第211話「お子様魔法基礎学講座の空気に負けた僕」

「この度は誠に有難う御座いました!皆様方のおかげで当学院の信用は守られました!なんとお礼を………」



 お礼を言っている最中の学長を押しのけて子供が群がる。



「全然プラム先生と違うー!水が出て『ポン』じゃないのですか?」



「先生すごぉぉぉぉい!アレは水魔法なのですか!?」



「なんて魔法なのですかーー?アレはいつか私にも使えますかー?」



「アレはプラム先生が言ってたウォーターの強い魔法ですかー?でもプラム先生と全然違いました!」



 今まで魔導士プラムがやっていたウォーターとは威力が桁違いだったので派手なことが好きな子供達にはウケたようだ。


 運動場にある水魔法実技専用の一角で起きた事件だが、魔導士学院は座学と実技演習が完全入替制だった。


 その為、多くの生徒が各種属性魔法の実技演習中ともあり、この状況を見てしまった。



「皆さん!良いですか!この先生なら凄い魔法が使えます!学長が何としても水魔法講師としてお呼びしますから!コレから楽しみにしていてくださいね!」



「先生ーー!私全然魔法が使えないのです!もう氷の月から始めて今も使えないのーーなんでー?」


 急に寄って来た女の子が僕のクロークの端を掴んで質問している。


 その手に持っているのは先程ゲオルが言っていた『木の棒』でワンドでは無かった。



 周りの子を見ると何人かは『ワンド』と表示があるがそれ以外は『木の棒』で、僕の鑑定では『木工品』以下だった。



「あのねーその手に持っているのだと魔法は使えないんだ。ちゃんとしたワンドを………」



 それを聞いた女の子は泣きそうだった。


「じゃ、じゃあ簡単な演習を皆でしようか!?僕が簡単な練習法を皆に教えてあげよう!」



「「「「本当ーー?」」」」


「まぁ!まーーーぁ!皆さん!上位魔導師様の特別授業よ!ちゃんと聞き漏らさずに勉強する様に!」



 僕の一言に反応する学長。


 このまま家に返せば貴族の親からは絶対に文句が来そうだと思っていた。


 なんとか補填授業を考えねば!と思っていた矢先の僕の台詞だったようだ。


 乗っかられた〜!と思いつつも、この子達が今までの魔導士プラムとかい言うペテン師に費やしてた無駄な時間が哀れだったので、昨日伯爵達に教えた魔力トレーニングをこの子達に教えようと思った。



 僕は学長から見えない様に腰のポーチを触るふりをして、クロークの中からありったけの魔石(小)を取り出す。



「良いですか、皆さん。今ここにおいた石ころを1個ずつ手に取ってください。因みにこの石ころは『魔石』と言います」



「「「「「「はーい!」」」」」」


 僕のその号令で、一気に雪崩れ込んでくる。


 人数は全部で15人程だった。


「良いですか?皆さんには『魔力』が大なり小なり必ず備わっています。その魔力を上手く扱うことで魔法の伝達を早くしたり魔法の威力や精度を増したりできます。」


「一番簡単な練習法を今から教えますので、実践してみましょうじゃあ全員そに場に座って、木の棒は下に置いてください。」



 僕が木の棒と言ったことで、学長が青褪める……15本全部が木の棒だと思ったのだろう……しかしそれは先程ゲオルが言ったことでもあるので覚えておいて欲しかった。



「魔力は常に身体の周りを覆う様になっています。そして身体の内部には魔力の道があります。その魔力の道を上手く使う練習です。」



「まず、魔石は下の足元に置いてから、両手は僕の真似をしてください。真似をしたら僕の言う通りに想像してください。」


「先程言いましたが、掌は既に魔力が覆っています。その魔力を増やすイメージをします。水が掌一杯にあるイメージです。」



「このイメージを忘れない様にしてください。次にするのは実際に魔力を使う手順です。」



「良いですか?僕の真似をしてくださいね?まず片手の掌に魔石を置きます。その後に反対の手で魔石を覆います。魔石が隠れますが、この両手で覆った中に先程の水があるイメージを作ってください。」



「そうしたら………『まわれ!』って強く念じてください、最初からできる子は居ませんので何度も繰り返して練習しましょう!」



 僕の指示通りにやった何人かが掌に中で魔石が急にクルクル回ったので驚いて開いてしまって失敗したり、興味心に負けて開いてしまったりする。途端に行循環していた魔力が溢れ出し魔石を跳ね飛ばす。



