビラッツはある一定の層にはかなり好かれている様だ。


「これは!これは!踊るホーンラビット亭のオーナー『ビラッツ』さんでは無いですか!後ろに居るのは………『料理長様』ですか!まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ!!どうして当学園に?も……もしかしてランチタイムのことを考えていただけるとか!?」



「これはフラウ学長!、当然でございます!まさか我が店を懇意にされていたアープ様が『ご通学』されていたなんて!!このビラッツ『痛恨の極み』でございました!クリスタルレイク家のウィンディア様には格別なご贔屓をして頂いております。お嬢様のお食事を用意できずこの街にお店なんぞ構えられましょうか!」



「今すぐ食事を用意するところですので、宜しければ学長様もご一緒なされては?」


 その言葉に感激が隠せない学長は即座に空いている席に座ろうとするが、ビラッツは素早く周りを縫う様に移動したあと座席を引き座りやすくする。



 こんな行動をすぐにできるビラッツは、普段と違うなぁ……と思ってしまう一面だ。


 だが僕はビラッツの言葉にしっくり来ないものがあり思い出した途端びっくりして聞き返してしまう………



「え!!………フラウって……『フラウのサモナーリング』の作者のフラウさんですか?」



「え…………何故リングの名を!?そのアイテムを作った人は初代です。『我が偉大なる先祖 ライフ・ハームスター・フラウ』の事です!」



 え?ハムスター?と聞き返しそうになった………。


 しかしそこに運良くきたのが副学長と呼ばれる人だった。



「あら!終わりましたの?こちらです!」



「ビラッツさん宜しいですか?もう一名……私の夫でございまして、副学長をやっている……………ああああああ!」



「ヒロ様申し訳ありません!ワタクシとした事が!自己紹介もせずにさらに満足なお詫びもせずに!今までずっと!」



 自分の夫の自己紹介をした事で、自分が名を名乗っていないことを思い出したらしい。


 なんかこの名前を知らない件はデジャブの様だ………。


 学長室に入った瞬間エクシアが問題解決に入った為、謝罪どころか自己紹介さえしていなかったのだ。



「私はミーニー・ラットリング・フラウと申します。魔導士学院の学長をやらせていただいてまいす。こっちはミッチィ・ラットリング・フラウと申しまして、副学長をしています。因みに私の夫です。」



「はじめましてミッチィ・ラットリング・フラウです。この度はこの様な食事の席に誘っていただき有り難うございます。そして我妻が粗相ばかりで申し訳ない……そそっかしいので良く落ち着きなさいとは言っているのですが……」



「ホッホッホ……良いではありませんか!私もそそっかしくて似た経験がありますよ!ヒロ様とそのお仲間様に間抜けにも料理勝負を挑んだ事がありまして………知識だけでまぁ〜コテンパンでした!……自分の出来の悪さを呪ったものです……間抜けさが抜けないと料理長に怒られてばかりです……お互い気をつけねばですな!」



 それってアンタ……ミーニー学長が間抜けと言ってる様なもんだぞ!と言いたかったが辞めておく事にした……。



「おい……ビラッツそれが余計なんだ……今のセリフ思い返せばかわかるが……そそっかしくて似た経験と言ったところで、学長はお前に似ていると言った様なもんだぞ……その上にお互い気をつけようだと?全く……」



「本当にバカで申し訳ない……今日はいつもより私が腕によりをかけたのでそれで許していただきたい!」



「ハハハハハ!申し訳ございません!ほら怒られたでしょう?」



「まぁまぁ!構いませんよ本当のことですから!それにそんな言葉で料理長の料理が食べれるならいくらでもです!ほほほほほ」



 この掛け合いがコントの様で周りの笑いを誘う。


 料理長もビラッツに関しては、どうやら僕と同じ考えな様だ。




「先程のご先祖さまの話なのですが、そのフラウさんの作ったリングを仲間が持っているのですが、このシリーズはダンジョンで見つけたので……形見のようなものだったりするのかなぁと……」



 ミクが使っている以上、今すぐ返すことは出来ないだろう。


 既にクルッポーを使役している為だ。


 そもそも魔物の自然への返し方もわからない。


 それに万が一返すにしても、街中では魔物だけに絆がなくなったら人を襲いかねないので心配になった。



「いえいえ、ご先祖であるライフは生前リングを沢山作っていますので、それらのアイテムが形見と言う訳では無いのです。彼女は多くの動物を愛していたので数多くのテイム用アイテムを作り、多く流通させたのです」



「その全てを使い、力で従えるのではなく心で繋がっていたと言います。彼女の生前記した日誌では、彼女が作ったマジックアイテムで動物を従えた場合、大きく2つに分かれるそうです」



「まずは先程言いました、心で繋がる場合。この場合は、はっきりと違いが現れマジックアイテムに絆の光が灯ります。この場合テイム中の動物が持つ能力の一部を自分が使えるらしいのです」


「しかし未だかつてその力を発揮した者はライフ……彼女だけだったと言われてまして、今ではマジックアイテムを一つでも多く売るためのデマと言われてます……残念ですが……」


 ミクがいればもっと深い話ができただろう……僕が使役しているのはスライムであり、スライム使役のリングやネックレスは持っていない。


 実際にクルッポーとは心で繋がっただろう絆の光に様なものがあった。


 ただ問題は『動物』ではなく『魔物』だが……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る