「ああ!飛んで行っちゃった………」


「先生回んないよ〜」


「ひゃぁ!ああーーー回ったけど驚いて開けたら、転がって行っちゃった……」


 皆うっかり開けて転がったり、回せなかったりで悪戦苦闘している。


 アープちゃんは強く念じすぎて掌から茶色の光が漏れ出ている……時折青く光るので水属性も交互に使っているようだ……器用な事をするもんだと思っていたが、男爵は昨日実践済みなので娘の掌から溢れる光を見て感動の余りボロ泣きしていた。



「ヒロ様……こ……怖いです止め方が……l



「ああ!言ってませんでしたね。止め方は念じるのを辞めてください。その後自然と止まります」



「回らない人は繰り返し念じてください。回った人も何度か反復練習を」



 回せる子は1分も満たないうちに、コツを覚え自在に回せるようになった。



「適度に休憩をとってくださいね、この回している間はMPを使いますので、少し回したら必ず休んでくださいね。」



 回らない子には側に行き、順番にやり方をやり直させると魔石を回すことができた。



 不安で魔力が乱れて回せない子が多いようで、手取り足取り教えると使いこなせるようになった。



「はいでは皆さん!良いですか?回すのは一旦終了です」



「今からウォーターの魔法を実践します。」


「ウォーター!」



 僕がそう言うと目の前から水が溢れ出す……量にして2ガロン(9リットル)ほどの水がザバザバ出ると、生徒も学長もビックリする。



「先生ーーーースゴォォイ!プラム先生が出すときは掌に溜まるぐらいなのにーーー」



「先生!一体どれだけの量を生成したのですか!こんな大量に………」


 学長が驚くが僕は意味がわからなかった。


 ウォーターの魔法はレベルに比例する、そして生成量はガロン(英)となっていたが意味がわからないが、僕の場合はLV2ウォーターなのでレベル2ガロン生成する事になる。


 よくよく思い出すと、ガロンは水量の表記で英国と米国だった気がするあっているとすれば、9リットル近くは出ているはずだ……


 今回は量を思い浮かべなかったので、多分まるまる生成して出ているらしい。


「おいおい!ヒロ出し過ぎじゃ!どれだけMP使うんじゃ!」


「え!?ウォーターはMP2消費じゃないですか!コレ出してもMP2ですってば……ゲオルさん!」


 白い目でみるゲオルさんは手を振る。


 どうやら違うらしい……そりゃそうだ……ガロン(量)はさっき思った通りであれば異世界の軽量表記だ………



「い……良いですか!今僕はうっかり『大量魔法』を唱えちゃいました。なのであの量が出ましたが本来はもっと少ないです。なので皆さんは安心してくださいね!?」



「「「「「はーーーい」」」」」



 異世界はいい子ばかりで助かる………


「では、水の精霊に感謝の気持ちと、水にも感謝を込めてから、水を思い浮かべて『ウォーター』と言いましょう!」



「先生!水の精霊は既にもう居ないとプラム先生が言ってましたーーーー」



「はい!授業の度に『精霊は死んでいなくなった』って言いますーー。精霊様はいるんですか?」



「そんな事はありませんよ?水の精霊は水がある所から自由に行き来できます。なので水自体が彼等の住む世界への入り口なんです。ちゃんと水の精霊を意識して魔法を唱えれば、水の精霊も水魔法もちゃんと貴方達に応えてくれます。」



「そもそもの話ですが、誰かが仮に『いない』と言ったとして、言われた事で考えを曲げて自分達が信じなかったら精霊は喜ぶと思いますか?ちゃんと精霊達が喜ぶ事をすれば応えてくれます。」


「良いですか皆さん。プラム先生は残念ですが、水魔導師としては色々な意味で失格です!魔法を使う者は必ず精霊を友として扱う必要があります。それが出来てこそ必ず結果に現れます。先程見たと思いますが、後ろのアレはその力の現れです」



 皆がわかりやすいように、ぶっ壊した魔導士プラムの銅像を指差して話す。



「信じられない場合は、あの『銅像があった場所』を戒めと思って反省して、ちゃんと水魔法の使い手として精進してください。」



「では、皆さんもウォーターの練習をしましょう!サン!ハイ!!」



 そう皆に言い聞かせた僕は、あの水っ子が何かやらかさないか心配しすぎて、恐怖の余り吐きそうだった……

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